You Can Fly
青い顔のフォーサイシアは、ネイビーに支えられてなんとか立っている。
足がガクガクだし、座って少し休めば良いと思うのだが、双子の兄が平然としているから我慢しているのだろうか。
下手に指摘するとプライドを傷つけてしまいそうなので、ここは見ない振りをしよう。
そんなフォーサイシアは自分の気を紛らわす為か、私に話しかけてきた。
「それにしてもサクラは凄いですね。一人で空を飛ぶのでさえ、風属性の使い手でもほんの一握りなんですよ」
「空は飛んでないよ。浮かせただけだから」
自分の近くに浮かせるならまだしも、空高く飛ばすのは難しい。
自分から離れるほど魔力も消費するし、コントロールが難しくなる。
私にはまだ危なくて、そんな事は出来そうもない。
院長は出来るけど。あの人、自分自身を自在に空に浮かせられる。あれこそ、どうやっているのかわからない。
「男性二人をどうやって浮かせてたんですか?」
「物を動かす魔法の応用。練習すれば誰でも出来るよ」
そもそも誰でも使える初級魔法を、わざわざ練習しようと思わない。
属性魔法がある人は、そちらの練習をした方が自分のためにもなるだろう。
私は属性魔法が使えないから、初級魔法の応用を習っただけだ。
しかしフォーサイシアはまだ半信半疑だ。
「それで出来るとは思えないのですが......」
「でも実際出来てるから、それで納得してもらわないと私も困るよ。ただ練習して出来るようになっただけで、小難しい理屈とか魔法原理で説明出来ないから」
詳しい事は院長に聞いて欲しい。
でも院長も脳筋だからな。
『サクラも常識に囚われずに、飛べると信じれば飛べるよ』
なんて浮きながら言ってくるタイプだ。
ピーターパンかよ。
どちらかと言えば院長はフェアリーフェイスだから、妖精役の方が似合うと思う。
魔法の粉だよって言われて塩を振りかけられた方が、まだ飛べる気がする。
そんな話をしている間に、フォーサイシアの顔色はだいぶマシになった。
「すみません、お待たせしました。人が集まらない内にそろそろ行きましょう」
「だいじょぶ?」
「大丈夫だよ、兄さん」
フォーサイシアがネイビーに安心させるように笑いかける。
ネイビーは気遣わしそうにフォーサイシアから手を離した。
フォーサイシアはふらつきもなく立っている。
ネイビーが支えなくても歩けそうだ。
「それじゃ、塀を超えて一気に走ろう。大通りまで出れば人混みに紛れられると思うし」
「塀を?」
フォーサイシアとネイビーが塀を見上げる。
人三人分くらいはある塀に、上には鉄柵付きだ。
うん、余裕だな。
二人が無理そうなら、さっきと同じ要領で浮かせてなんとかしよう。
そう思った矢先。
「もう逃げ場はないぞ」
その声に振り返れば、大勢の衛兵を引き連れた教皇が登場する所だった。
早くない?