フリーフォール
フォーサイシアを人質に取ったはいいものの、唯一の出入口は衛兵に塞がれている。
仮にそこを突破できたとしても、大聖堂の最上階に近しいこの場所から下まで無事に降りれるとは思えない。
いずれどこかで数の多い衛兵たちや、フォーサイシアを助けようとする聖職者に取り押さえられるだろう。
そうなると安全な降り口はここしかない。
私はガラス張りの窓へと向かう。
「こっちから出るよ!」
「うん!」
「え、ちょっと……」
私の言葉に素直に頷くネイビーと、焦った顔のフォーサイシア。
しかしネイビーに捕まれているせいで、フォーサイシアも強制的に窓辺に引きずられていく。
「フォーサイシア様!」
「お前たち、何を……!」
後ろから焦った衛兵が駆けだした物音が聞こえたが、関係ない。
私は窓を蹴破って外に飛び出した。
ネイビーと、彼に捕まっているフォーサイシアも同様だ。
さぁ、地上数百メートルからの命綱なしフリーフォールの始まりだ。
ジェードの時は一人だったし、小柄だったから抱えたほうが速かったけど、今回は成人男性二人だ。
まずはネイビーとフォーサイシアを魔法で浮かせる。
これは『物を動かす』魔法で使う、初歩中の初歩魔法だ。誰でも使える。
流石に人を浮かせるようになるのは苦労したけど、院長に習ったおかげで自分の近くで浮かせるだけなら問題なく出来るようになった。
しかし流石にこのまま重力に従って落ちると大怪我は免れない。
私は大聖堂の壁伝いに窓枠やら少し飛び出した石壁を所々蹴って、加速をいなしながら大聖堂を駆け下りていく。
降りる途中、魔法で狙撃してくるかと思っていたけど、そんなことはなかった。
これが院長だったら容赦なく音速の小石を飛ばしてきて、私を叩き落そうとするだろう。
実際、断崖絶壁を駆け下る修行をした時がそうだった。あの人は遠慮なく足元を狙ってくる。
それで落ちたら院長が受け止めてくれたからいいんだけど、今はそうもいかない。
慕われてるフォーサイシアに感謝だ。
幸いにして上から駆け下りてくる事は想定していなかったのだろう。
地上にいる衛兵は疎らで、出入り口付近にしかいない。
なのでこちらは誰も警戒していない裏庭へ降り立った。
上から指示が届くまで時間がかかるだろうし、少しは時間が稼げる。
ここでようやく二人にかけていた魔法を解除し、二人を地面に下す。
「二人とも、大丈夫?」
「うん! 楽しかった!」
まるで遊園地のアトラクションにでも乗ったかのようにはしゃぐネイビー。
可愛い。幼女かな。幼女だわ。
一方のフォーサイシアは青い顔である。
「申し訳ありません……足が、震えて……少し、待っていただけますか」
高い所が苦手だったのかな。
もしくは絶叫系のアトラクションが苦手なタイプだったのだろうか。
悪い事をした。