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この世界でのお仕事

 数字と文字と紙束の山。片づけても片づけてもキリがない仕事。

 ブラック企業に勤めていた前世の夢? いやいや、現実です。


「お疲れ様でーす」

「お先しまーす」


 先輩方がどんどん帰っていく中で一人取り残される孤独。

 あ、ちょっと前世を思い出して泣きたくなってきた。


「サクラさん」


 声をかけられて肩が跳ねる。

 振り返ればラスボスの側近であるアンバーが後ろに立っていた。


「まだ終わらないんですか?」

「は……はい」


 答えが若干涙声になっていたかもしれない。それを見て、アンバーは眼鏡を直しながらふっと笑った。


「サクラさん―――明日出来ることは明日やればいいんですよ」

「いいんですか……?」

「当然じゃないですか」


 首を傾げるアンバー。

 前世ブラック企業勤めだった私からは信じられないが―――現在17時。先輩方は定時で普通に帰っただけである。

 それだけではなく新人でも休暇は遠慮なくとっていいって言われるし、王宮だけあって給料は高いし、福利厚生は充実してる。

 あまりのホワイト企業ぶりに思わず叫んだ。


「ここで働かせてください!」

「もう働いてますよ」

「そうでした! 頑張ります!」


 仕事は忙しいけど、こんなの頑張って働くしかないじゃないか。

 こちとら身寄りのない孤児だぞ。

 仕事先を斡旋してくれた院長に感謝の念しかない。勝手に決められたけど。おまけにラスボス陣営だけど。

 ラスボス陣営に会ったあの日、了承してくれたからもういいよねとばかりにあっという間に孤児院から王宮にドナドナされて仕事場に放り込まれた。使用人か何かで掃除でもさせられるのかな、とか思ってたら普通に事務作業のあるめちゃくちゃ忙しい部署だった。

 なんでだ。普通に15歳にさせる仕事じゃないぞ、中身大人だからいいけど。

 この世界に児童労働を禁止する法律なんてなかった。あるのは成人したら孤児院から放りだされる現実のみ。世知辛い。

 この部署、周りも給料目当ての弱小貴族出身とか、才能があるけど一般育ちな優秀な人材がほとんどで偉ぶる貴族とかいないから過ごしやすいのもいい。皆親切だし。なんでもお偉いさん方からは忙しすぎるから敬遠されてるんだと。


 仕事舐めてるのか?


 ちなみに好待遇に胡坐を掻いてサボったりしているとあっという間に他部署に飛ばされるらしい。他はお偉いさんが幅を利かせているから、忙しいけど絶対にここで仕事し続けたいと同じ部署の先輩方が皆揃って言っているくらいだ。


 クロッカス殿下、なんであんなに悪い噂しか流れてないの?

 こういうところはゲームと関係ないから評価されないんですか?


「サクラさん?」


 世の理不尽を嘆いていたら、アンバーが訝し気に問いかけてきた。


「あ、すみません。でも、ここまで終わらせておきたくて……」

「真面目ですねぇ。ちょっと失礼しますよ」


 やれやれと言った顔でアンバーが隣に腰掛けてくる。

 新人教育なのかなんなのか、アンバーは私の様子を見に来て普通に仕事教えてくれるし手伝ってくれる。しかも教え方がめちゃくちゃ上手くてわかりやすい。正直助かる。


 この人、仕事中はまともだ。それ以外では会いたくないけど。


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