共闘?
フォーサイシアは暫く肩を震わせていたが、やがて決意したように顔を上げる。
「父が兄にした事も、子ども達にした事も見過ごせません。私も父の企みを暴くのに協力させていただきます」
心強い言葉だ。
フォーサイシアがいれば大聖堂にも入り込めるだろう。怪しまれないように上手く誤魔化してくれるに違いない。
しかしジェードはフォーサイシアを疑うように目を眇める。
「教皇が子どもを攫って何を企んでいるか知らないけど、それを暴いたら貴方も今の立場にいられなくなるんだよ。それでもいいの?」
「構いません。そもそも虹の女神を信仰する者として、人々を苦しめるような事を見過ごすわけにはいきませんから。貴方方に出会えたのもこれも女神のお導きなのでしょう」
フォーサイシアが祈りを捧げるように胸に手を当てる。
フォーサイシアは真面目に虹の女神を信仰していて良かった。
そもそも乙女ゲームの攻略対象なんだから、悪役サイドでない限りそんなに性格悪く設定しないか。
ジェードがフォーサイシアと話している間に、私はそろそろ恥ずかしくなってきたのでジェードの手から自分の腕を引き抜こうとした。が、なぜか更に力を込められて腕を引き留められてしまった。
なんでだ。指を絡めて恋人繋ぎみたいになってるんだけど、ジェードは恥ずかしくないのか?
いつまでも姉離れしないジェードの事は諦めて、私はフォーサイシアに尋ねる。
「そもそも子どもを攫っているのは何故だか知ってますか?」
「わかりません。ですが、このところ父が自室に籠っていたり、どこかに度々出かけていたのは知っています。恐らく、父の自室には何か手がかりになるものがあると思うのです」
やっぱりそうなるのか。
ゲーム的にも多分そうだよね。
そうなると、ここからは潜入捜査になる。
『王の影』であるジェードに任せた方がいいだろう。
先ほどはジェード一人で突入しようとして心配だったが、フォーサイシアがいれば難なくこなせるだろう。
今度は安心して見送れる。
ジェードもそのつもりなのだろう。名残惜しそうに私の手を離すと、フォーサイシアに向き直った。
「じゃあ案内してくれる?」
「申し訳ありませんが、貴方の同行はお断りします」
ジェードの申し出をフォーサイシアは笑顔で却下した。
予想外の返答にジェードが目を剥く。
「何でですか!? 今、協力するって言ってくれたじゃないですか!」
私も驚いて思わず声をあげてしまった。
「協力しますが、それは兄さんを助けてくれた彼女を信用したからです。そちらの方は信用出来ません。ね、兄さん?」
「うん」
ネイビーが何の躊躇いもなく頷いた。
純粋な眼差しが今は辛い。
「ジェードも信用できますよ!? 私が保証します!!」
「そうですか? そういえば彼は女王陛下の所で見かけたことがありますね。私から女王陛下に伝えられるとまずいのでは? それにわざわざ変装までして怪しいですね。父の件だけでなく、関係のない教会内の機密文章まで盗まれては困ります。兄も怪しんでいますし、彼はそういう仕事をなさっているのでは?」
思わずジェードを横目に見ると、そっと目を逸らされた。
流石『王の影』。油断も隙も無い。
でも今は控えてほしかった。
「そういうわけで、ご案内できるのは彼女一人です。貴方はお引き取り下さい」
ジェードが歯噛みしながらフォーサイシアを睨むが、彼の笑顔は崩れない。
これはやっぱり私が行くしかないのか?
なんで? ゲームなら本来ジェードはここにいないはずだから、シナリオから弾かれてるのか?
それを言うなら私はモブだぞ。一番関係ないわ。
失敗したら捕まって最悪死刑かもしれない。
しかしフォーサイシアが折れないなら、大聖堂に入り込むのは困難を極める。
私は諦めと共に覚悟を決める。
死亡フラグがなんだ。成功させればいいんだ。
胃がキリキリしながらも、いつの間にか伏せていた顔を上げてフォーサイシアの方に向き直る。
「わかりました。私が行きます。ジェードはグレイ隊長に今までの経緯を報せてきて」
「サクラ……」
「フォーサイシアがいれば大丈夫だよ」
ジェードを安心させるために笑顔を作ったのだが、何故かジェードは悔しそうな顔で拳を震わせていた。
私を危ない目に合わせるのが嫌だったんだろう。姉思いのいい子だ。