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双子

 私が今までの経緯を話し終わると、ジェードは深いため息をついた。


「事情はわかったよ。子どもを攫って何か企んでるのは教皇だろうけど……今のままだと教皇本人を捕らえるのは無理だろうね」

「え!? なんで?」


 大聖堂の地下に子どもが沢山囚われてて、ネイビーが証言すれば流石に犯人として捕まると思ったんだけどな。


「大聖堂の地下を悪用した『教会の人物』がいればいいから、部下に罪を擦り付ければいいだけだよ。ネイビーだっけ? その子だって『魔法陣が刻まれて頭がおかしくなっている間に見た幻覚だ。息子をずっと探してた』とかなんとか言えば良いだけだよ。教皇の権力なら、多少の無理も通るでしょ」

「権力者、汚い……」


 考えてみれば今まで見た権力者って、基本的に優しくて穏やかなクロッカス殿下だけである。

 あの人はあの人で無欲すぎて問題があるけど。


「サクラが隠し金庫から見つけた手紙にも名前は記載されてなかったんでしょ? そうなるとやっぱり厳しいと思うんだ。もっと確実な証拠があれば話は別だけど」

「確実な証拠って……」


 私とジェードは一緒に大聖堂を見上げる。

 自分が失脚しかねない証拠なんて処分するか、手元に大事に保管してあるかのどちらかじゃないだろうか。

 処分されてたらしょうがない。

 けれど、これがゲームのシナリオだと仮定すれば、確実に教皇の私室か何かに証拠が保管されているだろう。

 そして教皇の私室なんて、警備の厳重な大聖堂の中枢にある。


 女王陛下であり、主人公のアイリス以外無理では?


 思わず頭を抱えそうになった。

 やっぱりモブには限界がある。

 そんな私とは違って、ジェードは何かを決意したように拳を握りしめて私を見つめる。


「僕が何とか潜入してくるよ。その間にサクラはここから出て、グレイ隊長に報せて。サクラと一緒にいた兵が戻ってれば事情をわかってくれるはずだし、子どもたちを早く助けてあげなくちゃ」

「でもそれだと、ジェードが危ないよ」

「危険は承知の上だよ。それに院長から命令されているから、手ぶらでは帰れないよ」


 ジェードの目は決意で満ちている。

 『王の影』の仕事もそうだけど、ジェードも私と同じで孤児院出身だ。同じような境遇の子が囚われて、元凶が野放しにされるのは見過ごせないのだろう。


「それなら私も……」

「サクラはダメ。これ以上、危ないことに足を突っ込まないで。僕は仕事だけど、サクラは違うんだから」


 ジェードの決意は固い。

 しかし私にも反論がある。


「でも潜入するって言ったって、一人じゃ無理があるでしょう。すぐバレて捕まったら元も子もないよ。教会内に味方がいれば話は別だけど、協力してくれる心当たりなんてあるの?」

「それは……」


 ジェードが目を逸らして口を閉ざす。

 考えなしで行ってもこっちが捕まるだけだろう。

 周りは敵だらけと考えてもいいくらいだ。

 私もジェードも黙り込んでいると、思わぬ人物が口を開いた。


「きょうりょく? わかった!」

「え?」

「すぐ、くる」


 ネイビーは笑顔で大聖堂を指さした。


 来る? 何が? 誰が?


 困惑して思わずジェードと顔を見合わせる。

 暫くすると、誰かがこちらに駆けてくる足音が聞こえた。

 足音からして一人だ。

 こちらは石像と草木の影に隠れて人目につかないようにしているのに、迷わず真っ直ぐとこちらに駆けよってくる。

 思わずジェードと共に臨戦態勢に入るところだったが、ネイビーが嬉しそうに声を上げたので暴力からコミュニケーションを取らなくて良くなった。


「フォー!」

「兄さん!」


 現れたのはフォーサイシアだ。

 普段の憂いを帯びた表情は何処へやら。全力で駆けつけてきたのだろう。息は絶え絶え、髪も風でボサボサだ。

 しかしフォーサイシアはそんな事を気にも留めず、ネイビーに抱き着いた。

 ネイビーも嬉しそうにフォーサイシアを抱きしめる。

 

 私とジェードは双子の熱い抱擁をポカンとした顔で見守るしかできなかった。


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