大聖堂
暗い廊下を駆け抜けると、目の前に石の階段が現れた。
しかし階段の先は同じような材質の石で塞がれている。
これはゲーム的に何かの仕掛けで開くパターンだ。
「サクラ、これ!」
ネイビーが階段の横の壁を指差す。
そこにはまるで押してくださいと言わんばかりに一部だけ石が迫り出していた。ぱっと見でボタンみたいに見える。
罠かもしれないけど、他に開く仕掛けがあるように見えないし、押してみるしかないだろう。
「ありがとう、ネイビー。ちょっと離れててね」
私の言葉にネイビーは素直に下がってくれた。
私は再度聴覚を強化して上の様子を探る。
どうやら外に通じているようで、近くには一人しか人はいないようだ。その一人も辺りを彷徨いているだけで、こちらを見張っている様子はない。
不意打ちすれば気絶させて無力化出来るかな。
相手に気付かれる前に倒せって院長も言ってた。
そう決意して強化を解除する。
途端に迫り上がってくる吐き気と耳鳴り。一瞬目の前が霞んだ。
「サクラ?」
ネイビーの声で現実に戻る。
そうだ、今倒れたり吐いたりしている場合じゃない。
幼女を守らねば。
自分に喝を入れて足を奮い立たせる。
「大丈夫。ネイビーは私がいいって言うまで隠れててね」
罠の可能性を考慮して、ネイビーには待っててもらい、覚悟を決めてボタンを押す。
すると階段の先を塞いでいた石が音もなく横にスライドして、階段の先が開いた。その先には夕暮れが見える。
私は階段を駆け上がって、その先に飛び出す。
階段の先は一見、公園のようにも見えた。草木が生い茂り、私の出てきた付近だけ石畳で整備されている。
そして私の目線の先には聴力強化で確認した通り人がいた。
彼は飛び出してきた私を見て目を丸くする。
「サクラ!?」
「ジェード!?」
「「こんな所で何してるの!?」」
そこにいたのは祭服に身を包んだジェードだった。
見慣れた執事服とは雰囲気がガラッと変わるが、元々天使のように可愛い顔立ちなので全く違和感がない。
流石、攻略対象。顔がいい。何でも似合う。
ジェードは慌てて私に近づくと、声を落として話しかけてきた。
「僕はあの方……院長に『教会で怪しげな動きがあるから調べてきて』って無茶ぶりされて……。僕もサクラと一緒に孤児院に行きたかったのに……」
そういえばジェードを誘った時に、仕事があるからって断られたんだった。『王の影』の仕事だったのか。
そして院長のパワハラはまだ続いているらしい。
再会した時に殴る案件が増えたな。
決意していると、ジェードが怪訝な顔で更に問いかけてきた。
「サクラはなんで大聖堂の裏庭なんかにいるの……?」
「え?」
ジェードに言われて、そっと背後を振り返る。
そこには三体の石像が並んでいた。
虹の女神、女神の子ウィステリア、そして雪の妖精の像。
その更に後ろには荘厳な大聖堂が鎮座していた。
この国の誰もが知っている、この国で虹の女神を讃える宗教の総本山だ。
こんな所に転移してきてたのか。