第3章~侵入・後編~
ガチャン。扉が開く。
罪人 おっ!誰だ?お前ら?捕まったのか?
罪人 いや、門番がいねえぞ!!もしかして倒したんじゃ。
罪人 おい!兄ちゃん!出してくれよっ!
罪人 頼むっ!何でも欲しいもんやるからよっ!
罪人 なあ!あんちゃん助けてくれよ!
扉を開けた先の通路には、罪人が捕らえられている牢屋が両脇にあった。尋常ではない目付きや雰囲気の罪人達を横目に、俺達は何も発することなく真っ直ぐに進んだ。
陽太 ふーっ!
治郎 もう少しだ!
陽太 よし。開けるぞ。
重たい引戸をズズズズッと開けた。
さっきより狭い。四隅に松明が焚かれているが、火が弱くて視界が悪い。
灰原 湿った服の臭いがするねぇ。入るときは声ぐらいかけておくれよ。
陽太 よく見えない。
治郎 ん?、女?
灰原 あらまぁ。荒くれもんの竜ちゃんかと思ったら。可愛い坊やかい。どうやってここに来たのかしらねぇ?
女だ。でも刀を持ってない。何だ?だが身なりは武士だ。いや、何か地面から出てる。ん?柄か?あの女のすぐ近く。地面から刀の柄だけが出てる。怪しすぎる。俺達はすぐに刀を抜いた。
灰原 あら、物騒だねぇ。そんなもの出しちゃって。怖いわぁ。
ズブズブズブッ。
治郎 おぉおぉおぉ!足が沈むぞっ!
陽太 さっきまで普通だったのに!くそっ!
急に俺達の足元の土が緩みだし、どんどん身体が飲み込まれていく。これがあいつの技なのか?だとしたら。
陽太 治郎!暴れるな!落ち着いて!
俺は刀を緩んだ土に向かって差し込んだ。そして、刀の柄に力をかけながら身体を抜き出すことに成功した。
陽太 やっぱり。、治郎!俺の刀を掴んで!
治郎 うえぇえぇえ!?手が切れちゃうよ!
陽太 大丈夫!刃の反対を両手で掴んで!早く!
治郎 もうわかったよ!ひいぃっ!
陽太 うぅうぅうっ!よいしょっ!
治郎 助かった~!ありがとう陽太!
この刀の力。本当に相手の技を吸収できるんだ!、まるで鏡みたいだ。戦った相手の刀を白羽の刀に交えれば。使える技も増える。ん。と言う事は、あの女の刀はこの土。
灰原 白い刀ねぇ。何であんたみたいな坊やが、名刀を使っているのかしら?まぁ、聞いても無駄か。もう、その刀は私が貰うことになる。許してね。
そう言うと灰原はゆっくりとしゃがみ、地面に差してあった柄を持ち、ズズズッと刀を抜くと、その灰白い刀身を見せた。
灰原 左官職人が仕上げた石灰を纏ったこの刀。不純物を取り除き、更に刀を強くする。土との相性もばっちりなの。坊や達、私を楽しませてね。
この暗さに目が慣れてきた。雷男のせいで、まだ手が痺れて痛い。ここは治郎と協力して。
灰原 土刀、針土竜。
灰原は勢いよく地面に刀を刺す。
ズバッ!
陽太 くっ!何だ?急に下から刀が!?
陽太の目の前の地面からいきなり刀が突き出されて来た。
灰原 あら残念。避けるの上手ねぇ。、なんてね(笑)。土刀、粗土。
地面から突き出た刀から茶色いトゲが生えてきた。
ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!
陽太 トゲが飛んで来た!くそっ!っ痛!!
治郎 あっぶねぇ!陽太!大丈夫か!?
灰原 あ~ら。綺麗なお顔が傷だらけ。可哀想に。
遠距離の攻め方なのかあの女は。刀はどこから出てくるかわからないし、トゲまで飛ばして来る。全然近づけない。
灰原 ねぇ。物足りないわ。今までとは違う戦い方だったかしら?そんなんじゃ簡単に死んじゃうわよ。
もう一回。出せるか雷。この距離を縮めるには雷の速さじゃないと無理だ。
陽太 なめんなよ土女!?
治郎 陽太、秘策がある。こっちにあの女を引き付けてくれ!
陽太 やってみる!
灰原 そうこなくっちゃね。潰しがいがないわ!
俺は刀を鞘にしまい居合い斬りの構えで集中した。頼む!時間がない。早く奥にいる無実の人を脱獄させないと。
バチッ!、バチバチバチッ!
陽太の鞘から電撃がほとばしる。
灰原 馬鹿ねぇ。まぁやってみなさい。、土刀、凍土!
灰原は地面に刺した刀を抜き、刀身に吐息を吹き掛けた。
パキパキパキパキッ!
すると、ゆっくりと灰原の刀がキラキラと光り、石灰の刀が薄い氷に覆われた。
陽太 雷刀、稲妻!!
バチバチバチッ!
灰原がすぐ地面に氷の刀を突き刺した。
灰原 雷は私には効かないわ!
陽太が素早い動きで灰原に近づき刀を抜き振りかかった。すると瞬時に灰原の正面に土壁が地面から突き出てきた。
バキバキバキバキッ!
陽太 壁!?防がれた!
陽太の斬撃は土壁に大きな傷を残した。その後、氷が混じった土となりサラサラと崩れ落ちた。灰原がいたそこには灰原の姿が消えていた。すると陽太の後ろの地面から灰原が現れてきた。
灰原 フフフフフッ!距離を詰めようと考えた事は褒めてあげるわ。でもね、私の土には雷は通らないの。残念だったわね。あとちょっとだったのにね。、まあ頑張った坊やは後でゆっくり殺すとして。先にぼーっと突っ立ってた坊やから頂こうかしら?アハハハハッ!
治郎 ご指名ありがとうございます!これでも食っとけ土ババアッ!!
ブンッ!
灰原 カァハァッ!、ん?、ペッ!、黒い玉。
治郎 毒玉だよ。外れると思って三粒まとめて投げたけど、入ったみたいだな!
三粒?、私の手の平には二粒しかないわ。
ドクンッ!
灰原 ハァアァアッ!、頭が、クラクラするわ!、くぐっ!、立ってられない。坊や、一体、何を、、。
灰原は泡をふきながら倒れ込んだ。
陽太 治郎!秘策って!
治郎 ああ!好実からもらったきのこの毒玉だよ!これで数時間は身動きできない。山にいるときに一粒試しに食べたんだ。大丈夫!死にはしない。
陽太 治郎!そんな事、いつの間に!
治郎 やっと俺が活躍できたぜ!
陽太 さすが治郎!ありがとう。
そして、女が耳飾りとして付けていた鍵を取り外した。扉を開ける前に治郎の塗り薬を身体の傷口に塗った。後少し。地図の限りだと次が最後の間だ。あの女が立っていた後ろにある扉の鍵を開けて先を急いだ。
罪人 誰だ?
罪人 先には行かない方がいい。
罪人 命知らずか。
罪人 死にに来たんだ。ほっとけ。
罪人達が珍しそうに俺達を見る中、俺達は真っ直ぐに次の引戸に向かって歩いて行った。
治郎 最後の間だな!
陽太 ああ!もう少しだ!
ズズズズッ!
重たい黒い引戸をゆっくりと開けると、さっきよりもまた狭い部屋が見えた。そこには、天井に吊るされた無数の蝋燭と地面に突き刺さる幾つかの黒い棒だった。
円火 うん?、お客さんかい?
治郎 何だこの黒い棒は?
治郎は入口の側に刺さる棒に触れた。
陽太 バカ!無闇に触るな!
ジュッ!
治郎 あっちいぃい!!、手が!ちきしょう!
円火 それに触れる時は気を付けた方が良い。皮膚だったら簡単に溶けちまう。まあ、触れたらの話だがな。
陽太 何やってんだよ!大丈夫か?
治郎 右手が、、ぐじゅぐしゅだよぉぉ。
あぐらをかいていた円火がゆっくり立ち上がる。壁に掛けてあった刀を取った。
円火 滅多に来ないお客さんだ~。理由は大体わかる。俺の後ろの部屋にいる奴が目的だろう。今日は生憎ここの看守が会議で出払っててね。そんな最中のあんたらだ。ここまでご苦労だったな。
円火は鞘から刀を抜き、右にある壁に刀の刃先を付けた。
円火 ここがあんたらの火葬場だ。
壁に付けた刃先から赤い火花を散らしながら円火の持つ刀は地面に向かって振り下ろされた。
ズアァアアンッ!
陽太 刀が燃えてる。治郎、早く手の手当てを!
男の刀は黒く、刃先に向かって赤白く燃えていた。火の刀なのか?男の圧が凄い。
円火 恐れるな。この刀は備長炭職人が作った刀。炭は時に鉄よりも固くなる性質を持つ。そして熱を帯びる。この内側に溜まる灼熱の熱さが、刀をより強くする。
俺は刀を抜いた。じんわりと額に汗が滲む。落ち着け、こっちは二人。勝機はある。
円火 俺の名は円火!、始めるぞ!、火刀、火花!
ガッ!
円火は刃先を地面に刺した。その瞬間。
バチバチバチッ!バチバチバチッ!
地面に刺された幾つもの黒い棒が赤黒い熱棒に容姿を変えた。
俺は黒い棒から飛ぶ火花を咄嗟に服で防いだ。
治郎 あっち!あっち!あっつぅ!何だよあいつ?只の放火魔じゃん!
火花の音が弱くなり、俺は服から顔を覗かせた。円火が俺に迫っていた!
ガキッ!
激しく刀がぶつかり、円火の刀から火花が飛ぶ。
円火 熱いか?、この狭い部屋にこれだけの熱が溜まれば、先に身体が悲鳴を上げるだろう。早くしないと命はないぞ!
陽太 くうぅ!そっ!!
今までの戦いで身体の疲労が集中力を下げる。肌が着ている服に触れる度に熱い。吸う空気はまるで熱い蒸気の様だ。円火の刀は火、だったら水か!
陽太は円火と距離を取った。
陽太 フンッ!、治郎!瓢箪くれ!
治郎 あっ?これかっ!ほいっ!
治郎が肩から掛けていた水の入った瓢箪を陽太に投げた。
パシッ!
陽太 ありがとう!、頼むぞ。雨刀。
チュポッ。瓢箪の蓋を開ける。
陽太は瓢箪を口に入れ、口一杯に水を含んだ。そして、真上に吹き出した。
ブゥウゥウウッ!!!
陽太は吹き出した霧の中から、一粒の水滴を狙い指で弾いた。
陽太 雨刀、霧雨。
パチッ!
その瞬間、部屋全体が濃い霧に包まれた。
円火 ほう。水か。考えたな。
陽太 よし。視界は奪った!、あの女の刀技で攻める!
陽太は刀を強く握り、地面に向かって深く突き刺した。
円火 だが俺が何故最後の間にいるのか?、その理由が分かっていないな。火刀、狂炎!
円火は刀を頭上で回転させた。刀からは火花を散らしながら赤い炎が燃え上がる。さらに回転が早くなると、円火を包むかの如く炎の滝が流れ落ちていた。
陽太 何だ?刀が進まないっ!
ブアッ!
熱風が濃い霧を気化させてしまった。
円火 水も、土も、俺には効かん!こざかしい技なんか使っても己の体力の無駄だ!
治郎 化けもんだ!あいつは火の化けもんだよっ!
陽太 くそっ!全然歯が立たない!
円火 もうよい!、格の違いが分かっただろう。終わりにしよう。走馬灯でも見ておけ!
陽太 治郎!動けるか?
治郎 おう!馬の油と布巻いて完璧に治った!
陽太 あとちょっとだ!頑張ろう!!
円火には今までの技は敵わない。だけどこんな所で死ねない。死ねる訳がないんだ!俺の家族!治郎の家族!みんなを守る為に!俺はここまで来たんだ!、信じろ!この刀にどれだけ助けられてるか!円火を倒してここを出る!治郎と一緒に!
円火 思い出作りは終わったか?、哀れだな。、蛍火。
ポッ。
円火の刀の刃先から小さなぼんやりと輝く光が強弱をつけながら燃え出した。そしてその光は、刀身全体を黄色く変化させる。さらに刃先から徐々に黄色から赤く染まる。
バチンッ!
激しい火花が散った刀は、赤みを帯びた黒い刀となって現れた。
円火 火刀、炎心。
円火は黒い刀を両手で持ち、顔の横に刀を上げて構えに入った。
治郎が陽太の前に立った。
治郎 来いよ放火魔!焼肉にしてやるよ!
ビュンッ!
円火が勢いよく治郎に向かった。
ガキンッ!
治郎 くっ!!変な刀だなあ!!
円火 お前は邪魔だっ!おらっ!!
円火が治郎の胸ぐらを掴み、背負い投げで円火の後ろに倒した。
治郎 おぅふっ!たぁー、いってぇ!
ガキンッ!
陽太と円火の刀がぶつかる。キンッ!ギンッ!ガッ!ギャイン!激しく振り合う刀が火花を散らしながらぶつかる。
さっきよりも刀の振りが重くなってる。俺の刀が折れそうな勢いだ。
治郎が布でぐるぐる巻きにした右手で地面に刺された赤い棒を引き抜いた。
治郎 おりゃあぁあ!!
円火 フンッ!、お前、炭刀を!?
陽太 おらぁあぁあぁあ!!!!
陽太は治郎が作った一瞬の間を突いて、円火に刀を強く振りかかった。
ガキッ!!
円火 ぐっ!
円火は治郎の炭刀を弾いた後、陽太の刀を防ぐ為振り向いた。左手で刀身を支えながら右膝をつき陽太の刀を防ぐ。
あの邪魔なやつのせいで反応が遅れた。くそっ!体勢が悪い。
陽太 火には火を!!、刀に魂込めろおらあぁあぁああ!!!
俺は震える手を強く握り直し、火の力を出してくれと強く念じた。
円火 力が、増してる。ガキが侮るなよ。おぉおおおおおおお!!!!!
陽太 鏡刀!燃えろおおおおおおおおお!!!!!
すると、陽太の刀が白色から瞬時に赤白く染まり始めた。グンッ!円火の刀に陽太の刀が食い込む。円火の左手からは血が滲んでいる。
陽太 行けえぇえぇえええええええ!!!!!
陽太の刀が徐々に円火の刀に食い込んでいく。
円火 おぉあぁあああ!!!!!
ズバンッ!!!
円火 ぐあああ!!!
陽太の刀が円火の刀を貫き、その勢いで円火の左腕を肩から斬り落とした。
焼け焦げた臭いが俺の鼻についた。
陽太 治郎!手は大丈夫か!?
治郎 ぐるぐる巻きにしてたからな!
陽太 こいつの腕、治るのか?
治郎 焼け切れて、細胞が死んでるだろう。ここまでくるとダメだ。とりあえず、切れた断面だけ治療しとく。
陽太 そうか、。
円火 俺に、触るな。どうなるか、わかってるのか?、脱獄させるというこ、、。
治郎 気失ったな。
素早く治郎が傷を治療してくれた。俺は刀を拭き鞘に収めた。最後の間の円火のいた後ろには引戸があった。鍵は円火の刀の鞘に付いていた。
陽太 先を急ごう!
治郎 よし!行こう!
カチャン。
鍵を開け黒い引戸をズズズズッと開ける。開けた先には短い通路があり、その奥には檻の中にいる人が見えた。
陽太 あの人か?
さらに歩を進め、檻の扉を開けた。そこには地面から出た太い紐で両手を縛られた男が暗い表情で俯いていた。
治郎 おい!助けに来たぞ。
俯いていた男が顔を上げた。
紫 え?、誰ですか?、あなた達は?
陽太 あなたを助けるよう頼まれて来た者です。
治郎 名は何だ!?
紫 助けてくれる。、え?、あ。私は、紫です。紫六度と言います。
治郎 変な名前だな!
陽太 紫さん!あまり時間がありません。早くここから出ましょう!
紫 でも、手縄が。
ザクッ!
陽太が刀で男の手縄を斬った。
陽太 追っ手が来るやもしれません!早く!
紫 あ、はい。ん、あっ!あの、、前に食事を持ってきてくれる男の人の話で。、ここのすぐ側の間に、地上と繋がる籠車があると。それに食料や荷物を運搬してるので、人だけなら三人は乗れると聞きました。
治郎 陽太!それって。さっきいた間の事じゃ?
陽太 よし!急ごう!
そして、俺達は来た通路を戻り、最後の間に引き返した。すると、大分炭の燃える熱が充満しており、かなりの熱気に包まれていた。
治郎 あっつ!、どこだ?
陽太 あ!、あそこ?、俺達が入ってきた所の横!
入口だった引戸の側に、身長の半分程の高さの穴が壁に空いていた。そこを覗くと、上から二本の縄がぶら下がっていた。
陽太 治郎!やっぱりこれだ!
治郎 紫!でかした!
紫 あ、ありがとうございます。
ギッ!ギッ!ギッ!ギシギシ。
俺と治郎が一本の縄を引っ張ると木で造られた籠車が少しずつ上に動いた。さすがに三人の体重を疲れきった二人で引っ張り上げる体力は無くなり、途中で紫さんも加わった。段々と新鮮な空気が吸える感覚になり、俺達は何とか地上へと戻る事ができた。
治郎 ぶへぇー!、もう無理。動けない!
陽太 もう外が暗い。まだ追っ手はなさそうだな。
紫 お、お二人共、何と言えば良いか。感謝します。
タッタッタッタ、タッタッタッタ!
二人の男が近づいてきた。
松 紫様!ご無事で何よりです!、さあ、人力車を用意してございますので!急ぎましょう!
紫 松!、わかった。急ごう!
放浪人 僕を覚えていますか?
陽太 あの時の放浪人?
治郎 え?誰だ?
放浪人 追っ手が来る前にここを離れましょう。ご両親が身を隠す所まで連れていきます。
陽太 でも、着くまでにかなり時間が必要じゃ?
放浪人 大丈夫です。忍の者が使う道を知っておりますので。早く!
そう言われ、俺達は早々に蔵後収容所を離れた。あの紫と言う男の姿はもう見当たらなかった。
松 紫様。本当にご無事で何よりです!
紫 ああ。にしても遅かったな。準備は出来てるか?
松 全て順調に。
紫 看守には挨拶出来なかったな。まあいい。江戸は間もなく焼け野原になる。
・・・
陽太達が脱獄してから三十分後。
松平 おいっ!どうなっている!?
佐藤 松平看守!収容所の罪人は紫以外は逃げておらず!怪我をしてる門番は現在、薬屋にて治療を受けております!
松平 俺が京都へ会議だと言う時に。ったく!紫の野郎!、もう一度現在の状況を確認しろ!、情報が整理出来次第、俺は山盛将軍に報告へ行く!紫の捜索状は人相付で書かせろ!いいな?
佐藤 はい!!
松平 雫が近くのよろず屋まで這いつくばってまで行ってたとは。、あいつのお陰でここまで早く帰って来れたが。遅かった。
・・・
脱獄決行から十四日後。
放浪人 ここの村です。僕はすぐに拠点に戻らなければならないので、これで失礼します。お身体を大切に、では。
タッタッタッタ!
治郎 本当か?、俺の父ちゃんと母ちゃんもここにいるって話。
陽太 わからない。とにかく行ってみよう。
俺達は、連れてこられた村で一番大きな茅葺き屋根の家に向かった。
ドンドンドンッ
俺は玄関の引戸を叩いた。
陽太の母 はい。どちら様、?、陽太!!!
陽太 母さん!帰って来た!
陽太の母 (溢れる涙を拭う)、ちょっと!あんたっ!!陽太が帰って来たよ!!
ダッダッダッダッダッ!
陽太 陽太か!?、おぉう!!無事か?疲れた顔してんな!大丈夫か!?早く中に入れ!!
陽太の母 治郎くん!おかえり!、父さんと母さんは隣の家に居るから!一緒においで!
治郎は、陽太の母に連れられ、すぐ隣の家に向かった。陽太の父の声がでかかったからか、家に向かう途中で引戸から治郎の両親が出てきた。
治郎の母 治郎!
治郎の父 てめえ!心配させやがって!
治郎 父ちゃん母ちゃん!、俺な!武士になったぜ!
ガシッ!
治郎は両親に強く抱き締められた。
治郎の父 その手、どうした?火傷みてえな痕だな。薬屋は手が命だ。大事にしろってあれだけ
治郎の母 いいじゃないの!ちゃんと無事に帰って来れたんだから!さあ、早く家に入って!、北山さんありがとう。
陽太の母 うん。こちらこそありがとう。
その後、俺は温かい母さんの手料理を食べた。やっと心が落ち着いた。俺は汚れてるからと、父さんが風呂を沸かしてくれた。身体が芯から温まり、固まった筋肉がゆっくり解れていった。風呂を出た頃には、今日までの話をする元気もなく、敷かれた布団に倒れ込むように眠った。
・・・
次の日。
治郎の母 治郎。好実ちゃん。あんたが帰ってくるの、ずっと心配してたのよ!、父ちゃんが薬を売るついでに、たまに好実ちゃんの様子を聞いてたみたいだから。早いうちに好実ちゃん家に行っておいで!
治郎 そうだ!、わかった。今から行ってくる、、、。
ドンドンドンッ。
治郎 ごめんくださーい!
好実の母 はいはいはい。今行きますよー!
玄関の引戸がサザッと開いた。
好実の母 あら!治郎ちゃん!やっと帰って来たのね!、よかったー。大丈夫だった?
治郎 もう身体中痛くて。、好実います?
好実の母 それは大変。うん。いるわよ!、たぶん今、部屋で着物繕ってると思うから。おどかしてやって!、この突き当たりの襖、閉まってる所だから!
治郎 着物なんか作ってるんですね。じゃ、お邪魔します。
治郎は草鞋を脱ぎ、居間を通り好実の部屋に向かった。
トントンッ
治郎が襖を軽く叩いた。
好実 何?
治郎 ・・・
好実 母さん?、ん?、誰よ?
治郎 俺だよ!
好実 え。治郎?、入って良いわよ!
スルスルスルっと、治郎は静かに襖を左に開けた。
治郎 おう。立派な男、治郎が帰ってきたぞ!
好実 (、、、治郎だ。無事だったのね。)入ったら襖閉めて!
治郎 あぁ、悪い。
・・・
好実 それで!一人で逃げて帰って来た訳?
治郎 いいや。陽太と二人で目的を果たしたんだ。陽太も俺もこの通り、無事だ!
好実 そう!、じゃあもう武士ごっこは終わって、やっと薬屋の息子に戻るわけね!
治郎 只の薬屋じゃねえ。武士の影を持つ薬屋だ!惚れんじゃねえぞ~。
好実 馬鹿らし!、村から出て、帰って来ても馬鹿は治んないのね?治郎が元気なのはわかったわ!早く帰って薬の勉強しなさいよ!
治郎 ハハハッ!、能ある鷹は、何だっけ?、まいっか!、あ!?、好実がくれた手裏剣と毒玉!かなり役に立ったよ!ありがとな!!今度手裏剣返しに来るから!じゃね!
好実 治郎!
治郎 え?
好実 好き。
治郎 え。今、好きって言った?
好実 うん。好き。
治郎 好実!
好実 なに?
治郎 好き。
好実 バカ。
・・・
2022年 7月
南 友蔵 心拍数、血圧共に安定しているな。
東原 望 先生。こちらも感覚器官、脳波共に良い反応です。
南 うん。ありがとう。ここまでは順調そうだ。
東原 よかったですね。
南 只、問題はここからだ。ゲームの内容が過酷になっていく。体力的・精神的にも負荷がかかるだろう。、、陽太。、、頑張るんだぞ。
東原 現段階で、陽太君の義足連動率は50%です。
精密機器が置かれる一室。大きなカプセルに横たわる男性が一人。呼吸器とVRメガネ、点滴と義足が付けられている。カプセルを包み込むガラスの表面には、北山陽太。と書かれたテープライターのシールが貼られていた。
第一部~完~
武士とVR医療を掛け合わせた小説を書きたいと思い、筆を進めていました。しかし、中々時代を描く事に苦戦をした結果。かなり走り書きになってしまいました。武士の生きる様や太刀使い。現代に生きる我々が苦難に陥った時の感情や行動。過去と未来の人間同士が共生する架け橋にとVR医療を組み込みました。今後、VR等の最新技術が、身体的障害を持ってしまった人の為に、より応用できる未来になって欲しいと思っています。
ではまた。




