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武士の瞳  作者: 新垣新太
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第1章~旅立ちの時・後編~

ドンドンドンッ!

陽太の母 はい、どちら様?

放浪人 すいません。今、人助けができる者を探している者なのですが。

陽太の母 ええ、何かお困りですか?

放浪人 実は今、無実の罪で捕まり、江戸の西北にある収容所に閉じ込められている仲間がおりまして。そこで、道すがら腕の立つ人間に声をかけて、助けて頂けないかと言うお頼みで。

陽太の母 そうなんですね。ちょっと、主人に聞いてきますから、待っていてください。

タッタッタッ

陽太の父 あんたか。見ての通り、この村はただの農村だ。訪ねる場所を間違えてるんじゃねえか?

放浪人 どんな者でも構いません。こちらはお二人で住まわれているのですか?

陽太の母 いいえ、もうすぐで16歳になる息子がおりますけれど、

放浪人 ほう。実はこの村に来る途中、毎日の様に木刀で稽古を積んでいる者が隣村にいると伺いました。この話が息子さんの事かどうかはわかりませんが、一度お話をしてもらっても良いでしょうか?

陽太の父 知るか!帰れ!お前みたいな胡散臭い奴、見たくもないわ!

陽太の母 あんたっ!失礼なこと言うんじゃないよ!、ごめんなさいね。

放浪人 いえ、、では、明日また伺います。そのときに今の話のお答えをお聞きします。ゆっくり考えて決めて下さい。では失礼致します。

パンッ!(玄関の戸が閉まる)

・・・

その夜、陽太は布団に入るもなかなか寝付けずにいた。治郎の話があったからだろうか。、すると、居間にいる父さんと母さんの会話が耳に入ってきた。


陽太の父 俺は絶対に反対だ!いくら無実の人間だって、投獄されているから助けてくれなんて、うちらには何も関係ないだろう!

陽太の母 私だって嫌よ。、、でも、あの人が首から提げてた三日月型の飾り。この間、飛脚の五郎さんから聞いたのよ!

陽太の父 首飾り?それが何だ?

陽太の母 南村の方で、ある家に頼み事があるって訪れた放浪人がいてね。その家の主人は断ったんだけど、次の日の夜、その家族全員が家ごと燃やされたって話。その時の放浪人が、首に三日月型の首飾りを提げていたって噂!

陽太の父 何なんだよそいつは?その話が本当なら、訳のわからん奴の為に陽太を行かせるなんて、俺は反対だからな!

陽太の母 もうー、どうすんのよ。明日のお昼にまたあの人来るのよ!

陽太の父 もう寝る!


ダンッ!(寝室の戸が閉まる)


何だ?何の話だ?、でも、無実の人が牢獄に入れられてるって?困ってる人なのか?俺を行かせるって。その人は助けたい人がいるから来たんじゃないのか?どうする?明日の昼に来るらしい。断ったら殺されるのか?俺が行かないと父さんと母さんがいなくなるのか?治郎との誓い、家族の為、俺は、武士に、、、行こう。明日親に話そう。


次の日の朝

陽太 おはよう。父さん母さん。話があるんだ!

陽太の母 何だい急に。

陽太の父 どうした?

陽太 実は昨日の夜、父さんと母さんの話、聞いてたんだ。

陽太の父 な、なんだ、き、聞いてたのか!

陽太の母 陽太は気にしなくて良いのよ!父さんと母さんに任せて。

陽太 俺、行くよ!

陽太の母 ダメよ!脱獄の加担なんかしたら何があるかわからないのよ!

陽太の父 村も出た事無いお前に、何もわからんだろ!

陽太 わかってる。もう16歳になる。大人だよ!だから、俺、行くよ!

陽太の父 、、、わかった。あの放浪人には父さんが話をする。、母さん、陽太が困らねえよう出発の準備をしといてくれ。

陽太の母 はいよ。


そして、昼頃に放浪人がやってきた。俺は母さんと畑仕事をしながら、父さんと放浪人が話をしているのを横目で見ていた。話はすぐ終わり、最後に放浪人が父さんに何かを渡してからその場を去って行った。その後、父さんから渡されたのは収容所までの地図と、収容所の中の詳しい説明書だった。


次の日、俺は治郎に昨日の件について話しておこうと決め、遊びに来た治郎といつもの竹林で武士ごっこをしていた。


治郎 陽太!なんかいつもと雰囲気が違うな?

陽太 ん?ああ。

治郎 そうだ!、この間の話。父ちゃんと母ちゃんに伝えたんだけど、結局ダメだった。父ちゃんにぶん殴られて、ふざけんなって言われたわ。1年位良いじゃんかよな!?

陽太 そうか。治郎は何で武士になりたいんだ?

治郎 あー。俺の村の、幼なじみに好実(このみ)って子がいて。、まぁ、想い人なんだ。昔っから好実は、武士の男に憧れてて。格好いいし、たくましくて好きって言うからよ。俺だって負けてらんねえ、薬屋でも武士になってやるって。好実に好きになってもらう為に頑張るぞ!、てな。笑えるだろ?

陽太 好きな人がいるなら当然の行動だよ。

治郎 でも、ダメだった。、陽太は武士になるって話、親にしたのか?

陽太 いや、それが、家に放浪人が訪ねて来て、

・・・

治郎 なんだよ。大事じゃねえか。陽太一人で行くのか!?

陽太 放浪人いわく、仲間は作って良いそうだ。だけど、事が事だけにな。、1週間後には出発しなきゃいけない。

治郎 1週間。、、、よし!俺もお前と一緒に行く!!

陽太 でも治郎、親父さん反対なんだろ?

治郎 気にすんな!1週間で何とかする。そんな話聞いて、陽太を一人で行かせられるか!、そうと決まれば準備は早い方が良い!今日はもう帰るぞ!

陽太 治郎、、ありがとな。

治郎 じゃあ1週間後、またな!


二日後、俺は父さんに呼ばれ、家のそばにある物置小屋に連れていかれた。

陽太 どうしたの?

陽太の父 あった。、大分埃被ってるな。


父さんが物置小屋の奥から布で巻かれた長い物を持って出てきた。そして、布から取り出し、広げた布の上にゆっくりと置いた。刀だ。鞘は所々剥げ、柄も汚れていた。


陽太の父 これはな。俺が若かった頃に世話になったこの村の村長の形見なんだ。陽太のじいちゃんが手を焼く程、俺は生意気だった。堪忍袋の緒が切れたじいちゃんは、俺を村長の家に預けたんだ。それでも俺は飽きたらず、村長相手にろくでもねえことを繰り返した。だけどな、村長はいつも俺を調子に乗らせては、最後はこの刀で必ず倒してきた。もちろん刀は抜かずにな(笑)。なくなく丸め込まれた俺は村長から農家としての生き方を学んだ。そんな時に、突然ポックリ村長が死んでな。あんなに元気だったのに。それで、村長の息子さんが、村長が持ってた刀を俺に持っていて欲しいと渡してくれた。それからずっと、この物置小屋の中だ。

陽太 そんな話聞いたことなかった。

陽太の父 ああ、言ってなかったからな。これ持ってけ!

陽太 え、大事な物でしょ。

陽太の父 まあな、別に刀が無くなったって、家には農具がいっぱいあるわ!、、それに、お前が手ぶらで行くことの方がよっぽど怖いわ。

陽太 俺には木刀があるし。

陽太の父 いいから!持ってけ!、だけど、大分時間が経って刀も錆びとるだろう。この前、飛脚に聞いたらな、あそこの白山(はくざん)の山の中腹に刀鍛治がいるらしい。まずは、そこに行って直してもらってこい。(ぜに)は持たしとく。いいな!

陽太 うん、わかった。、、ありがとう。

陽太の父 これは飛脚に書いてもらった地図だ。明日、明るいうちに行ってこい。


次の日、俺は父さんから渡された刀と銭を持って白山に向かった。白山の山頂は高くそびえ立ち、今日は雲に隠れて見えない程だった。地図を片手に入口となる獣道に入っていった。細い道を登りながら緩やかな坂が徐々に傾斜を増していく。途中には岩場も存在し、息を上げながら登って行った。静かな山には鳥の囀ずりと道を歩く足音だけの世界になる。程なくして、道先に平地が見え、そこには平屋の建物があった。地図を見ると、もう中腹まで登ってきていたらしい。微かに一定の間隔で高い音が聞こえてくる。平屋まで歩を進めると段々とその高い音が大きくなっていった。着いた。


陽太 ごめんくださーい!


返答はなかったが、小さな平屋の奥から音が聞こえる。少し焼けた灰の様な匂いもしてくる。俺は音のする方に向かった。そこには赤く熱された棒状の物を、火花を散らしながらトンカチで強く叩きつける男の人がいた。


本間(ほんま) 誰だ?

陽太 すいません。北山村の陽太と言う者です。、父からもらったこの刀を直してもらえないでしょうか?

そう聞くなり、本間が手を止めて振り返った。

本間 北山村?農村地じゃねえか。何で刀を持ってる?誰からここを聞いた?

陽太 うちの村に来る飛脚の方に地図をもらって。

本間 、、うちは鍛治屋だが、もう刀は打ってねえ。他を当たりな。

陽太 急に来てしまってすいません。ただ、俺も時間がなくて。使える刀かどうかだけでも見てもらえませんか?

陽太は布から刀を取り出し、鞘から刀身を抜いて見せた。

本間 時間がないのは俺の方だ!大した刀でもないだろう!

陽太 お願いします!見てください!!

本間 生意気だな!!(陽太の持つ刀が目に入る)、、おい、この刀!

本間が陽太から刀を奪い、まじまじと見つめた。

本間 (この隠し模様、、先代が遺した物だ。なんでこいつが持ってる?)

陽太 あの、

本間 明日だ!、明日の同じ時間に来い。刀は預かる。今日は帰れ。

陽太 え、直してもらえるんですか?、わかりました。明日、また伺います!


あの刀、直してもらえそうだ。それにしても鍛治屋さんのあの目付き。刀について何か知っていそうな感じだった。刀はもう打ってないって言ってたな。俺は心にモヤモヤを残したまま、白山から帰路へ着いた。


次の日、俺は刀を受け取りに白山へと向かった。昨日とはうって変わって山の木々から陽の光が差し込み、獣道を白く輝かせていた。


陽太 ごめんくださーい!

本間 来たか。待ってろ。

そう言うと、本間は作業場の奥に消え、暫くして布に包んだ刀を持ってきた。

本間 預かった刀だ。抜いてみな。

陽太 ありがとうございます。


俺は布から刀を取り出し、綺麗にされた鞘を持ち、柄を握りゆっくり刀身を抜いた。


陽太 うわぁ。白い!、白い刀だったんだ。

本間 それは俺の先代、本間権三郎が打った名刀白羽(しらは)だ。北山に眠っているとは露程にも思っていなかった。

陽太 名刀、白羽。

本間 御代はいらねえ、、。只一つ、その刀を使う条件を約束しろ!

陽太 、条件。何ですか?

本間 人は斬っても命は奪うな。後は自由に使って良い。ここにその刀が戻ってきたのも何か理由があるはずだ。誓えるか?

陽太 はい!、ありがとうございます!


俺は布で丁寧に刀を包み、改めて一礼をしてから山を下りた。俺は余りにも美しく現れた刀身が目に焼き付いていた。出発まで三日となった。


その頃、陽太の家。

陽太の母 あんた、陽太に行かせて大丈夫なの?

陽太の父 他へ行けって言えば、今度はそこの家族が犠牲になるだろう。母さんが言ってた噂が本当だったなら、俺達家族で引き受けてやるしかないだろ。陽太はもう16だ。

陽太の母 あくまでも噂よ。、そうね。無事に帰って来れると良いんだけれど。

・・・

陽太を行かせると放浪人に伝えたあの時。


放浪人 返事は決まりましたか?

陽太の父 ああ。息子を行かせる。

放浪人 後戻りはできません。本当によろしいですか?

陽太の父 あんたに一つ、頼みがある。息子が脱獄に加味して、結果がどうであれ、終わり次第俺の家に連絡を入れろ。万が一の時は、連絡が入り次第俺がそっちに向かう。それを守れるなら息子を行かせる。

放浪人 わかりました。飛脚を遣わせます。ではこれを息子さんにお渡し下さい。収容所までの地図と詳細な見取り図です。

陽太の父 必ずだぞ。

放浪人 はい。お受け頂きありがとうございます。

陽太の父 早く帰ってくれ。

放浪人 、、これは、僕の一人言だと思って聞いて下さい。(懐から紙を出し、陽太の父に渡す)。これから先、何が起こるかわかりません。罪人扱いの者を外に出す訳ですから。ここに追っ手が来るやもしれません。その地図に書かれた所は人気もなく安全な場所です。小さな空き家が何軒かあります。事が終わり次第、飛脚にはまずここへ向かってもらいます。、では。

・・・

陽太の父 万が一の時は、俺が何とかする。


一方、治郎の住む村では。

治郎の妹 兄ちゃん!好実姉ちゃん来てるよ!

治郎 え!?ちょっと待って、今行く!


好実 治郎、こっちきて。

治郎 おお、なんだよ急に。

二人は治郎の家から程近い川まで歩き、そこで好実が立ち止まった。

好実 話、聞いたよ。、村を出て武士になるんだって?

治郎 まあな。男同士の誓いを果たす旅に出るんだ。止めるなよ。

好実 馬鹿なの?、何が男の誓いよ!妹の凛子(りんこ)ちゃんの面倒も見れないくせに。

治郎 凛子は俺よりしっかりし過ぎてるんだ。俺じゃ物足りねえんだ。

好実 あ~。治郎と話してると私まで馬鹿が移りそうだよ。

治郎 ハハッ!、今は馬鹿でも、帰ってくるときには立派な武士となって現れちゃうんだか、おっ!?。

好実が治郎に小袋を投げた。治郎は小袋をお腹で受け止め、中を覗いた。

治郎 なんだよ、これ?

好実 私が大事に使ってた手裏剣と、その黒色の玉は山のキノコで作った毒玉よ。馬鹿でも何かあったときに使えるものよ!

治郎 この手裏剣は、、

好実 馬鹿がいなくなるから、私はのんびりと暮らせて最高だわ!

治郎 好実が俺の尻に目掛けて投げてきたやつじゃっ!?

シュルルルルッ!カッ!

好実の投げた手裏剣が治郎のおでこに命中する。


バタン。治郎は軽く気を失う。

好実 待ってるからね。

・・・

そして、出発の日。

俺は、小さな風呂敷に母さんが準備してくれた荷物を詰め込み、肩から斜め掛けに背負った。玄関で草鞋(わらじ)をきつく縛り、刀を腰脇に差した。


陽太の父 身体に、気を付けてな。

陽太の母 ほらこれ!握り飯とお新香入ってるから。手で持ってき!

陽太 うん。ありがと!、じゃあ行ってきます!


いつもの竹林へ向かい治郎を待った。すると、頭に布を巻いた治郎が現れた。


陽太 治郎どうしたんだよその頭?

治郎 ああ、これはあれだ。準備でバタバタしてるときに家の柱にぶつけてな!

陽太 なんだよ、大丈夫か?

治郎 大丈夫だよ、気にすんな!、ちゃんと親から許可もらったんだぜ!早く行こう!

陽太 よし!行こう!


蛙の声がどんどん小さくなっていく。俺達は今日から江戸を目指す。あの放浪人の指示では、出発から2週間後。昼のうちに収容所に攻め入り、夜までには脱獄する決まりだ。初めて村を出る。こんなきっかけで旅立ちの時が訪れるとは思わなかった。少し震える手をグッと握り締め、羽前国(うぜんのくに)へ向かった。

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