第1章~旅立ちの時・前編~
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。
この物語は第一部~脱獄編~、第二部~地獄編~の二部構成です。
目を閉じて。力を抜いて、深呼吸。
時は江戸時代初期。日本の東北に位置する、小さな農村に暮らす一人の男の物語。
治郎 おはようございまーーす!!!
畑作業をしている二人が振り向く。
陽太の母 あら、おはよー治郎ちゃん!
陽太の父 おー!薬持ってきたんか?
治郎 今度持ってきますね!陽太は!?
陽太の母 まだ家の中で寝てるよー!起こしてやって!
治郎は駆け足で畑のすぐそばの平屋まで向かった。
ドンドンドンドンッ!!
勢いよく玄関の引戸が叩かれガガッと開いた。
治郎 おい!陽太!!、へへっ、寝てやがる。おーーい!陽ーー太ーー!!起ーきーろーー!!!
居間で膨らんでいた布団から、陽太の上体がガバッと起き上がった。
陽太 あ!?、おお。寝てたのか。足が、
治郎 やっと起きたか陽太!今日もやるぞ!ほれっ!
陽太は治郎が持っていた何かを投げ渡されたのを目視し、咄嗟にそれを受け取った。
パシッ。
陽太 ん?、木刀か。
治郎 寝ぼけてんだったら、早く外でて目覚ませ。外で待ってるぞ!
俺はぼーっとした頭を起こす為に、両手で顔を叩いた。痛みを感じる。ゆっくりと立ち上がった。玄関に向かい草鞋の上に足を置く。しゃがんで手際よく紐をきつめに縛ってゆく。さっきまで寝ていたとは思えない、慣れた手つきだ。外に出る。
治郎 武士ごっこ、始めるぞ!
陽太 お、おう。
治郎の後をついていくと竹林の中に入り、そのまま獣道を進むと少し開けた場所に出た。
治郎 今日で三回目だな。今のところ一勝一敗。準備はいいかー?
陽太 武士ごっこって。だから木刀、。足がなんだか重いけど、気分が良い。やろうぜ!
俺は見よう見まねで治郎の構え方をした。治郎が木刀を振り上げて向かってくる。カンッ!と木刀同士がぶつかる音が竹林に響いた。俺は治郎の隙をつき木刀を振るも防がれた。武士ごっこと言いながら、木刀の攻め方や防ぎ方、足の動き、目の動き、治郎と遊べば遊ぶほど勉強になる。ただなんだか動きづらいな。袖をまくる。
治郎 隙あり!
コンッ!
治郎の木刀が陽太のおでこに当たる。
陽太 あ、いってぇー。
治郎 まだまだ修行が足りぬぞ、陽太。これで二勝一敗!
陽太 腕まくりしてる時は待ってくれよ!
治郎 武士ごっこに待ったなし!へへ!
陽太 くそー!
それから、治郎とは毎日の様に武士ごっこをして遊んだ。治郎の家は隣村で薬屋を営んでいて、たまに薬を持ってきては俺の親に渡していた。そんな治郎と比べられ、母さんからはたまには畑を手伝えと言われる始末。そのことを治郎に話してからは、侍ごっこの前に畑仕事を治郎と一緒に手伝うことになった。ほとんどの時間を治郎と共に過ごしていくうちに、本当の兄弟のような存在になっていった。
・・・
陽太 俺の勝ちだな!
治郎 フーッ!、あぁ。これで五十勝五十敗!、あーっ!武士になりてー!!
陽太 ハハッ、大分戦ったな!
治郎 陽太、俺と一緒に武士にならねえか?
陽太 武士?この木刀で?
治郎 俺、16歳になったら家業の薬屋を継がなきゃいけないんだ。だけど俺、武士になってみたい。1年だけでもいいから武士の道へ進んで、それでも何も結果を出せなかったら、諦めて家業を継ぐ。明日、俺の16歳の誕生日の日に親に言おうと思う。
陽太 そうか。まぁ、治郎と一緒なら俺も頑張れるかもしれねえな。でも何で、武士になりたいんだ?
治郎 それはまだ秘密だ!、じゃあ陽太!ここに誓いを立てよう!俺と陽太で、武士の道へ進み!立派な男になって、またこの村に帰ってくることを!
陽太 秘密かよ!、やってみるか!
治郎と陽太は木刀を空に掲げ、互いの木刀を交わした。
ザッザッザッザ
その頃、背中に籠を沢山背負った放浪人が陽太の住む村を訪れていた。明らかに見慣れない姿の放浪人を、村人は不思議そうに見る者もいた。
放浪人 この村に、聞いてみるか。




