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アスマとベル  作者: 鈴女亜生
『リリパット』

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142/379

12歳(1)

 森の中でテオに助けられてから一年が経とうとしていた。その間に様々な変化はあったが、ベルの日常に大きな変化は少なかった。ベルの仕事は変わりなく、森の中に入っては植物を愛でる日々を過ごしている。


 ただ数少ない変化の一つとして、ベルとテオの関係があった。テオと初めて逢った日からあの日まで、テオをただただ怖がっていたベルだったが、あの日のお礼を別の日に改めて言いに行ってから、テオとは友好的な関係を築いていた。それはまだ友人と呼べる関係だったが、あの日からベルは少しずつだが、それ以上の気持ちが自分の中にあることに気づいていた。


 また二人の関係性に合わせたわけではないが、同じように関係性が変化した人達がいた。それがルナとアルだ。元々、一方的に怖がっていたベルとテオとは違い、最初からアルと仲良くなるためにルナが近づいたこともあって、二人の仲は順調に縮まり、一年の間に恋人関係になっていた。

 その報告を受けた時、ベルはルナ以上に喜んでいた。小さな頃から知っている親友に好きな人ができた時点で嬉しかったが、その恋がちゃんと成就したと知った瞬間の嬉しさは今までに味わったことがないほどだった。あまりに嬉しくて、気がついたら、ベルは涙を流していたくらいだ。そのことに最初は驚いたルナも、気づいたら、ベルと同じように涙を流していて、二人揃って、「良かった」と言いながら泣いていた。


 その時にルナに今度はベルの番だと言われたのだが、ベルはその言葉にうなずくことができなかった。その時点でテオへの気持ちを自覚し始めていたベルだが、その気持ちを現実的なものと考えられるほどに、気持ちの整理がついているわけではなかった。

 もう少し気持ちの整理がついてから、テオとの関係を考えようとその時のベルは決め、そのまま整理がつくことなく、あの日から一年が経過しようとしている今になっていた。


 仕事を終えたベルは森から村に戻ってきて、採取してきた薬草を家に並べているところだった。こうして一日干した薬草がようやく薬に使われるので、干すところまでベルが仕事として担当していたのだが、薬草を干してしまうと暇になる。

 干し終えたらどうしようかな、とぼうっと次のことを考えながら、ベルが仕事を続けていると、ベルの家に訪問者があった。


「ベル~。ルナちゃんが来てるわよ~」


 薬草を干している最中のベルにルルがそう声をかけてきて、ベルは自分のところまでルナを通してもらうように頼む。ルナはどうやら休みだったようで、ベルのところに来て薬草を干しているベルを見るなり、申し訳なさそうな顔をしていた。


「ごめんね、仕事中だった?」

「いや、大丈夫だよ。これで終わるところだから」


 そう言っている最中には最後の薬草を干し終え、ベルはルナと一緒に自分の部屋まで移動する。流石に誰しもがずっと仕事をしているわけではないので、ルナにも休みの日はあったはずだが、こうしてルナが休みの日に逢うのは久しぶりだった。

 そのことを思い出したベルが部屋に入るなり、ルナに聞いてみる。


「今日はアルさんと逢わないの?」


 そう言うとルナは頬を赤らめ、少し恥ずかしそうに話し出す。ルナとアルが付き合い始めて、既に数ヶ月が経っていたが、未だにルナは慣れないのか、相手がベルでもアルのことを話そうとすると、こうして恥ずかしそうにすることが多かった。その姿をベルは何度見ても可愛らしく思え、できればこのまま変わらないでいてくれたらいいのに、と思う瞬間があるくらいに好きだった。


「今日は仕事が忙しいみたいだから」

「そうなんだね。ルナが休みの日に逢うのって久しぶりだね。いつもはアルさんと何をしているの?」

「別に普通のことだよ。ご飯を食べたり、散歩をしたり、最近はアルさんの服とか作ったり、そういったことだよ」

「ルナが作ってるの?」

「せっかくだからってお願いされて、相談しながら作ったりしてるの」


 こうしてアルとのことを話す瞬間のルナの笑顔は今にも蕩けそうなもので、その笑顔がベルは好きだった。心の底から幸せだと思っていることが伝わると、ベルの方まで幸せな気分になってくる。


「ベルはテオさんとどんな話をしてるの?」


 不意にそんなことを聞かれて、今度はベルが頬を赤らめる番になっていた。最初の頃はそこまで気恥ずかしくならなかったのだが、ルナとアルが付き合い始めた頃から、ベルもテオのことを話そうとすると、妙に身体の奥底がこそばゆい気持ちになってきて、気づいたら顔が熱くなっていることが多かった。


「普通のことだよ。今度咲く花の話とか、最近根っこが短くなってきている雑草の話とか、葉の裏側に生えていたカラフルなキノコの話とか、そういうの」

「ベルは変わらないんだね」


 ルナがベルのことを温かな目で見ながら、そう言ってきたことにベルは恥ずかしくなって顔を逸らしていた。


「ベルはテオさんへの気持ちとか、そろそろ決まったの?」


 温かな目はそのままにルナが聞いてきた言葉に、ベルは迷ったような目を向けていた。それから、小さくかぶりを振る。


「それは良く分からないままだから…」

「テオさんのこと好きじゃないの?」

「そ、そういうことじゃなくて…!?好きとか嫌いとか、そういうことじゃなくて…テオと話してたら楽しくて、嬉しくて、それが続けばいいなって、今はそう思ってる…かな…?」

()()、そうなんだね」


 ベルの様子に小さくうなずいてから、ルナはニコリと笑っていた。


「私はベルを応援してるからね」

「え?う、うん…ありがとう…?」


 ルナの応援が何に対する応援か、いまいち分からないベルだったが、その言葉に取り敢えずうなずいていた。



   ☆   ★   ☆   ★



 一日干した薬草は薬屋に引き渡すことになっていた。ベルが乾いた薬草を引き渡し、帰ろうとした途中、休憩中だったルナを見つける。ルナは一人で何か小さな布を持ち、縫っているように見えた。


「ルナ」


 ベルがそう声をかけると、顔を上げたルナがベルを見つけ、笑顔を向けてくる。ベルが近づいていくと、ルナの手の中には小さな袋が握られていた。


「どうしたの?それ?」

「これ、アルさんが仕事で使っているらしいの。昨日の仕事で破けちゃったみたいで、私が縫ってるんだ」


 ルナが嬉しそうに笑っていて、ベルも嬉しい気持ちになってくる。ルナの隣に一緒に座って、ルナが袋を縫っている様子を眺める。


「アルさん、今日は?」

「組合の方で仕事とか。だから、今日中に縫うって私が言って、後でこれを渡すの」


 そう言って話している間に、小さな袋の穴は埋まったようで、ルナは袋を持ち上げて確認している。


 そうしていると、二人の前まで人が歩いてきて、声をかけてきた。ベルとルナが同時に見上げて、ルナが頬を赤らめている。


「休憩中?」


 そう聞いてきたのはアルだった。ルナがうなずいている間に、ベルはそっと立ち上がり、ルナに声をかける。


「じゃあ、私は行くね。アルさんも、また」


 そう言ってベルが立ち去ろうとすると、アルが笑みを浮かべながら軽く頭を下げてきた。わざわざ来たからには、きっとルナと話したかったのだろうな、とアルの気持ちを想像しながら、ベルは家に帰ろうと歩き出す。


 その直後、思わぬ相手と逢って、ベルは驚いていた。


「あ、ベル。仕事?」


 そうやって笑いながら声をかけてきたのはテオだった。さっきまでベルがいた薬屋の方から歩いてきて、小さな袋を手に持っている。


「仕事だったけど、帰ろうとしてて。テオはどうしたの?それは?」


 ベルがテオの持った袋を指差しながら聞くと、テオは笑みを苦笑に変えながら、袋の中身をベルに見せてくる。中には木の入れ物が入っており、そこに独特なマークが彫られている。


「これって薬?」

「そう。昨日、怪我しちゃって」

「怪我!?大丈夫なの!?」


 テオの口から怪我という言葉を聞き、慌ててしまったベルに反して、テオは非常に落ちついた様子だった。服の袖を捲り上げ、そこにあったいくつかの切り傷を見せてくる。


「ちょっと切っただけなんだよ。けど、薬を貰ってこいって言われちゃって」

「ちょっとでも薬は使った方がいいよ。痛そうだよ?」

「痛いけど、薬って塗ったら沁みるから嫌なんだよ」

「そのままの方が痛いよ」

「傷自体の痛さは慣れているけど、沁みる痛さは慣れていないんだよ。それに背中の傷は塗りづらいし」

「背中にもあるの?」

「うん。ほら」


 そう言って、突然服を捲り上げて、背中を見せてきたテオの行動にベルは面食らっていた。背中の傷よりもテオの背中が見えたことに赤面し、慌てて服を下ろさせる。


「急に捲らないの!?」

「え?何で?」

「ビックリするから!?」

「何で?」


 テオの純粋な眼差しにベルは困った結果、テオの手から小さな袋を奪い取っていた。


「背中の傷は私が塗ってあげる」

「え?ベルが塗ってくれるの?じゃあ、塗ってもらおうかなー」


 さっきまで嫌そうにしていたテオだったが、途端に笑顔になった姿にベルは思わずドキッとする。その笑顔に同じように笑みを浮かべながら、ベルはテオの手を引っ張っていた。


「座れるところに行こう」


 そう言い、二人揃って歩き出してから、ベルはテオの手を取っていることにドキドキし始めていた。

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