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転! の中に更に転がないとマンガ賞とかじゃ「展開がありがち」として準大賞になりがち

超巨大猫の巣だか集会場だかを逃げ回る間に、わしはひとつ学んだ。


「いました! こっちです!」


超巨大猫がわらわら、あちらの角からこちらの角から現れる。しかし、


『ノラ、#”+:走って! こっち!』


わしはカナがびよっと伸びた方に従って走る。


「あーだめだ!! P@:+<逃しました!」


カナの指す方向に行けば、追ってをうまくすり抜けられる。


『@*¥@の:+>、ノラ。この`”を右だよ!』


そしてわしは、超巨大猫の巣だか集会場だかを抜け出すことに成功したのである。



脱出時、もう辺りは暗かった。

空には光る粉がブチまけられておる。この暗さなら、茂みに入ってしまえば、わしの体は完全に隠れる。

問題は、周囲に茂みのひとつもないところである。

いい感じに爪を引っ掛けられそうな断崖絶壁ならあるが、なかなかの高さだ。

超巨大猫の足音、においが近づいてくる。


『ノラ、&::! &::、えー、右の逆!』


わしはカナが伸びた方向を見た。物の山、としか言いようのない山がある。

わしは物と物の間を縫って、山の奥へ進んだ。

超巨大猫の鳴き声が聞こえ、足音がし、歩き回っているさまに聞き耳を立てる。


『ノラ、ノラ大丈夫だよ』


カナは幾分疲れたように、鼻先にしがみついた。

邪魔であるが、役に立ってくれたから、よい。

あろうことか、カナはそのまま鼻先で動かなくなった。

わしは寛大であるので、そのまま、鼻先にいさせてやることにした。

わしは学んだ。カナには、使い途がある。カナの示す通りにすれば、この場を脱せられるかも知れない。

カナと密にコンタクトを取れば、いいことがあるのである。

じっとする間に、奴らは去って行った。

奴らが去って、周辺からにおいすら消えたあと、わしはそっと山を抜け出した。

カナが目を覚まし、鼻息(息をしているのか謎であるが)荒く


『大丈夫、w#出たら、)”56=〜Ko、行こう。)”56=、猫好き==¥、$&#$%’〜’飼い主に##*:@⭐︎よ!』


ふむ、よくわからんが、頼むであるぞ、カナ。


わしは、改めて、断崖絶壁を見上げる。

蔦同士が妙に均等に絡まり合い、小さな穴が無数に開いて、向こう側が見える爪とぎ板のようになっておる。爪をかけて登れば、越えられそうである。


「やめとけやめとけぇ。そらでんりゅーもうっつってな、触るとでんきショックで、ちっさい動物は最悪死ぬんだよ」


上から声がふってきて、わしは飛び上がった。

見れば、超巨大猫が浮いている。超巨大猫に見えるが虫であろうか。

カナが生えてる部分の毛が逆立った。『あれ、おばけかなんかだよ!!』

おばけとは何であるか。


「失礼だな〜〜? 朕は貴様らが神と呼ぶものぞ」


神とは何であるか。

神さんがゆっくり降りて来て、わしは好奇心を突かれてにおいを嗅ぐべく周りをうろつき、品定めを始めた。

カナが急にそわそわしだす。


『か、かかっ、かみさまが何のご用ですか! ワタクシメはこの通り、猫に食われて猫の一部となったのでございます! 四十九日も過ぎまして、ワタクシメは今、猫です! そしてここが、天国でぁす! 悪霊とかでは、ございません!!』

「いやそらいーんだけどさ、でも細胞って新陳代謝されるじゃん」


神さんからは悪いやつの臭いがしなかったので、とりあえずコレもわしのものとして、わしの匂いをつけることにした。

超巨大猫は個体によっては厄介だが、カナがそうであるように、自分の所有物にしてしまえば、何かと便利なものなのだ。

神さんの足に体をこすりつけると、カナが『ひいいぃ』と嫌そうにした。

神さんとやらは、カナの天敵か何かであろうか。


「朕は代謝される魂を迎えに来たわけ。きみのかーちゃん、カナエの遺体は損壊されても魂はきれいにひとつの姿でありますように、て毎日泣いてんだよね。可哀想でさぁ」

『お、オカンヌが?』


カナの声に戸惑いが浮かんだ。どうしたのであろう。わしもなんだかむずむずするのである。


『遺体損壊なんて大袈裟な……猫は飼い主が死んでたら食う生き物ですし。そんなの、本能ですもん。そんな犯罪みたいに言われるようなことは、別にしてないのに』

「まぁさ、でもご家族からしたらさ。やっぱり食い散らかされた娘の遺体って、気持ちのいいもんじゃないのよ。というか普通にスプラッタでショッキングだしね」


カナが、うう、と唸った。

なんだ、神さん、悪い奴の臭いはしないのに、カナをいじめてるんだろうか。


『…………あの、神さま。オカンヌにね、ワタクシメは、大好きなノラのお腹を満たせて、栄養になれて、一部になれて、死んでもノラの役に立てて、だいぶ充実しております、とお伝えいただくこととか……』

「あのさ、神の声がそんなほいほいひとに届いてたら、世界はもうちょっとマシだかんんぉおっ」


わしは神さんの足に噛み付いた。カナをいじめんなである!! 所有物を守るのも、躾けるのも、わしの義務である!!


『ぎゃーーー!!! ダメだよノラ!!』


すぽ、と、背から何かが抜ける感触があった。

驚いたわしが振り返ると、そのまま抱きとめられた。

面妖でない、生きてる時の、超巨大猫の姿の、カナに、である。


『えっ。えっナニコレどゆこと!!』


カナはそのまま、生前よくやった手つきでわしの首を肩に乗せ、腕で胴を支えた。

どゆこと、はこちらの思考である。わしはとにかく、事態を把握すべくにおいを嗅いだ。

カナの肩からは、わしのにおいとカナのにおいがする。カナはカナでありわしである。どゆこと。

そういえば、さっきからカナがカナ語で話してないのか、内容が全部伝わってくる。どゆこと。


「だから、代謝だよね。猫の方は生きてっからさ、あんたがどんだけそいつの一部になれても、まぁ何ヶ月かしたら代謝されるわけ。仕方ないよね。細胞の運命だわ」

『運命軽っ。それ代謝されたらワタクシメはどのようにあっあっ久々のニョラモフ。ニョラモフだよ可愛いモフ〜〜〜』


カナが背中に頬ずりする。ぬくいのである。そして、ちょっぴり、嬉しいのである。興奮も混乱も、鎮まるではないか。


「んだから。母ちゃんの願いを受けて、代謝されたきみを、元の魂に還しに、朕が来たのね」

『え。えっ? じゃあ、ノラは? ノラはどうなっちゃうんですか?』

「お別れだよ。新陳代謝なんだから」


落ち着いたら眠くなって来たのである。


『それ、ここに置いてくってことですか? 無理ですよ。今ワタクシメと離れたら、ノラ、ここ出られませんもん。猫は非常口の表示に従えば外に出られるとか、受付近くには必ず出入り口があるとか、職員が退勤したら脱出のチャンスがあるとか、そんなのわからないんですよ。そもそも猫って10m先もよく見えないし。

 とにかく、このままここにいたら殺されちゃう』

「それも運命っていうかな。たまたま、猫がここにいた時にきみが代謝されちゃったんだよね」

『運命軽っ』


カナがわしをさらにきゅっと囲う。いつもと違って心臓の音はせぬが、細かいことはよい。カナはわしの持ち物であるので、カナがわしを温くすることこそ、肝要である。


『…………ミナが、殺処分の許可書にサインしたの、見たんです。ノラは何にも悪い事してない。猫は、死体を、食べるものなんです。

 ノラは猫らしくしてただけなんです。なのに、殺されちゃうなんて、そんなのヤダ……』


カナの声が潰れ、目から尿を垂らす気配がした。

カナといいミナといい、超巨大猫が目から放尿すると時は、必ず心拍音が上がり、喘鳴が混じるので、わしにはすぐわかるのである。今回、心拍はまったく聞こえんが。

まぁ、眠いからどうでもよい。

浅い眠りなら耳とは音を捉えるものなので、どうしようもなくなったら助けてやろうではないか。カナはわしの持ち物で、今はなにより久々の、カナの腕の中である。


「……だからって朕はあんたんちの神様だしなぁ。毎日神棚にお水もらってるしぃ? オカンヌの願いは無下にはできんよ」

『うちの神様ならワタクシメの神様でもありますよね! せめてここを出るまでノラと一緒にいさせて下さい!』


久々の、カナの首の匂いである。


「いやだから、それはもう無理なのよ。もう代謝されて、今きみと猫、別々の存在じゃない。今きみ、朕の力で猫モフ猫モフしてるけど、物理的には猫のフケとか垢とかクソとか、そんな状態だからね。オカンヌが願うからこうして迎えに来てやってるだけで、別に今猫の糞としてこの廃材置き場に放置されてもおかしくないんだよ?」

『ワタクシメは放置してもいいです! でもノラは! 吉田くんちに連れてってやって下さい!』


久々のカナの肩である。おとんぬより狭いが、コツを掴めばよい枕になるのよ。


「誰。吉田くん」

『猫が好きな同僚です! 保護猫ボランティアとかやってて、きっと新しい飼い主に、ノラを遭わせてくれます!』


久々のカナの体温は、初めて手すがらカリカリをくれた時、鼻先に感じたぬくさと同じである。


「ゆうて朕からしたら、その猫のした事が、オカンヌを泣かせてるわけでなぁ」

『それを言ったら! そもそもワタクシメが死んだのは、たっかいとこにある神棚に、あーなーたーの、神棚に。水供えようとして、踏み台から足踏み外して頭打ったからですけど!!??』


神さんがたじろぐ気配を、ヒゲがキャッチする。ふふん、よいよい。カナ、優勢であるのだな。わしの加勢は必要ないな。


『お願いします、神様!! ワタクシメには、ノラを幸せにする責任があるんです!!』


よいよい。神さんが悩む気配、その音が、猫の耳には聞こえておるのだぞ。わしはそろそろ本気で寝ていいな。

今日は、ビクビクとドキドキで走りまくって、少し、疲れたのである。


「……猫のクソとしてここに放置されても、構わぬのだな?」

『いいすイイす!!

 そこはほら、死んでも、死んだって、ワタクシメは、ノラの、』


はい、わしは寝るわしは寝る。


『飼い主ですんで!!』


わしが腕の中で寝たら、どんなに目から放尿してようと、いずれカナが幸せな匂いをかもすようになることは、把握しておるのでな。世話の焼ける持ち物である。

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