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『くそっ! くそっ! くそっ! こんなもん!!』
カナが、出入り口に体当たり、体当たり、体当たり、体当たる。
『出せ! だーーーーせーーーーー!!! あたしの#$’はノリャじゃない、ノリャは食べた♪√*、あたしを#”ー=@>じゃない』
わしは床にぺったりして、腹のざわざわを鎮めようとしていた。
「おい、あれお前の尻尾か? 随分変わった形してんな!」
同室の百戦錬磨親分さんが飛びかかりたそうにうずうずする。
わしは本物の尻尾を振って適当に応えた。
ここがどこかは知らぬが、見たところカナみたいな、にんげんとかいう超巨大猫の集会場ないしは巣、のようである。
カナの巣と違って物がなく、段差がなく、日差しは悪く、房と房との移動はできない。房は棒で囲まれており、棒と棒との間が狭いので、房から房につながる通路へ出ることもまた、無理であった。向かいの房には、何かあるとキャンキャン鳴く、ご近所さんだったワン助さんやシヴァ殿に似た何かが何匹か、まとめられておる。皆、通路を隔てたわしから見ても、諦たか、怯えた空気を纏っていた。
対してこの房の中には、元気な百戦錬磨親分さんしかおらぬ。
百戦錬磨親分さんは片目に傷を持つ元野良のナイスミドルで、ジョートカイさんを待っていると伺った。ジョートカイさんとは何度か逢瀬しているが、目の傷が元でうまくいかなかったそうである。
それでもジョートカイさんを想う、ぴゅあらぶ一途な百戦錬磨親分からはたまに、矍鑠とした態度とはうらはらな、寂しい時の体臭がする。
そしてわしは。
わしは、捕まってこの房に入れられて以来、床にうずくまって、立つ気にも歩く気にも食べる気にもなれずにいた。ここにぶち込まれて、どれ程の時がたったか、数える気にもなれぬ。わしは1と2と3と10を解する、優秀な野良であるというのに。
ここにぶち込まれてからずっと、ヒゲの先がちりちりして、落ち着かない。尻尾の付け根がひりひり冷える。
わしは野良で、猫であるので、野生の勘とでもいうのか、ある程度先のことはわかるのである。
この巣には。
我らの”果て”がある。
”果て”があるということは、その先はないということである。
『はぁ〜〜〜〜〜っっノリャノリャ。大丈夫$#”ね! Meがついてるぞ!』
出入り口に体当たりかっ決めてたカナが、びよんと戻ってきて、鼻頭にしがみつく。
するとわしは邪魔くさいカナが気になって、いっとき、そわそわを忘れるのである。
追っ手に捕まってからこっち、わしはカナがいることを妙に意識するようになった。
『飼い主`;¥、きっとノラを守るよ』
カナ語の頻出単語にマモルヨがあるが、それは安心していいという意味である。
『うう。ノリャカワイイ。ノリャ大好き。だからP%&顔しないで』
カワイイもノリャもわしの名前であるが、続けて呼ぶ時はとりあえず悪口ではない。
カナ語のことを考えるうちに、わしは落命のことを忘れた。
カナは様子を見るようにわしを覗き込み、そっと離れ、びよんよと尾を引いて、また出入り口に体当たりを始めた。今気づくが、カナはまるで、わしの考えを読むように動くな。わしはカナの考えを考えたことは一度だってないが。
百戦錬磨親分さんが尻を持ち上げてアップをしだした。いかん。飛びかかる気である。
わしは妙に重くなった足でずりずり移動し、百戦錬磨親分さんとカナとの間に割り込んで行った。
百戦錬磨親分さんの興味が一瞬でわしにうつる。我ら猫の集中力とは、概ね目の前の物体に向かうもんである。
「よう聞いたぜ、お前ひとを食ったんだって? バカだな、そんなことしたらジョートカイどころじゃねぇぞ」
ヒトとやらは食っておらぬ。死体を食っただけである。
そうしたらカナが生えて、伸びたり縮んだり拡がったりできるようになって、思えばカナも随分成長したもんである。
しかし、未だ房の棒や出入り口は如何ともならず、そうこうするうちに超巨大猫の臭いと足音がし始める。
……知っている臭いぞ!
「ノラ」
『ミナ!』
カナの同位体のミナである。ミナが、房の棒の間から、わしを見下ろしている!
わしはここにぶち込まれて以来初めて、足腰に力がわき、ミナの方に駆け寄れた。カナがわあっと雄叫びをあげる。
「ノラ、来な#で!」
猫の眼には拒絶が見える。
ミナは、わしが房の棒から前あしを伸ばすと、ここにぶち込まれてから何度か飯を運んでくれた超巨大猫の背後に隠れた。
「&#%+ありません。この子です。ええ、はい、`#$します」
『ミナ! やめて!』
カナが騒ぎ出した。
わしは拒絶に驚いて、腹がぐるんぐるんにかき混ぜられる心地がしてきた。
怒りと、これは、なんであろうか。
とりあえず、ミナの分際で生意気である!
「大丈夫かよ」と百戦錬磨親分さんが隣で支えてくれる。しかし体臭が完全に、好奇心刺激された時の猫のデバガメ臭である。
ミナは超巨大猫から差し出された板と小枝を受け取り、小枝で板をひっかく。奴ら特有のマーキングである。
カナがどんどんうるさく、むくむくと大きくなる。
『やめろよ!!! 猫が$#&食べる*、習性`>¥$:!!! ノラが悪いんじゃない!』
ミナはカナに気づく事なく、目から尿をこぼし始めた。超巨大猫は、感情が昂り過ぎると目から尿を出す。
よく分からんが一大事である。わしは怒りを忘れた。猫の集中力とは、概ね目の前の物体に向かうもんである。
ミナ、落ち着くのである。
「ノラ、苦しみ=&>^?」
『苦しいに”$&;〜δΔーーー!!!』
「ノラ、どうして、あんな……………………………………うぅ、うぇっ、すみませ、あっ………………+`@〜猫ちゃん、#”♪%いいですか? ええ、はい、=’猫を嫌いに+t$αβ*¥ないんです」
『おお〜〜〜!!? 百戦錬磨親分おめでとう〜〜〜〜??? しかしな!!!!!!』
カナが絡んでいた出入り口が開いた。カナが顔から通路に突っ込む。カナの頭部を踏んで、超巨大猫が踏み込んで来た。
わしは警戒して飛び退いたが、百戦錬磨親分は動じることなく、超巨大猫に掴みあげられ、ミナの腕の中に収まる。
喉に、毒草でも飲み込んだような痛みが広がった。
毒はひろがり、わしの中を食いちぎり、空洞を作ろうと試みる。野良時代に感じたことのない、本当に、これはなんであろうか?
目から尿が出そうである。
なぜ、ミナの腕の中にあるのが、わしではなく、百戦錬磨親分さんなのであろうか???
それとも、わしも一緒に抱える気であろうか。拒絶が見えるのに?
わからぬ。今、何が起きつつあるのか。
出入り口が閉められ、伏したカナはざりざりと通路から房に押され、わしはミナを見上げる事しかできぬ。
ミナは背を向けた。
「……ノラ、%=p#で幸せになりなよ」
ミナが、遠ざかる。
ミナが見えなくなるまで、野良ともあろうに、わしはほんの小さな期待をし続けた。
ミナは、振り向いて迎えに来る、はずである。
毒は、ミナが遠退くほどその勢力を広げ、空洞になりつつあるはずのわしの足腰は、また一段と重くなる。
ミナが見えなくなって少しして、出入り口が開けられ、超巨大猫がわしに手を伸ばしてきた。
わしは威嚇したが、動く力が出ず、超巨大猫はひるまずーー
『すみませんほんとごめんなさーーーーい!! ウチの子お触り#$%でーーーーす!!!!』
むっくむくに巨大化したカナが、超巨大猫とわしの間に割って入った。
何を見たのか、超巨大猫が叫ぶ。わしは声にびびりすぎて飛び跳ねた。
超巨大猫が尻から転ぶ。
『ノリャ、$&:だよ! わかる!? 右じゃないほう!!』
わしは跳ねた勢いそのまま、カナの前足が向く方に走る。
キャンキャンがキャンキャン吠えまくる。
今何が起きておるのかわからぬが、とりあえずでかい音は怖いのである!!