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◯◯が◯◯シリーズ

見る目がない

作者: 腰光

 少年は今日も目で追いかけていた。その2.0の視力で追いかけ続けていた。クラスでも目立たない女の子、いつも机で本を読んでいる。少年は目が良いので本の題名も知っている。題名は『人を見る目』である。

 少女はじっと本を読んでいる。それほど人を見る目を養いたいのだろうか。

 人を見る目なんていうのは90%が実際の経験で、10%が天性のものである。色んな人と出会って、自分のことをそれぞれの人がどう思っているのか、その人がどれほどの能力を持っているのか、それを見極める能力を磨くのである。本に載っている会ったこともない人の体験談や哲学など何の役にも立たない。少年はそう思っていた。

 なので、少年は少女にはっきりと言った。そんな本を読んでいても何の役にもたたないと。少女は本を閉じて、少年の方を見た。少女はそんなことはないと主張した。私はこれを読んでいてとても為になったことがある。だからこの本に限らず色んな本を読んでいるんだと。

 少年はよくわからなかったが、ならいいかと自分の席に戻った。そうして少女はまた本を読み始めた。自分の考えを否定された少年は、さらに少女のことが気になっていた。

 

 ある日、少女の周りに女子たちが集まっていた。あまり良い雰囲気ではない。漏れ聞こえてくる話を聞くと恋愛沙汰らしい。あんなおとなしい子にも恋だの愛だのがあるのかと少年は感心した。詰め寄る女子生徒に臆することもなく少女は一言ずつ何かを言っているようだった。女子生徒たちは観念したのか、少女の席から離れていった。いじめにでも発展するんじゃないのかと心配して、少年は少女のことを見ていた。

 少女は本を取り出した。題名が見える。今日の本は『恋のかけひき』だった。本当にあんなおとなしい少女が恋愛のかけひきを学ぼうとしているのだろうか。実はおとなしいのは表面だけで、裏では遊んでいるんではないだろうか。そんな考えが少年に浮かび、少しイライラした気分で少女のことを見続けた。

 

 また、とある日少女は学校を休んでいた。少年は誰もいない席を見る。机には一冊の本が置いてある。それは有名な恋愛小説である。余命が少ない彼女のために、彼氏が必死で思い出づくりをするという話だったと思う。少年はそれを見て少し、不安になった。もしかして少女は……。

 

 少女はすぐに学校に復帰した。それでも少年は不安だった。少女はまだ例の恋愛小説を読んでいる。ページ数からいって、もう最後のほうだ。彼女の命がとうとう危うくなってくる展開らへんだろう。少女は無表情で読書を続けていた。少年はそのとき少女が何を感じているのか知りたくて仕方がなかった。

 

 少女はまた学校を休んだ。そして机には本が置いてあった。題名は『死を考える』である。少年は平静を保っていられなかった。今すぐ少女に会って話をしたい。何の話でもいいから。

 

 少女は数日で学校に復帰した。少年はついに少女に話しかけた。君は何か望んでいることはあるのかと聞いた。少女は少し考えて、望んでいることはすでに叶っていると言った。少年はわけがわからず少女の笑顔を見ていたが、読んでいる本に目がいった。その本の題名は『人の心理』だった。死に関する本から急に違うジャンルの本に変わっていたので、少年は驚いた。

 少女は本を読みながら、この本には人を惹き付ける方法が書いてあると言った。少年はよくわからないという顔をした。少女は自分には人を見る目があると主張した。それは少年が少女に初めて話し掛けた内容だ。

 少女はいくつかの本を出した。それは少年が見かけた本である。少女はこの本を読んでも面白くはなかったと言う。ただ、ある目的のために読んでいただけだと。少年はその目的は何かと聞いた。その目的は今であると少女は答えた。少年はさらにわけがわからなくなっていた。少女は今、少年が少女のことを心配していることこそ目的であると言った。

 少年は理解した。少女は少年を試していたのだと。少女の見る目が確かかどうかを実践していたのだ。少年は苦笑した。少女の手のひらで転がされていたのだ。少年は視力2.0の目で少女を観察していた。だが、少女は心の目と本で少年を観察していたのである。どちらが見る目があるのかは確実だ。

 少年はやっと少女に恋をしていると自覚した。自分の見る目のなさを笑いながら。

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