第1話 誰かの為の物語
どうも、シラスよいちです。ハーメルンからお引っ越しして、このシリーズを小説家になろうで出すことにしました。楽しんで読んで戴ければ幸いです。
人間はある意味、いつも仮面を被って生きている。
つまり、誰か(自分も含む)を騙して生きている。
俺の場合その誰かは、俺と関わってしまった全員だ。
勿論これは哲学的な考えなのだが、物理的に仮面を被るとそれがしやすくなるという話もある。
俺は一年前のある夜、近所の林で白い仮面を拾う。
あの時仮面は、暗がりの中俺を見返して、笑っていた。
その後、何回見ても不気味な程に無表情なのに。
思えばあの時物珍しさと好奇心で、リュックに忍ばせたのが間違いだったのだろう。確かに俺はあの時、罪を犯したのだ。
こうして、夜毎に名前も知らない仮面を被った誰かに怯え続けるのもその罰だ。
そしてあの夜悪かったのは誰かを考える。
仮面を拾った俺が悪い…仮面を捨てた(落とした?)奴が悪い…今でも今更変わらない過去のifを考え続ける。
いつだってそうだ。
あの時こうしていれば…過去の自分を責める。またある時は責任転嫁して誰かを責める、表情にも言葉にも出さず、ただひたすら脳内でifの世界を想像する。そして死にたくなる。
一方で未来のことも想像するが、想像するだけで未来のために行動はしない。それが数秒後の未来でも。
行動はしない、面倒臭いから、そんな資格ないから。想像だけしていれば十分だ。そもそも大前提として俺に生きる資格、ましてや未来を変える資格なんて皆無だ。罪を犯したのだから。
だから俺は、誰の未来にも干渉しない。自分や誰かを救ったりしない。
そんな持論を振りかざしていた、誰かの為の物語の物語だ。
おとりあえずこのノートにでも、現状を書き込もうと思う。
昔、俺は白い仮面を拾った。
その直後くらいから仮面を被った奴らに追われるようになった。
ひょっとこだのオペラ座の怪人(以下オペラ座)だのガスマスクだの色々な仮面がいるが、オペラ座とガスマスクは妙に多い気がする。これがここ最近の現状だ。
さっきもまた仮面に追われたのだが、仮面被ってる奴で初めてマトモな奴と会ったので書き残しておく。
この馬鹿みたいに寒い塾の帰り道、ふと立ち寄った公園で仮面を被ってお気に入りのバンドの曲を口ずさんでいた。そして今からサビに入ろうかというところでいつものオペラ座が急に現れやがった。
こっちは学生(24歳ではない)だぞ。土日に現れるならまだしもさぁ。
で、今回も必死に逃げたんだが仮面を拾った林まで逃げても追って来ててびびった。
その時俺は、木につまずいてオペラ座に追い付かれてさ、首絞められたんだよ。握力が尋常じゃなかった、まるで人間じゃないみたいに。その時だった。
あぁ、ようやく死ねるって思ってたのに俺を絞め殺してくれそうだった手が突然、金縛りにあったかのように止まった。急に呼吸が楽になり、思わず咳き込む。
その時、オペラ座の背後から自分と同じくらいの背丈の、仮面を被った女性が姿を表し俺に話し掛けてきた。
「大丈夫ですか?」
声の主を見やると、白粉を塗った美し過ぎる芸者の仮面を被っていた。その声を聞いた時、いつもの癖でまたどんな人間なのか想像してしまった。
――歌が上手い清楚系美少女(15)~(17)、誰とでも仲が良い?
そこまで想像してから、あまりにも場違いなことに気づき、ようやく言葉を返す。
「あっ、はい大丈夫です。ありがとうございました。」
俺が他人行儀にそう答えると、彼女は心底ホッとした様な声で
「良かった…」
と安堵する。そんな様子を他人事のように見ていた俺は、再び思考を巡らせる。そしてふと思った。
彼女は赤の他人のはずの俺を何故助けたんだろう?
何回想像しても、それらしい答えは出て来ない。
面倒臭いので聞きはしなかったのだが、答えの出ないこの問は、ノートに書き留めている今になっても答えが出ないまま、俺の中から立ち去ろうとしなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございました!どうでしたか?良ければ感想を書いて戴ければ幸いです。