表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界報道部  作者: 佐々木 草庵
1/1

序章

まだ書き始めです・・・。

そして書きためてません・・・。

「今よ!スクープ確保!」


黒髪がなびく女性から凛々しい声が飛び出す。

カメラを持った男性が飛び出し、フラッシュを光らせる。


突然の出来事に、呆然とする男性数人。

そんな彼らに対し堂々と黒髪の女性は話し出す。

「私は鷹森 星花、報道部の部長です。大会を前にして喫煙なんて、良い度胸してるわね!

 証拠は私たちがおさえました。おって学校側からの沙汰をお待ちなさい!」


ようやく事態を理解したらしい野球部の部員が慌ててわめき出す。

しかし、もう遅いのだ。やってしまった後悔を戻す術はない。



俺の名前は薬師 蔵人。私立創世学園の報道部副部長をしている。


この私立創世学園は、新鋭の高校で、文武問わず優秀な人材が集まっている。

近年は野球やサッカーだけに留まらず、個人種目の柔道、水泳、陸上などでも

我が校の勇姿を見かけるようになった。


そんな、ちょっとした話題の高校だからこそ逆にスキャンダルも多い。

実力校ならではの重圧からくる暴力行為、厳しい練習から逃避する為の喫煙、飲酒。

先生と生徒の不貞行為など、よくある事件であっても話題校であるが故に影響力は

他校の比ではない。


そんな学園の許されない歪みを事前に摘み取るのが我々報道部なのだ!


・・・と格好良い事を言ったものの、それほど大義名分がある訳もなく、

ただ、好奇心だけで動き回る集団が我々である。


鷹森 星花。

彼女が所謂、この報道部の元凶であると言えばよいだろうか。

報道部自体、彼女が立ち上げた部活であり、普通の新聞部であれば良かったのだが・・・・。


この学園は優秀な人材が集まるものの、急進的な成長を遂げただけに、欠陥も多く、

同時に変革しなければならないルールや環境が追いつかない状態にある。

例えば生徒の精神。

名声を得、実績をもったプライドの高い中学生が入学してくるが、

心の成長が出来ていない為、ちょっとしたことで挫折したり、脇道へ寄ったり、

下手すれば暴走してしまう時もある。

そんな学生生活にありがちな事を、短時間で歩んできたこの学園は、そういった困難も

圧縮されているのだ。


それを正す為の報道部、であればまだこの部に対しての正義があったんだろうが、

本人に言わせれば、ワクワクしないニュースはどうでもいい、という見解らしいので、

先ほどの喫煙の件も彼女にとっては実はどうでも良いのだろう。

しかし、それだけなら良かった。


鷹森 星花が元凶たる所以は、そういったニュースであっても

有効活用には躊躇しない、というところにある。

喫煙の件が自分にとって興味をそそらないとしても、その事案が

例えば野球部に、例えば学校に、それぞれに対して有益に交渉出来る事案だと

すれば、それはそれで是非もなしと考えているのである。


つまり、報道部に於いては、正道たるスクープ、学園ニュースに加えて、

学内不祥事事案も裏で極秘に取り扱われ、交渉が成立すれば不掲載、

交渉が決裂すれば報復の掲載となり、必然的に学内からは畏怖されていくのである。


その一例として、我が報道部は校庭の隅にある用具庫を改装して使用している。

これは癒着のない独立した団体・・・などと潔癖な理由な訳でもなく、

単純に他の部活動から避けられ、全部活一致で部活棟への入棟を拒否されたのだ。

それだけこの報道部は他の部活からは嫌われているといえる。


我が報道部には学園ニュースに加えて、もう一つ、仕事がある。

これは地域密着ニュースとしての学外活動にあたる。

例えばどこかの家の家庭料理の紹介であったり、商店街のお得情報であったり、

地域と密着したニュースをインターネットで紹介し、ご近所の好評を得ている。

これが実は学園の評判にそれなりの影響を及ぼしており、学園側も下手に報道部を

処分出来ず、良い意味で学園、部活、報道部の均衡を保たせている。


そしてこの学外活動、これにも実は裏活動がある。

地域情報は家庭や商店街などに留まらず街の政治活動、行政などにも及ぶ事がある。

これらの裏情報は特定のメディアに売られたり、地域情報サービスなど、

他の情報サイトに売られ、その収益を上げている・・・・と巷では噂されている。


それらの噂の原因は、おそらく報道部の設備なのだと思っている。

これらを見てもらうとわかるが、我が報道部は学園内でも類を見ない充実した設備が整っているのだ。


各メンバーにはそれぞれ1台ずつのノートPCと小型wifi、小型デジカメが配られ、

カメラマン用のビデオカメラも数台完備されている。

また、報道部専用の固定回線が配備され、独自のネット活動が行われている。


そして、先の大地震の影響で、部室の屋根には太陽光発電が装備されているのだ。

また業務用蓄電池や無停電電源装置(UPS)など、停電の時でも何の不安もない環境である。


備蓄もプリンタのインクから、デジカメの電池、小型バッテリーなどの消耗品だけに

留まらず、保存のきく食料も備蓄されている。

部長曰く、「深刻な災害の時こそ報道部が英雄になる、だから備えは常に必要なのだ」と。


それが正しいのかどうかは俺には判断出来ないが、確かに先の大地震を考えると

今は過剰なくらいがちょうどいいのかもしれない、と思っている。



我が報道部は1年~2年の全10名で構成されている。


部長の鷹森 星花。彼女は俺の幼なじみで、昔から突っ走るタイプの女。

綺麗な長い黒髪なので、お淑やかに思われがちだが、とんでもない。

口より先に手が出るタイプ、考えるより行動するタイプなのだから、

ついて行く方も必死だ。

時折、甘えてくるところがあるので、ついていく人間も多い。


そして俺が副部長。部長を補佐するのが役目だが、報道部に於いての専門的な役割は

持ち得ていない。強いて言えば衝突する意見を交通整理してあげる事くらいか。

特別な能力がある訳ではないが、そういったところから、まわりからは「町奉行」なんて

呼ばれてたりもする。


次に我が報道部だが、先に述べた作業の割には10人という少数精鋭で挑んでいるので、

それほど大きな部署分けは行われていない。


先ずはカメラマン。

リードカメラマンの五堂 惇也と名久井 みずきの2人で担っている。

五堂は俺と仲の良い同級生で中学校時代からよく連んでいたオタク仲間。

女性の太ももや尻を隠し撮りするのが趣味の、肉食系ぽっちゃり男子で、元々写真部だったのだが、

ある日、女性の隠し撮りの隠密を星花に見つかり、それ以来、報道部に転部する事になった。

隠し撮りを黙認する代わりに報道部のカメラマンをやると言ってたが、半分脅迫されているようにも思える。

ただ、報道部に入ってからは本人曰く、

「これだけの設備があるから、本来のカメラに興味を持たざるを得ない」

と言っているので、ある意味、更正しているのかもしれない。

技術はそれほどでもないが、スクープの一瞬にかける忍耐力と集中力は人並み外れているので、

とても頼りになるやつだ。


名久井 みずきは1年生だが、一見して女性と見間違いそうな、可愛らしい男だ。

性格も草食系で恥ずかしがり、しかも五堂にに懐いていて、師匠と呼んでいる。

端から見たらホモっぽいように思え、五堂との師弟関係は別な違う意味で疑われている。



構成編集デスクとして記事を束ねているのは桧葉 健太郎だ。 

桧葉は、同じ2年。とてもまじめな優等生で学園新聞のまとめ役である。

何でもそつなくこなすが、無難過ぎる選択をするので、度々部長と衝突する。

堅すぎる性格が頼れるところであり、逆に欠点でもある。



記者として、まずは箕輪 崇士。

2年でイケメンだ。頭もよく優しいのでとてもモテる。かなりモテる。

記事の見せ方、表現の仕方のカンが良く、他の記事担当から全幅の信頼を得ている。

星花とは時々意見の食い違いで衝突しているので、度々助け船を出している。

記者チームのリーダーで、信頼も厚い。


次に不動 雅教、2年。崇士と双璧を成す記者だが、一匹狼で単独行動をする。

隠密性に優れていると表現すれば良いのか、どこにいるのかもわからず、

知らない間に大物スクープを持ち込んでくる。おそらく人との団らんが苦手なのだろうが、

貴重な戦力だ。


篠倉 倫世は1年の記者だ。女性ならではの感性で料理や生活などに密着した記事に定評がある。

主に学外で運営している情報サイトのご近所情報やお料理情報などを手がけており、

主婦などの信頼が厚い。

美味しいものを見つけると暴走し、時々手がつけられなくなる時があり、

意外なところで行動派なので、星花の後を継ぐのは彼女だと言われている。



報道部上では書記だが、経理・事務を担当しているのが、那須 こゆき だ。

そろばんが得意な1年生で、中学校からの後輩だ。

まぁ星花と俺のドタバタを毎度毎度笑顔で見守っててくれている、妹のような存在だ。

今年ウチに入学して報道部を見るなり、杜撰な管理に唖然とし、経理として入部する事を決意したそうだ。

しかし、入部したらしたで「裏でこんなに金が動いているとか頭おかしい」と困惑していた。

今ではそれも無難に処理し、おかげさまで運営も安定し、1年にして「報道部の母」と呼ばれるようになった。

妹が母ちゃんかよって、星花と笑ってたが、本当に頼りにしている。



そうそう、忘れるところだった。

報道部にはもう1人幽霊部員がいる。鎌取 源。同じ2年だが実はあまり話した事がない。

学園の部活動にはたまにしか顔を出さない。どうやら夜、たまに部室で寝泊まりをしているらしい。

本来なら除名されてもいい立場だが、報道部で得た裏の情報を外に売り、部活の資金として提供しているらしい。

俺らの間では「密売人」と言っている。

珍しく今日は参加しているが影が薄いのであまり気づかれていない。


そんな総勢10名が、毎日放課後になるとあちこち飛び回っている訳だ。



「全員が揃ったところで、今日の会議を始めるわよ」

星花が話を切り出した。


「今日の議題は来月の学園祭について。他部の情報はどうなってるの?」


「はい!」

倫世は1年生の割にハキハキとしていて、真っ先に意見を述べる。

会議の火付け役とでも言うべきか。

「私が調べてきたのは主に文化系ですね。吹奏楽部、演劇部、ダンス部、軽音部、このあたりは

 今年も体育館ステージを使った、見世物系の出展ですね。特に変わったことはやらなさそうです。

 目新しいところだと放送部あたりがタレントを呼んでゲーム実況をするらしいです。校内・校外向けに。

 あと、超常現象部あたりが何かおかしな事を考えてるみたいですよ。

 それと写真部が五堂さんのスクープ画像をいくつか貸して欲しいと依頼がありました。」

「俺の?どんな?」

「はい、何でも、低アングルからのローリングした画像とか、ボツ画像でもかまわないので、

 躍動感のあるものが欲しいとのことです。あ、あと、マル秘なヤツ・・・言えばわかると言ってました。」

「ボツでいいのか、わかった、一応まとめとく。」

「マル秘なヤツって何ですか-?」

「い、いや、それはこの場では・・・」

「五堂くん」

「は、はい」

「ちゃんと対価は請求してよね」

「そ、それはもちろん・・・ちゃんと部長に報告するって」

「それと、倫世、その超常現象部のって何なの?」

「はいー、それが結構極秘に動いているらしく、全然内容がわからないんですよ」

「ふむ。わかったわ。では文化部は超常現象部の調査を厚くして」

「了解ですー」


「次に運動部ね。野球部、バスケ部、サッカー部、陸上部、相撲部。以上の部活からは、事前に街サイトでの

 宣伝依頼を受けているから、取材して枠を大きく確保してコメントと記事を載せてあげて」

「ちょっと部長。質問があるんだけど」

手を挙げたのは編成の箕輪 崇士だ。崇士はドがつくほどの優等生な男だ。

「野球部ってさっきの不祥事とかあるんだけど、文化祭と不祥事、両方の記事を書くって事?」

「いいえ、野球部の件は既に和解済みよ。忘れていいわよ」

「そうなの?こっちは2週間も前から準備して記事も下書きさせていたんだけど」

「だから仕方ないでしょ。示談の申し入れがあったのよ。野球部と学園側から」

「マジかー、結構世間に問うコラムみたいに、よく書けたんだけどなー」

記事担当の桧葉 健太郎が残念そうに部長を見る。

「我慢なさい、学園との調和も大事なのよ」

「先月は正義の報道部っつってたぞー」

健太郎の余計な一言が星花に火をつけた。

「だから!報道部の運営には駆け引きが必要なのよ!記事の良し悪しも大事だけど、時には引く選択もしなきゃ

 ならないの!」

「そのレギュレーションがわからないんだよ。どう考えても部長基準で気分次第なんじゃ」

「はぁ?私が自分勝手に決めてるっていうの?だったら会議なんて必要ないじゃない!」


崇士も健太郎も真剣にやっているからこそ、こうして部長と衝突する訳だが、相手が星花じゃ折れる訳がない。

そこでようやく俺の出番になる。


「まぁまぁ、落ち着け。確かに記者側からすると、ずっと準備してきた記事をなかったことにされるのは

 つらいかもしれん。それを相談なしに独断で示談を決めてきた星花に落ち度はあると思う。

 しかし、大局をみよう。普段だったらそれで良いと思うが、今回は文化祭特集だ。

 ここで野球部の不祥事を掲載しても、誰も喜ばないし、他の話題ですぐかき消されてしまう。

 いずれにしても時期が悪かったという事で、ここは痛み分けにしないか?」

「確かに文化祭に出す記事でもないし、時期が悪かったのは認める。しかし次はちゃんと相談してくれよ」

崇士も健太郎も仕方なしに矛をおさめる。

「そうね、確かに相談なしに決めてしまったのは謝るわ、ごめんなさい」

星花も俺のつけた道筋が一番おさまりやすい



会議が一息ついた時、ふとした異変に気づく。

「地震?」

不動がボソっというと、脅威ははいきなり報道部を襲ってきた。

「でかいぞ、気をつけろ!」

突然の大揺れが部室を襲う。

部員全員、いったん机の下に入るものの、揺れは想像以上に大きい。


崇士が慌てて、パソコン関連をシャットダウンさせ始める。

揺れは途切れることなく続き、落ち着く暇も与えず更にもう一段激しくなる。

「これは大き過ぎる!みんな!いったん地下倉庫に避難するのよ!」

星花の号令で、部員はすぐに倉庫に避難しはじめた。


この地下倉庫、学校には全く届け出ていない秘密の倉庫で、

保存食やら機材の消耗品など、予算からは到底考えられないようなものを置いている。

また、昨年おこった大地震を教訓にシェルターとしても強化していたのだ。


とはいえ、今回の地震は前回よりも激しい。おそらく学校や近隣も大きな被害が出ていることだろう。

倫世やこゆきは当然のこと、さすがに部長の星花も不安の色を隠せない。

このままずっと揺れ続けるのだろうか、そんな不安を抱き始めるが、地震はまだ止まらない。


「このまま死んじゃうのかな・・・」

倫世が泣きながら呟いた言葉に、誰も返す言葉が見つからない。


5分ほど続いただろうか、ようやく地震が緩やかになり始めた。ひょっとしたら慣れてしまった錯覚かも

と疑心暗鬼になりそうだったが、やっと体感でもおさまりはじめたのを実感した。

しかし、油断は出来ない、第二波がくるかもしれない。

そう思いながらも、いったんおさまったのを見計らって、俺たちは部室へ上がっていく。


電気も消え、辺りは真っ暗だが、かろうじて月明かりが俺たちの存在を認識させている。

こういう事態に備えて、報道部には無停電電源装置(UPS)が置いてあるのだが、

普段は使用しないので、起動はさせておらずその役目は果たしていない。


あたりを見回すと机にあったものが散乱し、棚も崩れている。

俺たちの生命線であるパソコン機器は無事なようだ。


ようやく部員一同に、ひとときの安息が訪れる。

とりあえず俺たちは生きている。誰も死ぬことはなかった。

けれど、まわりはどうなっているのだろうか、これだけ大きな地震だ、

学園が無事である訳はない。

周辺の住民はどうだろうか、やはり倒壊した家屋に閉じ込められている人も

いるのかもしれない。


ここからが俺たち報道部が準備してきた事が役に立つ時だ、

自分たちの無事を確認し、まわりを心配する余裕が部員にも出始めたころ。


「みんな、怪我はない?また来るかもしれないから非常電源には切り替えずに、

 懐中電灯を使ってこのまま片付けて。大きいものは床に置いてね」

星花はテキパキと指示を出していく。そんな空気を遮るように

「おい、ちょっと窓の外を見てみろよ!」

突然、健太郎が大声をあげる。

「学園が・・・・ない!」

いきなり何を言い出すのかと思いながら、みんなで窓の外を見ると、本当に学園が見あたらなかった。

倒壊してしまったのか!と一同が思ったが、そもそもそういった形跡も見当たらない。

それどころか、校庭の片隅にあるはずの部室から見えるのは平原・・・とでもいうのだろうか。

草むらがあたり一面にあるような、全く別のところだった。

「一体どうなってるんだ・・・有り得ん。ちょっと外を見てくる」

崇士の声をきっかけに、俺や健太郎、惇也、不動と源の男衆が一斉に外に飛び出す。


「どこなんだ・・・ここは」

俺ら含め全員が呆然とした。暗闇の中とはいえ、月明かりに照らされたその光景は

俺たちの全く知らない世界だった。


月の明かりのみに照らされた俺たちの視界には、先ほどまで過ごしていた学園の風景は

見当たらず、どこぞの大自然の真ん中にでもいるような、辺り一面、草原の世界だった。


「とにかく現状の位置状況を確認するぞ」

崇士が俺たちに促すと同時に、男衆は各方角を見回る。

「現状が不明なんだからあまり遠くに行かないようにね!」

遠くで部長の声を聞きながら、俺と惇也は部室の裏の方角に集落らしきものが近くにあることに気づく。

「あれ、村かなんかか?」

惇也が俺に聞くが、そうだろうとしか答えられない。

「どうする?ちょっと離れているが見に行くか?」


本来なら、こんな月光しか存在しない夜に、ましてや学園の形跡すらない事態のこの状況に

部室を離れてしまうのは危険極まりない。

なので俺の判断も揺らぐ。

しかし、こんな訳のわからない状況だからこそ、少しでも情報を得たいと思うのは、

本能だろうか、それとも報道部ゆえの職業病だろうか。


少し時間をおいて、俺は惇也の問いに対してうなずく。


離れているといっても、部室からは200mくらいだろうか。

集落に向かうまでにそれほど時間は必要としなかった。


訪れた集落は外壁はあるものの、人の身長ほどの高さで一般的だ。

ただ、その外壁の土壁もそうだが、転々と建っている家がどうにも現代には思えないような

木造作りで、しかも昔の木造建築と比べてもちょっと雰囲気が違う。


「村の中に入ってみるか?」

惇也は俺に問いかけるが、流石にここからは危険かもしれない。

「いや、村全体から明かりが見当たらない。さすがに知らない人間が真夜中に村に来たら

 不測の事態がおこるかもしれない。いったん戻って朝になるまで待とう」

惇也も同意見だったようで、俺たちは村の中に入ることなく、部室に戻る選択をした。

まずは村があったという情報だけでも充分としよう。


「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!!」

俺たちが部室に戻ろうとする途中の静寂な暗闇の中で、突然、男の悲鳴が響き渡る!


「ヤバい!走って戻るぞ!」

俺は何が起こったのかは二の次として、惇也に促して、全速力で部室に向かった。

まずは安全圏に身を置かなければと考えた。


部室に駆け込むと、部長が青ざめた表情で話しかけてきた。

「蔵人!良かった無事だったのね!」

ホッとしている星花を見ながら、俺は皆に問いかける。

「あの悲鳴は誰だ?何があったんだ?」


「ここにいる男衆は俺、蔵人、惇也、みずきだから、後は崇士か不動か源・・・もしくは別の誰か・・・って事か」

健太郎が冷静に話すと、

「俺ならここにいるぞ」

源が暗闇から湧いて出る。

「わ!びっくりした!おどかさないで下さいよ」

既にわめいていたこゆきの顔が更に泣き崩れていた。

「すまん、すまん。こんな性分だからな、申し訳なかった」

「でも無事で何よりです・・・ホント良かった」


「って事は残りは崇士か不動か・・・」

徐々に人数が絞れていく。

この状況で、あの悲鳴はウチの部員のモノではありませんでした。

そんな答えをどこかで期待してたりもするが、今の環境から推測すると、

限りなくそれは低いのもわかってしまう。

本当にみんなが無事であって欲しい。あの悲鳴は単に何かに驚いただけの事で

あって欲しい。


一同が不安を隠せない雰囲気の中、ようやく誰かが戻ってきた。


「くっ、みんな無事か!」

不動だ。よく見るとYシャツは血がにじんでおり、頭からも血が流れていて、

かなり負傷していた。

ふらふらの状態でなんとか部室に辿り着いたのだろう。

「大丈夫か!早く中に入れ」

俺は不動の肩を担ぎながら、横になれそうなスペースで彼を横にねかす。

「不動、何があったんだ?崇士はどうした?」

傷ついているのを知りつつも、俺は崇士の事を聞いた。

「崇士がやられた!」

苦しそうに不動が答える。

「やられた?どういうことだ」

健太郎が横から聞く。

「確認はしていないが・・・化け物だ!化け物に襲われた!」


不動の突拍子もない一言に、その場にいた一同が絶句した。


「化け物?・・・何を言ってるんだ?いったいどんな化け物だっていうんだ?」

おそるおそる聞くと

「熊・・・いや、狼か、熊のようなもの凄く大きいヤツだった。その爪で俺を切りつけた後、

 大きな牙で崇士に襲いかかっていた。俺は怖くて、崇士が悲鳴をあげても、見ている事しか出来なかった・・・くそっ!」

憤りを隠せないのか、それとも出血のせいか、徐々に不動の息が荒くなる。

「アイツは・・・多分喰われた・・・ふぐぅ」

「不動、もういい。とにかく先ずは手当をして休め。良かったな、医者の娘がいて」

俺はそう言いながら、こゆきに手当を依頼した。

「見よう見まねですけど、で、出来る限り頑張ってみます」

こゆきは震えながらも気丈に行動しようとしていた。


苛立ちと恐怖を半々にしたような顔をしながら、星花が言った。

「とにかく、朝が来るまでは懐中電灯も消して地下に待機よ。そんな化け物が徘徊しているなら、ここも安全じゃないわ」

「崇士はどうする?」

惇也が確認するかのように星花に聞いたが、俺が代わりに言った。

「どうにかしたいところなんだが、さすがに不動の状態を見てると、この暗闇の中で崇士の生死の確認と

 身柄を確保しにいくのは危険過ぎる。

 もし崇士が未だ生きていたら・・・と考えると不憫だが、しかし、ここは俺らの安全確保を優先したい。

 異論があるなら俺に言ってくれ」

その場にいた全員が押し黙ってしまった。多分みんな同じ意見だったんだろう。

崇士が生きていたとして、誰がその場に行くのか。全く未知の世界につれて来られ、

更に傷ついた不動の姿を見た後で、勇敢に立ち向かう者は誰もいなかった。


俺たちは速やかに懐中電灯を消し、地下倉庫に入っていった。


「私たちのいた世界で考えたとして、最大8時間ね。ちょくちょく地上の様子を確認して明るくなったらすぐに

 周りを捜索よ」

星花の言葉をきっかけに、場は報告会になっていく。

「そうだ、俺と蔵人は裏の方がに集落を見かけた。全く明かりが見られなかったので、外観だけ確認して戻ってきたが」

惇也が思い出したかのように報告した。

「そうなの?それじゃ私たちは村の近くにいたのに化け物に襲われたってわけ?」

星花の問いに俺が答える

「いや、集落と認識したが、人と遭遇した訳じゃない。それに明かりもついてなかったので無人の村の可能性もある」

「じゃあ、明るくなったらまず箕輪くんの安否の確認とその村の探索ね。それまでの間、各自仮眠をとっておいて。

 男子部員は交代で2時間おきに外の明るさを確認して」


部長の言葉で、部員たちはようやく一息ついた。

しかし、今のこの現状では仮眠すらとれる心境ではない。

とにかく崇士の安否が心配だ、ホントに生きていて欲しい。襲われたという状況だけ見ても、

今すぐにでも確認しに行きたい気持ちだ。

そして、この状況。

学園にふりかかった地震、そして見渡す限りの草原。一体何が起こったんだろうか。

考えなければならない事は多いが、とにかく先ずは早く日が昇って欲しい。

そして、それが創世学園報道部の新しい第一歩となる事に、俺たちは気づく事になる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ