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第七十二話 心の内に潜む闇

投稿遅れてすいません……

「すぅ……すぅ……」

「ははは……シルフィの奴随分気持ちよさそうに寝ているな」

「きっと泣き疲れたのじゃろうな……」


優が優しく、 そして丁寧に彼女の綺麗な金色の髪の毛を梳いてやる。

そしてティアはそんな二人の様子を優しげに見守っており、 そんな三人の様子はまさに仲むつましい()()にしか見えなかった。


「なぁ……ティア」

「なんじゃ?」

「シルフィ……どれくらいの間泣いていた?」

「そうじゃな……大体おぬしが気絶してから三時間ぐらいずっと泣いておったな」

「……」


-俺は一体何しているんだ……‼ 自分の大事な娘をそんな悲しませて……俺は……親失格だな……

シルフィを泣かせてしまったことの罪悪感、 そして自身の弱さに激しい失望感がこの時優の胸を支配し始めていた。

-このままじゃダメだ……今のままだと俺はきっと……目的を達成できない……ならどうする……? 何をすれば俺はもっと強くなれる……? 何が俺には足りないんだ……?

その事がぐるぐると優の脳内で激しく渦巻く。


「ユウ……?」

「なぁ……ティア。 教えてくれ。 俺は一体どうすれば……もっと強くなれる……?」

「……」

「俺は本当は誰にも負けちゃいけないんだ……誰よりも強く……完璧で……究極の強さを身につけないといけないんだ……‼」


優は自身の手を強く、 悔し気に握る。

そのせいで優の爪が自身の手に食い込み、 優の手のひらからは血が流れていた。


「おぬしは何故それほど力が欲しがる?」


 ティアの纏う雰囲気が突然変わる。

その雰囲気はまさしく女王と呼ぶにふさわしく、 それほどの気迫が彼女からにじみ出ていた。

いつもの優ならばその雰囲気の変化に鋭く察知していた。

だが今の優の精神状態は、 正常ではなく、 彼女の雰囲気の変化に全く気付いていなかった。

それどころか今の優は、 ティアと全く目を合わせようとしていなかった。

それは彼がシルフィを悲しませたことに対してティアに申し訳なく思っていたからであった。

ティアがそれがとてつもなく気にいらなかった。

だがその気持ちを正直に伝えたところで伝わらないことは、 彼女の眼が訴えかけていた。

だからこそ彼女は、 優の妻としてではなく、 エルフの国を統べる絶対的な女王として彼に言葉を伝えようとしていた。

そうでもしなければ今の優に誰かが言葉を……思いを伝えることなどできないからだ。


「力は絶対だ。 力がなければ何も得ることはできない……何も守れない……‼」


これはユウが親から虐待され続けた結果得たいわばこの世の心理の様なものであった。

優がこの心理を知ったのは、 彼の姉と妹が両親に歯向かった時であった。

当時優の家の稼ぎは、 圧倒的に姉と妹の方が多かった。

だからこそ両親は、 そんな二人のいうことに逆らえず、 服従していた。

だがこれがよくなかった。 何せ両親の服従はあくまで形だけであり、 その胸中では激しい怒りが渦巻いていたのだ。

そしてその怒りは、 全て優に向いた。 その結果優は虐待されたのだ。

つまり優が虐待されたのは、 彼の姉と妹のせいであると言えた。

 だが優は、 姉と妹を恨んでいない。 それはなぜか? 彼女たちが優の事を深く愛していたから?

無論それが大きな要因であることに違いはない。 だが一番ではない。

一番の要因は、 このおかげで優は力こそこの世で最も大事な物であるという教訓を得ることができたからであった。

無論この教訓は、 間違っている。 だが優の中では違う。 彼は()()でこの教訓こそがこの世の心理だと思っているのだ。

そんな優の眼は、 酷く虚ろであった。

その瞳からは何も感じない。 何も光を見いだせない。

まさしく闇……優の胸中に潜めく闇そのものが彼の瞳に現れていたのだ。

ーまさかユウの中にこれほどの闇が巣食っておったとはなぁ……

ティアの知るユウという男は、 まさしく太陽。 例えどんなに辛く、 困難なことがあっても彼は、 死ぬ気ですべてこなしてきた。 そんな一生懸命で、 一途な優に彼女は惹かれたのだ。

だからこそそんな人間にに闇の部分があるなど彼女は今までまるで考えもしなかった。

だが今はその考えが間違いだと知る。

ーそもそも何故わらわはユウに負の側面がないなどと思っておったのじゃ……‼

人間だれしも闇の部分はある。 事実ティアは自身にもその部分があるのを知っている。 むしろ自分はその側面の方が強いとさえ思っている。

だからなのだろう。 そんな自分ですら救って見せたユウに負の側面があるなど全く考えもしなかったのだ。 いや、 そうではない。 彼女は考えないようにしていた。

それはユウの綺麗な部分だけを見ていたかったから。 ユウには、 人間の中の醜い部分などない。

他の人間とは違う特別な存在なのだとそう彼女は、 思いたかったのだ。

  彼女がそう思いたかったのは、 彼女の種族エルフの中でもとびきり特別な存在であるハイエルフであったからだ。

実はティアは、 初めは他のエルフから酷く恐れられていたのだ。

それは偏に彼女の能力である未来視のせいであった。

だれだって自分の未来が決まっていることを他人からは、 聞かされたくない者である。

 だからこそ見ただけで相手の未来がわかる彼女に近づくものは、 誰一人いなかった。

 その事に彼女は酷く苦悩した。 何故自分は他の皆とは違うのか? 何故自分は一人ボッチなのか?

何故誰も私の事を愛してくれないのか? その事がつもり積もってやがて彼女は世界を恨みだす。

そんな時現れたのだ。 彼女の太陽が……そしてその太陽こそ昔の優である。 名前こそ今とは違うがその容姿、 性格、 口調などは全て一緒であった。


「消えろ人間……‼」

「そうはいかないな」


これが優とティアが初めて会話した内容であった。

そんな二人の初めの出合いは、 最悪であった。

優とティアが出会った当初エルフに国はできていなかった。

そして国がないということは、 ティアもまた女王ではないということ。

そう。 この当時の彼女は、 ただの平民にすぎなかったのだ。

そしてそんな彼女は、 世界を恨んでいた。

その深さは、 まさに深淵。 そんな相手の心に救う闇を払うなどまさに正気の沙汰ではない。

 事実彼は、 ティアと会う前にエルフたちに忠告されていたのだ。

 その中には、 彼女の事を化け物というものもいた。

だがその言葉は、 彼に何の効果も与えなかった。

むしろティアの事を化け物と呼ぶお前達こそ化け物だと思っていた。


 「だって君にはエルフたちの頂点に立ってもらわなくちゃいけないんだからな」

「ふざけているのかぁぁぁぁぁぁ‼」


ティアは激高した。

それもそうだろう。 何せ今まで自分の事を疎み、 嫌ってきたものたちの頂点にいきなり立てと言われたのだ。

 そのようなこと死んでも御免である。


「いいや。 全く。 それにこのままだとエルフという種族は滅びる。 それは君にもわかっているんじゃないか?」

「……‼ 何故貴様がそれを……‼」


ティアは、 素直に驚きを隠せなかった。

何せ今彼が言ったことはティアが今朝見た未来と一緒であったからだ。

その事が彼女の中で一つの考えが思いつかせる。

ーもしやコイツ……私と同じで未来が見えるのか……? それなら私の事を愛してくれるんじゃないか……?

このころからティアは酷く愛に渇き、 飢えていた。

 だからこそ自分と同じ存在が現れるということは、 非常に嬉しいことであった。

 何せ自分と同じ存在なのである。 未来が見える辛さ、 苦しさ、 悲しさの全てが共感できる……

そう。 この時彼女の中で一筋の光が生まれかけていた。

だがその光もあっという間にかき消された。


 「いや。 俺にそんな力はないよ」


ーああ……なんだ……こいつもやっぱり他の奴らと同じ存在じゃないか……

ティアの中で急速に熱が冷めていく。


「なら消えろ……‼ 私はお前なんか見たくもない……‼」


ティアの明確な拒絶。


 「だからそうはいかないって……俺はこの世界を壊されるわけにはいかないの。 だからお前には何が何でも女王になってもらう‼」


ただ優は、 彼女の拒絶を全く気にも留めておらず、 自分の主張を譲る気は一切なかった。

そんな様子の彼にティアは、 当然苛立ちを覚える。


「……‼ 勝手にしろ‼」


そう吐き捨てるとティアは、 その場を駆け足で去っていた。

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