第六十六話 騎士団長ルドルフ
前回の投稿からかなり期間が開いてしまった為、 今までの書き方と多少異なっている様に感じられるかもしれませんが、 その点ご理解のほどよろしくお願いいたします。
「ここが闘技場だよ」
「へぇ……かなり広いな」
エルフの闘技場は、 優が異世界に飛ばされて当初訓練していた場所のおおよそ三倍程広かった。
そんな闘技場では今現在騎士たちの戦闘訓練が執り行われており、 訓練にも関わらず、 本番さながらのピリピリとした雰囲気が伝わり、 その事からシルフィードの騎士たちがアーククラフトに比べて個人の戦闘能力が圧倒的に優れていることが感じ取ることができた。
「おや? これは姫様。 本日は一体どういったご用件でこちらに?」
この時のルドルフの態度は、 酷く露骨な物であり、 シルフィの事は酷く尊敬の籠った目に見ているもののその隣にいる優に関しては、 一目も見ることはなく、 羽虫のほどにも優の事を気にかけていなかった。
優も彼が自分の事をあまり心地よくない感情で見ていることは、 謁見の際に感じ取っていたが、 まさかここまで露骨な態度をとられるとは、 想定していなかった。
ただそこはそこそこ経験を踏んでいる優。
顔には不快感を表すことはなく、 彼の態度をスルーすることに努めた。
「こんにちわ。 ルドルフ。 今日は、 “お父さん”がこの国の騎士さんたちが一体どの程度の実力か気になるって言ったから見に来たの‼」
シルフィが優の事を“お父さん”といった瞬間、 ルドルフは、 ほんの一瞬鬼の様な形相で優の事を見る。
優もそのルドルフの変化に気付きはしたものの、 あえてそこに突っ込む程バカではなく、 未だ涼しい顔をしていた。
「どうかしたのルドルフ?」
「いえ。 なんでもありません」
「そう? ならいいんだけど……それでね。 ルドルフ。 実は一つ御願いがあるんだけど……」
「ははは。 姫様。 そう遠慮なさらないでください。 姫様の願いです。 例えこのルドルフ。 命に代えても叶えて差し上げましょう」
「おいおい。 そんな簡単に言って後悔しても知らんぞ」
「……」
「無視かよ」
優は、 ただ純粋にルドルフの為を思って口を挟んだのだがその言葉もルドルフは、 全く聞いていなかった。
そのような反応に流石の優も少しばかりの嫌悪感が表情に現れる。
「もう‼ ルドルフ‼ なんで“お父さん”の事無視するの‼」
またルドルフの顔が歪む。
その時間は先程より明らかに伸びているにも関わらず、 シルフィは未だ気づかず言葉を続ける。
「“お父さん”を嫌う人なんて嫌い‼ そんな人にお願い事なんてしない‼」
「ひ、 姫様ですが……」
「“お父さん”行こう‼」
そう言って優の手を取り進もうとするシルフィ。
だがそこで優はすかさずシルフィに“待った”をかけた。
「落ち着けシルフィ」
「何‼」
「ルドルフ? だっけか? そう強く叱らないでやってくれないか?」
優のその言葉が予想外だったのか二人は目を丸くする。
「何で!? お父さんは、 ルドルフにあそこまで酷い態度されて悔しくないの‼」
「いや」
「なら‼」
「でもな。 ルドルフが俺に対してあそこまで露骨な態度をとる理由俺は、 分からないでもないんだよ」
実際のところ優には、 ルドルフの気持ちがわからないでもなかった。
何せいきなり現れた人間が自身が忠誠を誓った人物に対してやたら親密で、 しかもその娘からは“お父さん”と呼ばれているのである。
そんな人間に対してどう考えてもいい感情を抱けるわけがない。
しかもルドルフのティアに対する感情は、 並ではないそれはまさに彼女の事を異性として愛している様に優には見て取れた。
人間だれしも好きな人間を横からとられたら怒りを露わにするものだ。
それをよく知っているからこそ優は、 彼とは親密な関係は築くことは諦めてはいはするものの普通の関係には、 なりたいと考えているのだ。
「おい人間。 貴様一体どういうつもりだ」
「やっと俺と会話する気になったのか?」
「いいから黙って質問に答えろ」
「ルドルフ‼」
「シルフィ。 少し黙っていてくれ。 これは俺とルドルフの問題だ」
優のいつもとは違う少し威圧的な声に流石のシルフィを声をくぐもらせた。
「何。 単純なことだ。 お前はどうやら俺の事を嫌っているようだが俺はお前の事を別に嫌ってはいない。 ただそれだけのことだ」
「貴様。 ふざけているのか?」
ルドルフの額に青筋が浮かび上がる。
心なしか顔も少し赤くなっており、 ルドルフが怒っていることは誰の目にも明らかであった。
実際先ほどまで熱心に訓練に励んでいたシルフィードの騎士たちも今は、 ルドルフの放つ怒気に気圧されたのか皆一様にこちらを見つめていた。
「おいおい。 そんな怖い顔するなよ。 俺は至って真面目なんだからさ」
「真面目? 笑わせてくれる」
「ならいつまでも怖い顔してないで笑えよ」
「貴様が死んだら笑えるかもな」
「おっと。 そいつはできない相談だ。 何せ俺にはまだやらなくちゃいけないことが沢山あるからな」
「ふん。 所詮貴様の様な奴が“すべきこと”などたかが知れている」
「おいおい。 流石に今のは流石に少し頭に来たなぁ……」
「なら剣を抜け。 今ここで貴様を殺してやる」
「はぁ……どうしてそうなる。 エルフって知的に見えて案外脳筋なのか?」
「貴様‼ 人間風情が我ら誇り高きエルフをを愚弄するのか‼」
「いや……そういうつもりで言ったわけじゃ……」
「ええい‼ いいから剣を抜け‼ 今ここで叩ききってやる‼」
「そうは言われても今現在俺とシルフィは、 手錠で繋がれているわけで正式な決闘はできないわけで……」
「姫様を人質にとるとはなんて卑劣な奴‼」
「どうしてそういう発想になる……」
「なら私も決闘する‼」
そのシルフィの言葉に周りが一気にどよめきだす。
特に決闘云々を言い出したルドルフの表情は、 みるみる青ざめていっていた。
「そ、 それはいけません姫様‼ もし姫様の身に何かあったら女王陛下になんと申し開きをすればよいか……」
「黙っててルドルフ。 そもそも私がここに来たのはこの国の騎士と試合をしてみたかったからなの。 だから丁度いいでしょう?」
「そ、 それとこれとは問題が……」
「それにルドルフさっき言ってたじゃない‼ 私のお願いなら何でも聞いてくれるって‼」
「そ、 それは……」
「まぁ待てシルフィ」
「何? 私これ以上我慢はできないよ?」
「そんなことはわかってる。 だから俺もお前が決闘に参加すること自体に文句をつけるつもりはない」
「やったぁ‼ お父さん大好き‼」
「な!? 貴様陛下が一体どれだけ姫様の事を可愛がっているのかわかっているのか‼」
「そんな事百も承知。 もしここでシルフィが切り傷でもしようものなら多分俺もお前も首が飛ぶだろうな」
「な、 なら……」
「“だから”この場合決闘とは言っても使用する武器は、 木刀のみにすればいいじゃないか。 そうすればシルフィがケガをすることはないしな」
「だ、 だが……」
「それに形式上二人と言ってもお前達は、シルフィを狙わず二人で俺に襲い掛かればいい。 この際騎士道なんて野暮なもの持ち出すなよ? どちらも“命”がかかってるんだから」
「ええ‼ 私木刀じゃヤダ‼ いつも使ってるのがいい‼」
「絶対にダメだ」
「ぶぅ……」
シルフィは、 唇を前に尖らせ不服そうにしてはいるものの一応は自身の目的は、 叶ってはいる為これ以上優に何かを言うことはなかった。
そもそも優が武器の使用を木刀に制限したのは、 何もシルフィの身を案じたわけだからではない。
多少なりとも心配はしているもののこの勝負どう考えても優とシルフィが負ける要素がないのである。
その為相手の身を案じ、 できる限り相手側の被害を減らし、 これ以上仲がこじれないようにするのが優の目的であった。
「……分かった。 貴様のその条件で受けてやる」
「お、 分かってくれて何よ……」
「ただし‼ 貴様が負けを認めた場合その瞬間、 貴様の首を撥ねてやるから負けても生き残れるなどとは考えるな‼」
「そんな事わかってるよ。 ただし俺が勝った場合、 俺の事きちんと“客人”としてもてなしてくれるよう心掛けてくれるか?」
「ふん。 まあ貴様が勝つ確率など億が一にもないだろうがその程度の条件でいいのなら呑んでやろう」
「よし。 契約成立だ。 それじゃあ案内してくれるか?」
未だ不承不承と言った様子ではあったもののルドルフは、 顎を使って優についてくるよう促しているあたり、 優は彼が最低限の礼儀を払っているのだろうと一人少し関心していた。
初めに前回の投稿から約三か月ほどの間が空いてしまい本当に申し訳ありませんでした。 そして未だこの作品を読んでいてくださる読者の皆様本当にありがとうございます。 私個人ネタが思いつかないから作品を更新できなかったわけではなく、 何度も申し上げている通り、 失踪する気はさらさらありませんので今後も拙い作品ではありますが「漆黒の執行者」をよろしくお願いいたします。




