第六十三話 親子
急いで書き上げた為誤字が多発しているかもしれませんがもしあった場合は報告していただけると幸いです。
優は腰から剣を高速で引き抜くとそのままビームを切り裂き、 シルフィ目掛け体当たりを仕掛ける。
「そうはさせないよ」
シルフィは優の体当たりを体の軸を横にずらすことにより難なく躱す。
優はシルフィに自身の攻撃をかわされた事により姿勢をわずかばかり崩す。
それを好機といわんばかりにシルフィは優の死角となりうる右側から優のボディ目掛け強烈な蹴りを放つ。
「しま……」
シルフィの蹴りは見事に優の腹に決まった。
優はまるでサッカーボールの様にシルフィに蹴りだされ、 軽く十メートルは吹っ飛ばされる。
「ゲホッ……ゲホ……」
-ああ、 不味いな。 これ……
優の内臓は確実に先ほどのシルフィの攻撃により傷ついていた。
シルフィの一撃は優の想定していたものよりもはるかに優に響いていた。
その証拠に優の左足は震えており、 剣を地面に突き立ててかろうじて立てる状態であった。
「あれ? もう終わりなの?」
シルフィはつまらなそうな表情をしていた。
-おいおい。 その表情は流石にイラっとくるなぁ……‼
優の目から未だ闘争心は消えていなかった。
それどころか先ほどとは打って変わって獰猛で狂暴な笑みを浮かべており、 優の体からは明らかに殺気と呼べるものが滲み出ていた。
その優の様子の変化にシルフィは嬉しそうに顔をほころばせる。
「もう手加減はなしだ。 本気で行くぞシルフィ‼」
「うんうん‼ いいよ‼ いいよ‼ お父さんの本気私に見せてよ‼」
優はシルフィ目掛け先ほどの様に突っ込む。
シルフィも先ほどと同じ様に優の頭目掛けレーザーを放つ。
「お父さんそれじゃあ私を倒せないよ‼」
「そんなことはわかってんだよ‼」
優は怒りながらビームを切り伏せ、 そのままシルフィ目掛け剣を振り下ろそうとする。
シルフィは優のその余りのワンパターンの攻撃に珍しく怒りをにじませながら、 再び優の死角となる右側へ蹴りを放つ。
「これで終わり‼」
シルフィの攻撃は優の腹に吸い込まれるように入る……はずだった。
「オラァ‼」
「う……‼」
優の蹴りはシルフィの顔に綺麗に決まっていた。
シルフィには何故自分が相手の攻撃を受けたのか全く理解できなかった。
実は優は剣をシルフィに向けて放っていたのではない。 シルフィのいる地面に目掛けて放たれていたのだ。
優は自分の剣を地面に突き立て、 そのまま遠心力を利用して自分の蹴りをシルフィの顔に無理やり届かせたのだ。
「なんだなんだもう終わりか?」
優はシルフィを完全に煽っていた。
その言葉にシルフィは、 高揚からか自身の心臓がトクンと脈打つのを感じる。
「ふふふ。 お父さんいいよ‼ もっと‼ もっとやろう‼」
シルフィは先程優に向かって投げ付けたメイスを拾うとそのまま優目掛けそれを振り下ろす。
「あははは‼ 楽しいよお父さん‼ もっと‼ もっとお父さんを感じさせて‼」
「年頃の娘がそう言うことを言うんじゃない‼」
優はシルフィの振り下ろしたメイスを何とか受け流す。
受け流した後に追撃と言わんばかりにシルフィはレーザーを優の脳天目掛け放つがそれも優の剣によって阻まれる。
「まだまだだよ‼」
シルフィは自身のメイスを何度も振るい、 レーザーも何度も放つ。
優はその都度シルフィの攻撃を適切に受け流す。
だがいくら優が攻撃を受け流すことに全力を注いでいるとしても片腕しか使えない為、 ボロが出るのは必然の事である。
「しま……」
「もらった‼」
優の剣シルフィの攻撃をついには相殺しきれなくなり、 遠くにはじき飛ばされてしまう。
それを好機と言わんばかりにシルフィは優目掛け自身の渾身の攻撃を振り下ろす。
「なんてな」
「え?」
優は左手を軽く動かす。
その瞬間シルフィの体に無数の糸が巻き付けられる。
「う、 動けない……‼」
シルフィは必死に抜け出そうとするがピクリとも体は動かなかった。
「全く骨を折らせてくれるぜ……」
「これは一体どういうことなの‼」
「どういうことも何も見ればわかるだろう?」
優が剣を弾き飛ばされたのは実はわざとであったのだ。
優はシルフィとの打ち合いの中密かに糸を地面中に張り巡らせていたのだ。
そしてその作業が終わったタイミングを見計らいわざとシルフィの攻撃によって剣をはじき飛ばされたと見せかけシルフィに一瞬の隙を生ませたのだ。
勿論その難易度は優とて至難の業であり、 一歩間違えればシルフィにやられていたのは優の方であった。
「にしてもシルフィ。 お前キャラ変わりすぎだろう……」
戦闘中のシルフィはまさしくバーサーカーの様であった。
ただその姿は優にも言えた事であり、 皮肉にもそれが優にとって自身と彼女が親子であると嫌でも感じてしまう。
「うう。 こんな糸私の能力があれば……」
「もうやめとこうぜ。 一応これ摸擬戦なんだからこれ以上やったら本当の殺し合いになる。 俺だって流石に自分の娘は殺したくない」
「むう。 それってもし殺し合いになったらシルフィに勝てるって言ってよね」
シルフィは露骨に頬を膨らませ、 少し拗ねた素振りを見せるがその頬はかすかに赤らんでおり、 娘と言われたことに照れているのを必死に隠そうとしていた。
ーやれやれだな……
優はシルフィの本心に全く気付くことなく、 少しけだる気な様子で自身の頬をかくとそのままシルフィの拘束を解除してやる。
「さて部屋に帰ろうか」
「ええ‼ シルフィもっとお父さんと遊びたい‼」
「ダメ。 お父さんにはやることがあるんだから」
「ほう。 そのやることとは一体何かわらわにも教えてくれんかのう?」
そこにはどこか怒った様子のティアが仁王立ちしながら立っていた。
ティアのその様子に優は少したじろぐ。
「い、 いつの間に帰ってきたんだ?」
「話をはぐらかすでない」
「な、 何のことかさっぱりわからないな」
「ほう。 あくまでとぼけるか。 ふふふ。 そのようなものにはお仕置きが必要だとは思わぬか?」
ティアは明らかに不吉な笑みを浮かべていた。
その様子に身の危険を感じた優はシルフィに救いを求めようとするがその場に既にシルフィの姿は見えなかった。
「に、 逃げたなシルフィ……‼」
優は恨めしそうな声を上げるがティアの怒りは一向に収まらない。
「シルフィは関係ないじゃろう。 それよりもお主わらわがおぬしの為を思ってプレゼントしてやった杖はどこにやった?」
「あ……」
優がティアから貰った杖は、 先程のシルフィとの摸擬戦?のせいで粉々に砕け散っていた。
ティアはその杖の残骸をゆっくりと拾い上げる。
「なぁ。 これは一体どういうことじゃ? わらわにもわかるよう簡潔に説明してくれぬか?」
優は冷や汗が止まらなかった。
何せ先ほどですらティアはかなり怒っていたにも関わらず、 今は完全に頭に血が上っていたのだ。
「ええとですね。 実は先ほどまでシルフィと摸擬戦をしていてそれで……」
「ほうほう。 摸擬戦とな。 それでシルフィの顔は怪我をしておったのか」
ーあ、 不味いこれ失敗したやつだ
今更後悔しても既に手遅れであった。
ティアの額には明らかに青筋が浮かんでいた。
「女の子。 しかも自身の娘の顔を殴るとはおぬしどうやら一片死にたいようじゃのう?」
「……すみません。 許してください。 なんでもしますから」
「ふふふ。 それじゃあ何をしてもらおうかのう」
「お、 お手柔らかに……」
「ダメじゃ」
「デ、 デスヨネー」
とてもいい笑顔のティアに抵抗することもなく優は、 ずるずると引きずられていく。
その夜。 優は一睡もさせてもらえなかった。




