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第六十一話 新しい禁呪

「それで具体的に何をすればいいんだ?」


優自身親から碌な愛情を注いでもらわずに育ってきた子供である。

ただ優の場合は、 幸いというのか自身の姉と妹から普通の家族以上の愛情を注いでもらって育ってきたため酷く歪むことはなかった。

優が彼女の提案を受け入れたのもシルフィの立ち位置が昔の優と少し重なる部分があったからというのもあったからだ。


「む? 何故そのような事をきくのだ?」


ティアの反応は優が予想しているものとは大きく異なっていた。

優は、 ティアのことだからどうせ自分の状況も見越した具体策を考えているのだと思っていたのである。

そんな優の予想とは裏腹にティアは心底不思議そうに優の顔を見つめていた。

この時優の脳内に電流が走った。

ーもしやティアの奴()の俺の過去については知らないんじゃないか?

そう考えるとすべてのティアが不思議そうな表情を浮かべた辻褄があった。

優はその事実を知るやいなやあまりの嬉しさにあその場で飛び跳ねたい気分ではあったが、 そこはぐっとこらえ、 つとめて冷静に話を続ける。


「実は俺は親から碌な愛情を向けられないで育ってきたんだよ。 だから正直世間一般で言う父親というものがどのような物か全くわからないし、 父からの愛情がどんなものなのかもわからないんだ」

「……そうじゃったのか」


 ティアは静かなそう呟くと少し考えたそぶりを見せる。

その時間は本当にわずかであり、 やがて何かひらめいたような顔を浮かべた。


「ティア?」

「おぬしの好きなようにするといい」


ティアは、 なげやりともいえる態度で優にそう答えた。

その答えが納得できないのか優はたまらず、 顔を顰める。


「なんじゃその顔は……」

「だってなぁ」

「おぬしが何をそんなに心配しておるかわらわにはよくわからぬがまあ安心せい。 シルフィはとても聡い子じゃ。 おぬしがあの子に向かって愛情を注いでやればすぐに理解してなついてくれる」

「そうは言われてもなぁ……」


その言葉だけでは優の心配はどうしても拭い去ることできなかった。

そんな優の心中をティアは鋭く察する。


「そんな心配せずともよい。 わらわも最初の内はわからぬかったから適当にやっていたら自然とシルフィもなついてくれたからのう」

「そうはいってもやっぱり……」

「ええい‼ うだうだうるさい‼ おぬしは男じゃろうが‼ それぐらいの事で悩むでない‼」


ティアの一喝が効いたのか優はひとまずシルフィとの接し方についての不安が多少なりとも消えたいた。

それは優の表情にも表れており先ほどまでは非常に不安そうな顔をしていたのにもかかわらず、 今の優の表情はどこか晴れやかだった。


「分かった。 この件に関してはティアの言う通りにする」

「うむ。 それでよい。 それでなんじゃがユウ。 右手を少しだしてはくれぬか?」


ティアの態度は明らかにおかしかった。

どこかそわそわしており、 先程までは優とばっちり目が合っていたのにも関わらず今は明らかに視線を逸らしていた。


「別にいいが一体何故だ?」

「いいからはやくださんか‼」

「お、 おう……」


結局優はティアの圧力に気圧され右手を差し出したがその次の瞬間ティアの口元がニヤリと笑う。

-しまった‼

優は 急いで腕を戻そうとするが既に時遅く優の体に凄まじい激痛が走り、 痛みの耐性がかなりある優ですらその痛みに耐えることはできず、 悲鳴を上げる。


「グゥ……お、 俺に何を……した……?」

「何単純なことじゃよ。 ただおぬしに()()を使ったまでよ」


ティアは大した事でもないといった様子でそう言った。

-なんだと……‼ 今禁呪って……

優は禁呪を自分以外の人間が使ってくるとは今まで考えもしなかったのである。

だがその考え自体が強者の驕りとも呼べる代物であった。

-クッソ。 俺はいつからこんなバカなミスをするようになった……‼

優は自身の失態の大きさにたまらず舌打ちする。

何せよくよく考えればティアが禁呪を使えることなど彼女が不老不死だと知っている時点で想像できるからである。

ー今更失態を悔いても遅い……だがしかしこうなるとティアは俺に一体どんな禁呪を使ったんだ?

優は一瞬ではあるがティアが使った刻印を見ることができた。

 だがしかしそれは一瞬の事であり、 魔眼が発動するのも術式が発動する寸前であり、 正確には読み取ることができなかったのだ。

それだけではない。

優は一通りの禁呪の刻印を記憶しているがそのどれにもティアが使ったものが該当しないのだ。

優が知らない禁呪となるとそれは新しい禁呪を意味していた。


「お前まさか新しい禁呪を作り出したのか?」

「なんじゃ。 もうそこまで理解したのか」

「馬鹿な禁呪を作るのに一体どれだけの時間がかかるのかわかっているのか?」


優の言う通り禁呪を新しく作るのは、 優みたいに禁呪を正確に読み取れるものでなければ相当な時間を要するものである。

優がルーやミカと契約する際に使ったものですら最低でも五百年はかかる代物なのだ。


「そんな事無論じゃよ。 幸い時間だけは腐るほどあったからのう。 まあ完成したのはつい最近じゃがな」


五百年だと大したものではないといったティアの様子に優は人間の常識がハイエルフである彼女には通じないのだとこの時初めて知った。


「……もういい。 それでお前は俺に一体どんな禁呪をかけたんだ?」

「そんなの単純じゃ。 お主の契約しておる()使()との契約をきっただけじゃよ」


その言葉に優は耳を疑った。

-今あいつ天使との契約をきったといったか? だがミカとの契約は左手にしてあるはず……

優は確認の為に自身の右手にあるルーとの契約紋を見る。

するとそこには今までははっきりと視認できた契約紋が今ではまるで色を失ったような状態でが刻まれていた。


「ふふふ。 その顔を見る限りかなり驚いておるようじゃのう」

「……これは一体どういうことだ?」

「どういうことも何もそのままじゃよ。 お主とおぬしの契約しておる天使とのペアリングを無理やり切断したまでじゃ。 まあ簡単に言うと今のおぬしは唯の人間とかわらぬということじゃ」


実は優自身も薄々その事については勘づいていた。

何せ優は先程からルーと契約した際に得られた報酬であるバニッシュを何度も唱えているのだが一向に発動する気配がみられないのである。

ーティアの言葉を認めざるを得ないか……だがこうなると……

ティアは先程から優の腕に刻まれているのが天使のものだと勘違いし続けていた。

優の事を詳しく知っているのならばここは彼の右手にある刻印が悪魔のものであると答えなければならないのである。

にもかかわらず彼女は優の右手の刻印の天使の者だと言っていた。

このことから優は、 先程の確信を得る。

-やっぱりティアは今の俺の事について全てついてしっているわけじゃないんだな

ティアの言動を関あげてみれば当然の判断であった。

ティアは確かに優の計画について確実に言い当てていた。

 だがそれは昔の優から聞いていたから知っていただけで今の優についての情報は、 ティアからは今ままで一度も詳しく語られていないのである。

-結構な痛手を負ったがこれで脱出の糸口はつかめた……


「……全く。 やられたよ。 完全に油断してた」


優はまるで彼女に屈服したかのような口調でそう言った。

その優の様子にティアは満足げな表情を浮かべる。

勿論これは優の演技であり、 全てはティアを油断させるためにしたものであったが、 肝心のティアはそんな優の様子に一向に気付く素振りはなかった。


「流石のおぬしもふいうちには弱いようじゃのう」

「そりゃ俺だって人間だからな当たり前だろう?」


その時優の予想外の出来事が発生する。


「あれ?」


何度も力を入れても立ち上がることができないのである。

そんなおかしな様子の優にティアは眉を顰める。


「もしかしておぬし立てぬのか?」

「あ、 ああ……その右半身の言うことが全くきかない」


優は先程から何度も自身の右半身に力を込めようとしているのだが、 一向に彼の右半身に変化は見られず、 右腕はだらりと垂れ下がっていた。


「ふむ。 もしかしておぬしと天使との契約を無理やり切った後遺症がきておるのかのう。 ユウ

。 ひとまず左目をつむってくれぬかのう」

「ああ……」


優はティアの言われるがままにする。

 するとどうであろう彼の視界には何も映らなかったのだ。


「な!?」

「やっぱりのう。 おそらくじゃがおぬしの体。 右半身全てが完全に機能を停止しておる。 おそらくじゃがわらわがおぬしの天使とのペアリングを無理やり切ったせいじゃのう」


ティアは淡々とそう言うが優からするとたまったものではなかった。

右半身が使えないということは機動力が大幅に制限される。

その為逃げ出す際にかなりふりになるのだ。

それだけでなく日常生活を送るにしてもかなり不便なもので、 人の助けがなければとてもじゃないが満足に生活ができるとは言えなかった。


「どうしてくれるんだよ……」

「何安心せい。 おぬしの面倒はわらわがきちんと見てやる。 無論下の世話もこみでじゃ」

「なんでティアはどこか嬉しそうなんだよ」

「む? そんなの当たり前じゃろう。 自分の好きな人が自身の手助けなしでは満足に生活することすらできない。 そんな状況喜ぶ他ないじゃろう?」

「……お前やっぱり嫌いだ」

「わらわはおぬしの事を愛しておるよユウ」

「はぁ……」


優は今後の自分の生活にティアの監視が付きまとうと考えるとため息しか出てこなかった。

そんな優を嘲笑うかのようにティアはただ嬉しそうな笑みを浮かべていた。

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