第五十六話 ハイエルフ
エルフの城は異空間にある。
そのため城に入るにはある特定の場所に行き、 そこにある特別な道具に触らなければならい。
そしてその特別な道具がある場所が今俺たちの前にある巨大な木の中だ。
この木の名前はシグルドと言い、 エルフと言う種族が生まれたときから存在している為、 彼らにとっては特別な意味を持っているらしい。
当然そんな場所には……
「止まれ。 この先に進みたいのなら入国許可証と冒険者カードを見せろ」
門番がいる。
しかもこの門番なかなかの実力者の様で見たところ冒険者ランクで言う所のA級相当の腕は持っていそうだった。
「おい。 早くしろ。 さもなくば……」
「待て。 すぐに見せるから」
俺は懐から二つを取り出すと門番に渡した。
「ほう。 お前が女王のお気に入りか」
「どうやらそうらしいな」
「なあそれなら少し実力を試させてくれないか?」
「なんでだ?」
「それは当然お前が前代未聞の奴だからだ」
前代未聞だと?
「それはどういうことだ?」
「お前まさか女王陛下が極度の“人嫌い”なことを知らないのか?」
人嫌いだと?
「その顔だとどうやら本当に知らなかったようだな。 俺も聞いただけで本当かどうかは知らないのだが女王陛下は昔から相当な人嫌いで今まで気に要るような人間は一人しかいなかったらしい」
「昔からって女王って今何歳なんだ?」
「ん? 確か2300歳だったかな」
2300歳だと!?
「おい! エルフって確か寿命はそんなに長いはずは……」
「はぁ。 お前は本当に何も知らないんだな。 なんでそんな奴が女王に気に要られているんだか」
そういう門番は首を振り、 何処か呆れている様子だった。
(優。 コイツ殺してもいい?)
(殺すなら私も手伝うわ)
(お前ら絶対に止めろよ?)
「そんなことより早く女王の寿命が長い理由を教えてくれ」
「仕方ないな。 教えてやるよ。 実はエルフの女王になるにはただのエルフではだめなんだ」
「ただのとは?」
「エルフには実は3種類いてな。 女王陛下はハイエルフと呼ばれる存在なんだ。 ハイエルフは王家の血筋を引くものしか生まれず、 寿命も存在しない」
まさか不死の存在が契約者以外にも存在するとわな。
「ちなみにもう一つはダークエルフと呼ばれていて、 暗い場所を好む為普通の人は滅多に見ることはできないな」
「そうなのか。 なあついでにもう一つ聞きたいんだがエルフとハイエルフの違いは不死なだけなのか?」
「お前なかなか勘がいいな。 実はなハイエルフにはある特別な能力が必ず備わっているんだ。 その名も先読みの目。 これは目を合わせたものの未来を見る能力で……」
先読みの目か。
これはかなり厄介な能力だな。
何せ未来が見えるということはその中には俺がファントムの姿のものも見えるはずだ。
俺の正体がバレるのだけは何としても避けなければ。
とりあえず謁見する前に適当な仮面でも作って、 ごまかすのが今打てる最善の手だな。
「おっとずいぶんと長話してしまったな。 それじゃあそろそろ手合わせお願いしようか」
「まあこれだけ情報教えてくれたんだ。 それぐらいのわがまま付き合ってやるよ」
「よし。 それじゃあ武器はこの木刀でいいか?。 それから魔法はなしのルールだ」
「了解だ」
そう言うと門番は俺と10メートルほど距離を取り、 手に持っていた槍を構えた。
「さて軽く遊んでやるか」
「あまり舐めてくれるなよ。 俺はこれでも……」
「いいからさっさとかかってこい。 それとも怖いのか?」
「そんな安い挑発に乗るほど俺は馬鹿じゃないぜ?」
まあそりゃそうだな。
だが何故俺がこんなかかるはずもない挑発をしたかと言うとそれは一瞬の隙を生み出すためだ。
人間誰しも話しかけられれば一瞬隙が生まれるものだ。
だからこそ俺は……
「チェックメイトだな」
その一瞬の隙をつき、 俺は奴の槍を叩き落し木刀の剣先を首筋に突き付けた。
「お、 お前……」
「なんだ? まるで化け物を見たような顔でこっちを見て?」
「だって普通の人間ならこの距離を魔法も使わず、 一瞬で詰めるなんて不可能だ」
「それはお前がまだまだ世の中を知らないからだよ」
「それはない。 お前が異常なだけだ」
「言ってくれるねぇ。 まあいい。 俺はもう先に言ってもいいか?」
「ああ」
「それから最後に名前だけは教えてくれないか? 因みに俺の名前は優だ」
「俺はロンだ」
「そうか。 それじゃあロン。 もし今度会ったら酒でも一緒に飲もうぜ。 もちろんお前のおごりでな」
「お前も払えよ!」
「ははは」
俺はロンからのその言葉に対し笑みで返すと木の中へと入っていった。
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木の中は光源がないにも関わらず、 なぜかとても明るかった。
(それはね。 ヒカリゴケの影響ね)
(ヒカリゴケ?)
(そう。 ヒカリゴケっていうのはね。 空気中の酸素を吸収することによって特別な植物で古い木にはよく生えているのよ)
(へぇ~ルーはよくそんなこと知ってるな)
(ふふ~ん! もっと褒めてもいいのよ!)
(優。 その知識私も当然知ってた。 しかもこの金髪アホ女は肝心な所が抜けている)
(ちょっと! 誰が金髪アホ女ですって!)
(落ち着けルー。 それで何が抜けているっていうんだ?)
(実はこの植物とても高く売れる)
(なんでだ? そんなに珍しい植物でもないんだろう?)
(それは主に人間のコレクターのせい。 この植物があることによって家がとても幻想的に見えるという理由で売りに出されるとすぐに買われてしまう。 しかも古い木の近くにはたまに凶悪なモンスターがいることがある。 だから普通の人は入手するのがとても難しい。 その結果価値が上がった)
(へぇ。 そうなのか。 勉強になったよ)
(優が喜んでくれて何より)
(ぐぬぬぬぬ)
てかこんなことしてる場合じゃない。
「えっと特別な道具ってのはこれか?」
そこには台座に置かれたとてもきれいな石が置かれていた。
俺は恐る恐るその石に手を置くと次の瞬間には、 周りの風景が一気に変わり巨大な森の入り口の前に立っており、 よく見ると奥には純白の巨大な城が立っていた。
「あれ? ここは?」
「「ユウ(さん)!」」
俺は自身の名前を呼ばれ後ろを振り返るとそこには笑みを浮かべたエレンとマチルダが立っていた。
「おはよう二人とも」
「おはようなんだぜ」
「おはようございます。 それよりも! 昨日ミスティさんに何かされませんでしたか! 私それが心配で心配で……」
そう言うとエルザは俺の体に強く抱き着いてきた。
「な、 何もされてないから安心しろって。 それよりも早く離れてくれないか? 胸が当たって……」
「嫌です。 それに胸を当ててるのはわざとです」
「おいおい……」
(ねぇ優。 この女オークの餌にしましょうよ)
(それならまず気絶させないといけない)
(そうね。 そうとわかったら……)
(何物騒なこと話してるんだお前ら! 絶対にそんなことするなよ!)
全くこの二人は本当に困ったやつらだ。
「そう言えばミスティは?」
やっぱり朝の事を怒って先に言ってしまったかな?
まあそれも仕方がないことかもな……
「私ならここにいるわよ」
だがそれは俺の考えすぎだったようで、 ミスティは俺の事を待っていてくれたようだ。
「待っててくれてありがとな」
「ふん! 別に感謝されるいわれは微塵もないわよ」
「今時ツンデレなんて流行りませんよ?」
「誰がツンデレよ!」
「まあまあ落ち着くんだぜ」
「うるさい! この女もどき!」
「お、 女もどき……」
マチルダはそう言われたのがショックだったのか地面に体育座りをするとぶつぶつと独り言を言い始め、 見るからに落ち込んだ様子だった。。
「おやミスティさん。 今のは流石に酷いんじゃないですか? そうですよねユウさん?」
「そうだぞ。 流石にさっきのは言いすぎだ」
「やっぱりそうですよね!」
「あ、 あんたね!」
「だがエレン。 お前もミスティを煽りすぎだ。 だからお前も反省しろ」
「はい……」
さてこれで一件落着かな。
(優。 いつからそんな女の扱いが上手になったの?)
(そんな優にはお仕置きが必要)
(そうね。 だから優後で少しお話しましょうか)
(腕一本は覚悟して)
前言撤回。 全然解決してない。
「三人ともとりあえずまずは城に向かわないか?」
「そうですね」
「道なら私が案内するわ」
「よろしくなんだぜ」
こうしてミスティの案内の元俺達は城に向け歩き出した。




