第四十八話 嘘
ルーたちとの合流は、 案外すんなりできた。
その間マチルダと俺は、 一言も言葉を交わさなかった。
「優さん! なんで私の言うことを聞いてくれなかったんですか!」
「それは、 マチルダの命が危ないと思ったから……」
「それは、 優にも言えることよね? こんなS級モンスターがうようよいる中、 一人で行動するなんて自殺行為だとは、 思わないの?」
「た、 確かにそうだが……」
「優。 私も今回ばかりは、 少し反省して欲しいわね」
「ルーもかよ……」
その後俺は、 一時間ほど三人から文句を言われ続けた。
「そ、 そう言えばファフニールは、 どうしたんだ?」
「それが優が、 いなくなってからすぐにどっかに消えちゃったのよ」
「そうなのか」
なぜあいつは、 俺が消えた瞬間に消えたんだ?
それにリヴァイアサンの時も俺が、 海に入ったから奴は出てきたのか?
「どうしたの優? そんな深刻そうな顔をして?」
「あ、 ああもしかしたらファフニールは、 俺が呼び寄せたのかもしれないと思ってな」
「なぜ優さんは、 そう思ったんですか?」
「それはそう考えても不自然だからだよ」
「「「不自然?」」」
「ああ、 だって目の前で自分たちを攻撃してくる人間がいるにも関わらず、 どっかに消えるのはどう考えても不自然だろ? それにリヴァイアサン時だってそうだ。 あいつも俺が海に入るまでは一切出てこなかった。 だから俺が奴らを呼び寄せてるのかもしれないと感じたんだ」
「それで優は、 “俺から離れろ”とでもいうつもり?」
「そうだ。 四人とも俺から離れて上の階を目指して……」
「ふざけるんじゃないわよ!」
ミスティは、 顔を真っ赤にしながらそう怒鳴った。
「なんであんたは、 そう自分を犠牲にしようとするのよ!」
「いや、 犠牲になろうなんて気持ちは……」
「たとえあんたにそう言う気持ちがなくてもそう言われた私の気持ちがわかる? あんたは、 私にこう言ってるように聞こえるのよ。 お前は、 足手まといだってね」
「そんな気持ちは、 一切ない!」
「あんたにはこの気持ち。 一生わからないでしょうね。 それでもね私は、 そう感じて仕方がないのよ。 そして、 私のいないところであんたが何かミスって死んだらどうなるの? その時私は、 自分の感情を抑えきれず、 きっとこの世界を壊そうとするわよ?」
「な、 なんでお前はそこまで言うんだ?」
「それは、 私があんたのことを仲間以上の存在で、 そして誰よりも愛しい人だと感じてるからよ!」
「な!」
「なんであんたは、 気づかないのよ! 普通の男なら気づくでしょう!」
「す、 すまん」
「謝ってほしいんじゃないの! ともかく私は、 絶対にあんたから離れないからね!」
俺は、 ミスティの迫力に気おされ、 頷いてしまった。
「ミスティさんの話も終わったようですし、 次は私から言わせてもらいます。 私も優さんから何を言われようが離れるつもりは、 ありませんよ。 それに私の実力が優さんの物に比べるとちっぽけなものだということも理解しています。 それでも私の好きな人が自分の見ていないところで命の危険にあってる姿は、 見たくないんです! それに測定不能のモンスターたちが優さんのことを狙っている確証なんてないじゃないですか!」
「お、 落ち着けエレン!」
「本当は、 まだまだ言いたいことがありますがとりあえず最後に私は、 優さんのことを誰よりも好きです! そして、 死ぬときは絶対に一緒じゃないと嫌です!」
どうやらこの二人が、 ここまで俺の事を思っているなど全く知らなかった。
そして、 俺がだした結論は……
「ああ、 わかった。 もう二度とお前たちの前で、 自分の命を犠牲にするようなことは言わないよ」
「わ、 わかればいいのよ!」
「全くです」
「優。 俺からも少しいいか?」
そう言うマチルダは、 何処か決意したような顔をしていた。
「ああ、 いいが?」
「俺は、 これからお前のために命を使おうと思う。 そして俺は、 優とずっと一緒にいたいんだぜ」
「それは、 どうしてだ?」
「それは、 優が俺の命を救ってくれたからだぜ。 確かに優が俺の命を救ってくれたのは、 嬉しかったんだ。 でも、 優の救った方法。 あれは、 今後絶対にさせたくないと思ったんだ。 だって優は、 自分の命を全く大事に思ってないように感じたから」
「俺が自分の命を大事に思ってないだと?」
「ああ、 ミスティの時もエレンの時も優は、 最終的にボロボロの状態だった。 そんなことをし続けていたら優は、 いずれ死んでしまう。 俺は、 そんなの嫌なんだ。 きっと俺が優に抱いている気持は、 よくわからない。 でも優のことを何よりも大事だとは、 感じているのは事実。 きっとこれが、 恋というものだということには、 薄々自分でも気づいてるんけどな」
「お前たちも知ってるように俺は、 再生力が半端ない。 そんな俺が、 そうやすやすと死ぬと思うか?」
「それでも死なないという確証はない。 ミスティやエレンも言ったように自分の見てないところで優が傷つく姿は、 見たくないんだ」
「お前の決意は、 よく伝わったよ。 これから俺は、 どんなことがあっても自分を犠牲にするような真似はしないよ」
「わかってくれたんならいいんだぜ!」
そう言うとマチルダは、 いつもの変な語尾をつけた。
「ああ、 それとお前の一人称。 俺より僕とかにしたほうが俺は、 可愛いと思うぞ?」
「そうなのか?」
「ああ、 絶対そっちの方が、 可愛いと思う。 まあ、 あくまで俺の意見だからきかなくても……」
「いや。 優がそう言うならそうしようと思うんだぜ」
「そうか」
「優」
「どうしたんだルー? もしかしてお前も何か言いたいことがあるのか?」
「いいえ」
「それじゃあ一体……」
俺がしゃべってる途中に、 ルーは俺へとキスをしてきた。
「「「ああああああああああああああああああ!」」」
「お、 お前いきなり何を……」
「聞きなさいメス豚三人ども! 優は、 私のなんだからあんた達のものになることは、 一生ないのよ!」
「ふふふふふ」
「あはははは」
「くくくくく」
「えっと三人ともとりあえず落ち着こうぜ?」
「大丈夫よ優」
「そうですよ優さん」
「僕たちは、 いたって冷静なんだぜ」
「そう言いながら、 なぜ武器を構える! それとルーもなんで構えてるんだよ!」
そこから四人の殺し合いは、 始まった。
どうやら三人は、 協力してまずはルーを排除するつもりのようだ。
「あなたたち程度の攻撃私が、 くらうわけないでしょう!」
「やっぱりこいつの強さ異常だわ!」
「に、 人間の強さではありません!」
「全くだぜ!」
それから四人の殺し合い? は一時間ほど続き立っているものは、 誰一人いなかった。
「お、 おい四人とも大丈夫か?」
「「「「大丈夫なわけない!」」」」
「すいません」
あれからさらに一時間がたち四人は、 完全に回復したようだった。
「それで優は、 これからどうするつもりなの?」
「とりあえず今は、 食事にしないか?」
「食事ですか?」
「ああ、 今回は特別に俺の手料理を食わせてやる。 そう言ってもこの状況じゃステーキぐらいしかできないんだけどな」
「優の手料理か! それは楽しみなんだぜ!」
俺は、 ミスティにリヴァイアサンの肉をここに出すように頼んだ。
そして、 岩を持ってきてそのうえで焼いたものを四人にふるまった。
「まさかリヴァイアサンがこんなにおいしいなんて!」
「全くです! 手が止まりません!」
「優の焼き加減が上手なんだぜ!」
ルーはというと、 料理に手を付けていないようだ。
「まだまだたくさんあるから食ってくれよ」
結果三人は、 リヴァイアンさんの肉をある分の三分の一を平らげてしまった。
「ふ~満腹なんだぜ」
「でも、 なんだかだんだん眠くなってきたような」
「おかしいわね……」
三人は、 それを最後に眠ってしまった。
「それで優。 これは、 どういうつもりなの?」
「何単純なことだよ。 ここからは、 俺一人でダンジョンを攻略する。 本当は、 お前日も寝てもらおうと思ったんだがな」
「優にしては、 少し不自然だったからすぐ気づいたわよ。 それで私をどうするつもり?」
「そうだな。 ルーにはこの三人をモンスターから守ってほしい」
「たとえそれが優からのお願いでも嫌よ」
「そこを何とか頼む」
俺は、 地面に土下座をした。
「ちょ、 ちょっと何してるのよ!」
「お願いするならこれが一番だと思ってな」
「わ、 わかったわよ! 優のお願い聞いてあげるわよ! でも一つ条件があるわ」
「なんだ?」
「なんで優は、 こんなことをしたの?」
「それは、 単純だ。 俺はこいつらに危険な目にあって欲しくないと感じたからだ。 それには、 当然お前も入るんだぜ?」
「それから?」
「こいつらは、 多分俺がなんといってもついてこようとする。 だから眠らせてダンジョンから帰還できる道具でも使わせようと思ったんだ」
「なるほどね。 全く優。 今回は、 その発言見逃すけど次にこいつらの前でそのセリフを言ったら浮気認定するからね?」
「わかってるよ。 それとファントムの衣装をくれ」
「了解よ」
ルーから装備をもらった俺は、 今のそよ風シリーズから着替えた。
「三人とも。 嘘をついてごめんな」
俺は、 最後にそう言いその場を離れた。




