第二十三話 2人の実力
「そう言えば二人はなんで冒険者になろうと思ったんだ?」
優はふと疑問に思ったことを二人に尋ねた。
「実は私たちの住んでいる村では十歳になると十五歳になるまで村の外を回ってこなくちゃいけない風習があるんです」
「なるほど。 それで金を稼ぎやすく、 また色々な場所を回れる冒険者を仕事に選んだのか」
「よく今の話だけでそこまでわかるな」
「いやこんなの当然だろう。 それに俺の姉や妹なんか話聞かなくても勝手に推測して当てそうだしな」
「それ本当に人間かよ……」
「ヤマト君! それはユウさんのお姉さんや妹さんに失礼でしょう!」
「だ、 だってここにいるわけじゃないんだし……」
「だってじゃないよ!」
「う……」
「ははは。 サクラそこまでヤマトを責めてやるなよ。 それにあながちヤマトの言い分も俺もわからないわけではないからな」
「ほ、 ほら! ユウさんもこう言ってくれてるんだから……」
「分かったよ」
サクラが納得してくれたことにヤマトは安堵の息をもらした。
「ははは。 お前完全にサクラの尻に敷かれてるじゃないか」
「うっさい!」
「そう言えばお前らの職業ってなんなんだ?」
「私は僧侶です」
「俺は侍だな」
僧侶はRPGゲームでもよくあるように回復を主にしようとした職業である。
それに対し侍は、 主に刀を武器として使用し、 ステータス面では攻撃力と防御力が非常に優れた優秀な職業である。
「ふむ。 二人の職業的な相性としてはかなりいいな」
「そんなの当然だぜ! 何せ俺達は幼馴染なんだからな!」
ヤマトのその言葉がサクラにとっては恥ずかしかったのか顔を赤くし、 うつむいてしまった。
「全く初々しい奴らだ」
「ん? 何か言ったか?」
「別に何も言ってねぇよ。 そんなことよりあそこにいるのがゴブリンだ」
ゴブリンは基本群れで行動をする生物である。
そのため相手の事を弱いと油断した初心者が周囲を囲まれ逃げる事が出来なくなり、 そのまま殺されてしまうというケースがごく稀に存在する。
それを防止するためにギルドでは初心者がゴブリンを狩る際は、 A級以上の冒険者を一人同行させることを義務としている。
「あれがゴブリン……」
「ひ、 ひぃ……」
ヤマトは初の実戦とあり、 興奮を抑えきれず先ほどから手を閉じたり、 開いたりしていた。
それとは対照的にサクラは、 ゴブリンを恐ろしいと感じており、 情けない悲鳴をもらしてしまった。
「二人ともよく聞け。 俺は今からあのゴブリンの群れを残り一匹になるまで数を減らす。 そして残った一匹をお前たち二人が協力して殺せ」
「わかった」
「わ、 わかりました」
「よし。 それなら下準備といこうか」
「そういえばユウさんの武器って何なんだ? やっぱりあれだけの筋力があるわけだし剣とかか?」
「いいや。 俺が使用する武器は弓だ」
「弓を使うってことは、 ユウさんの職業は射手なんですか?」
「それは秘密だ。 さて今から俺があいつらの命を奪うからお前たちはその瞬間を目に焼き付けておけ。 いいか絶対に目をそらすなよ」
優は二人に念押しした後背中に背負っていた破壊の弓を構え、 ゴブリンの頭目掛けて勢いよく弓を放った。
「うわ……」
「き、 気持ち悪い……」
優の放った弓は的確にゴブリンの頭を吹き飛ばした。
ただその光景は見ていてあまり気持ちいいものではなく、 ヤマトとサクラはつい目を逸らしてしまった。
「おい。 誰が目を逸らしていいといった!」
「だ、 だってあまり気持ち悪くて……」
「この程度で値を上げていたら冒険者になることなんてできないぞ! 分かったら集中しろ!」
優のその言葉が身に染みたのか二人は再びゴブリンのいる方向を注目し始め、 それを確認すると優は残り一匹になるまで弓を弾き続けた。
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「さて俺の仕事はここまでだ。 ここからはお前たちの番だ。 それとあらかじめ言っておくが俺はお前たちが死にかけようがどちらかが死のうが絶対に助けはしない」
「それって監督責任放棄してませんか?」
「サクラの言う通りだ! そんなの無茶苦茶だ!」
「甘ったれるな!」
「「う……」」
「冒険者という仕事は自身の命を懸け、 それをチップに大量の金を得るいわばギャンブルのような仕事なんだ。 だから命を懸けるような覚悟もないのなら今すぐこの仕事をやめちまえ」
優の言葉は的確であった。
実際冒険者という仕事で命を落とすものはかなりの割合が高い。
だからこそ優はその厳しさを知らせる為あえて厳しい態度をとることにしたのだ。
「確かにユウさんの言う通りだ。 でもユウさん。 それを知ってなお一つだけお願いがある」
「……言ってみろ」
「もし俺があのゴブリンに負け、 死んだとしてもサクラの命だけは救ってくれ」
「ちょっとヤマト君! そんな自分が死んだ後のことなんて言わないでよ!」
いつもはおどおどし、 大きな声を発することのないサクラがこの時今までで一番大きな声を発し、 優はその事に驚くとともに二人が互いに互いのことを信頼しあっていることを再確認した。
「ははは。 全くお前たちは本当に……」
「何がおかしいんだよ!」
「だって相手は所詮モンスター界最弱の相手で、 しかも相手はたかが一匹なんだぞ? そんなのに常識的に考えて負けるわけないだろ」
「で、 でも……」
「いいからいってこい。 戦えば分かるから」
優は二人の背中を押し、 ゴブリンと早く戦うよう急かした。
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「これは……」
優は遠くから二人の戦闘を眺めていたのだがその戦闘はお世辞にも素晴らしいとは言えない物であった。
「はぁはぁ……ユウさん。 俺の戦闘どうでしたか?」
「一言言って最低だな。 まずお前の使ってる武器切れ味がひどすぎる。 相手の肉を全然断ち切れていないじゃないか。 それにお前まだ武器にも使い慣れてない感じが否めないしな」
「そ、 そうか……」
「まあ武器の使い方については俺が一週間ぐらいみっちり仕込むから安心しろ」
「あの! 私はどうでしたか!」
「サクラはヤマトに対して過保護すぎだ。 ヤマトがゴブリンの攻撃を掠っただけで回復魔法なんて使ってたらあっという間に魔力が枯渇するわ」
「う……」
「それでサクラの方はとりあえず俺の仲間の一人に回復が得意な奴がいるからそいつに仕込んでもらえるようお願いしておくから安心しろ」
「……わかりました」
「そう落ち込むなよ。 二人とも初めてなんだから人間失敗を糧に成長すればいいだけなんだから」
そういう優の表情はとても穏やかなもので、 無意識のうちに二人の頭を撫でていた。
「な、 何を……」
「あ、 あの……」
「あ、 悪い。 つい癖で……」
「どんな癖だよ……」
「まあそれは気にするな。 それでだがひとまずは町に戻ってヤマトの武器を新調しようと思うんだがいいか?」
「いいけど俺そんな余分な金ないけど?」
「そんなことわかってるよ。 だから今回の代金は俺が払っておいてやるから金は今度返せ」
「え、 そんな指導もしてもらう上に武器を買ってもらうなんて悪いですよ」
「そ、 そうだぜ。 さすがにそこまでしてもらうわけには……」
「ガキが、 遠慮するんじゃんぇよ」
「ユウさんだってまだガキじゃん」
「うるせぇ。 とにかくここは俺の言うこと聞いておけ。 ヤマトは、 サクラを守れるくらい強くなりたくないのか?」
「そ、 それはなりたいけど……」
「なら遠慮するな。 そしてヤマト。 お前はサクラの事を大切に思っているんだろう? それならサクラを守るためならどんなことでもするといった覚悟を今ここでしろ」
「どんなことでも?」
「そうだ。 たとえ他人を利用しようが、 殺そうが、 それでサクラを守れるなら何でもしろ。 そのせいで、 周りの人から嫌われようが気にするな。 そして自分が、 死ぬ最後の時までその信念を貫いて見せろ。 十歳のお前にはまだよくわからないかもしれないがいずれわかる時が来る」
「わかった」
「よしいい返事だ。 さて返事も聞いたことだし行くとするか。 ほら二人とも走るぞ!」
優はそのまま走り出し、 二人もそれに追従する形で走り出したのだが、 当然つい行けるわけなく
戻ったころには、 二人は完全にばてており、 結局優は二人を背負った状態で武器屋に入った。
「お~いダスト。 今いるか?」
「いるが一体何の用だ? まさかもう矢の補充ってわけじゃないだろうな?」
「無論だ。 実は今日はこのガキの装備を選んでもらおうと思ってな」
優は背中に背負ったヤマトを床に下すと指さした。
「この子供にか? それでこの子は、 なんの武器を使うんだ?」
「刀だ」
その言葉にダストは少し難しそうな顔をした。
「どうかしたのか?」
「いや。 刀って元々希少価値が高くてな。 その分値も張るんだがいいのか?」
「ユ、 ユウさんやっぱりやめておいたほうがいいんじゃ……」
「ああもう! 女々しい奴だな! 俺が払うって言ってんだからお前は、 黙って武器を選べ!」
「は、 はい!」
「とりあえず奥から刀を何本か持ってくるからそこで少しまってな」
ダストが刀を取りに行っている間、 サクラの体力も回復し、 優はゆっくりとサクラを地面に下した。
「ユウさん。 ここまで背負ってくれてありがとうございました」
「あまり気にするな。 元々は俺が少々ペースを上げすぎたのが原因だからな」
「おい。 ユウ武器持ってきたぜ」
ダストの腕には三本の刀が抱えられていた。
「ここからは、 ヤマト。 お前が選べ」
「わ、 わかった」
そこからヤマトは三本の刀を順番に触り始め、 数分後青と金の装飾をされた一本の刀を選び取った。
「それがいいのか?」
「ああ。 この刀が一番手に持った時なじむんだ」
「そうか。 それじゃあダストこれくれ」
「金貨千枚だ」
「き、 金貨千枚!?」
「ユ、 ユウさん払えるんですか!」
「ん? まあ一応払えるな」
優はそう言うと金貨千枚が入った袋をダストに手渡した。
「毎度あり。 これでこの刀はお前さんのものだ。 因みにこいつの銘だが五月雨っていうんだ。 コイツの特徴としては切れ味が凄まじく、 例えドラゴンの鱗ですらたやすく切り裂く程の逸品だ」
「そ、 そうなのか」
「ただし切れ味が悪くなりやすいから使用後は毎回砥石を使って丁寧に研げよ?」
「わかった。 ありがとうおっさん」
「俺はまだ二十代だ! おっさんなんて年齢じゃない!」
「おい二人ともそろそろ行くぞ」
「「わかった(わかりました)」」
「それじゃあダストまた要があったら来るな」
「あいよ」
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「さてと今日はとりあえずここまでだな。 明日も今日と同じ時間に冒険者ギルドの中で集合だから遅れるんじゃないぞ?」
「わかってるよ」
今のヤマトは刀を買ってもらえたことに完全に浮かれきっていた。
「ユウさん今日は、 ありがとうございました」
「おう。 それとサクラちょっとこっち来い」
「はい? いいですけどなんですか?」
「お前ヤマトのこと好きだろ?」
優が意地悪そうな顔でそう言った言葉にサクラは顔をゆでだこのように真っ赤にし、 優の胸を可愛らしく何度も叩いてきた。
「痛い痛い。 からかって悪かったって。 でもお前が本当にあいつのことを好きならちゃんと手綱握っておかないとだめだぞ? 男なんて大きくなったら色気のあるお姉さんにすぐつられるような生き物なんだから」
「よ、 余計なお世話です! ヤマト君早く帰るよ!」
「え、 ちょ……」
ヤマトは何も言えぬままサクラに手を引かれその場を後にした。
「まあでもヤマトもお前のこと好きなんだろうけどな。 これからの二人の結末が少々楽しみだ」
「何が楽しみなの優君?」
後ろを振り返ると今朝別れた雪達がすでにおり、 優は顔の表情を引き締めた。
「別に。 ただ自分の指導する相手の恋がどうなるのか楽しみなだけだよ」
「そうなんですか? あの一つ質問なんですがその事について優さんが相手の感情に気づいたんですか?」
「ん? そうだが?」
優のその言葉に四人はため息をつかずにはいられなかった。
「優君って他人のことは、 そんなに悟りがいいのになんで自分のこととなるとあんなにポンコツなのかな~」
「本当に優ちゃんは、 ある意味すごいわ」
「お兄ちゃんってかなり変人だよね」
「そうですね。 まあそんな優さんだからこそ私は、 好きになったのかもしれませんが」
「四人とも何言ってるんだ? そんなことより早く宿に戻ろうぜ」
結局優は四人が何故ため息をついたのか理解することはできなかった。




