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手合わせと能力のこと

9月3日0803時



「すごい……、なんでそんなに動けるの……?」



 いつもの病室。里絵と音火の二人はいつも通りそこにいたが、いつもと違うところといえば里絵がベットにいないで、すらりと床に両足をつけ、立ち上がっていたことだった。



「覚えてるわけじゃないけど、体が思うように動かない感じがする。力もすんなり手足に入らないような」



 里絵はそう言うが、4ヶ月も寝たきりの人間ができる行動ではなかった。音火が目を丸くして驚いているのは、いくら身術士であっても長い期間体を動かさなかったら、このような芸当はできないという証拠だった。


 里絵は全身をストレッチするように、腕を十字に組んで肩を伸ばしたり、腕を前に伸ばしグーとパーを交互に作り、握力の確認をしていた。



「もしかしてこれなら刀を握っても大丈夫かも」



 音火がぼそりと呟いた。


 その言葉に里絵はすかさず反応した。



「是非!」



 その反応に音火も驚く。



「え!? 冗談だよ。まだそんなに激しく体を動かしちゃいけないよ」



「早く自分のことを思い出したい……」



 里絵は音火をじっと見つめた。睨みつけているわけではなかったが、音火にとっては無言の圧力以外の何物でもなかった。



「うっ…………。ちょっと……上に聞いてきます……」



 音火は急いで部屋を出て行った。



「……そんなに急がなくても……」



 5分くらい経った時に音火は部屋に戻ってきた。



「施錠される運動場、訓練場なら一時間のみオッケーだって!」



 少しだけ息を切らしながら音火は嬉しそうに言った。



「ありがとうございます」



「どういたしまして。あっ……移動中は拘束が原則だとも……」



「…………はい………………」



 明らさまに里絵は落ち込みを見せた。















 二人は刀を使った実践練習ができる練習場へ到着した。もちろん、施錠され、キーは音火が管理している。



「はいこれ。私の愛刀の「黄昏花」っていうの。貸してあげる」



「ありがとうございます」



 黄昏花を受け取る里絵。ずしりという重さが両手にかかる。



「重い……」



「そりゃそうだよ」



 重いと言いながら、納刀した状態で両手で刀をしっかり握り、里絵は構えた。


 外からでは感情がわかりづらい里絵の表情も、刀を握った瞬間に真剣になった。重く、冷たく、鋭い、そんな表情だった。



「黄昏花の能力は「切断」。刀術士は金属、ほとんどは日本刀、に特有の能力を入れ込むことができるの。それを《付加》って言います。一般的には切断の能力が多い。能力を《付加》するとそれまでの刀に比べて比べ物にならないほど強固になる。だから刀術士じゃない身術士や動術士だって当たり前のように自分の刀を持ってる」



 音火の説明はまだ続いた。



「切断の能力だったら、硬いものだったり、刃渡りよりも大きいものだったり、距離が離れているものだって切断できる。まあ、刀に《付加》された能力のレベルや、刀術士自体のレベルによるけど。…………あ、ごめん話しすぎちゃった」



「大丈夫。動術士であって、刀術士じゃない自分にはこの刀……黄昏花の《切断》の能力は使えないんだよね」



「残念ながら使えない。だから里絵少尉の握る黄昏花はただ、壊れることのない一本の日本刀にすぎない」



「うん……」



 里絵は音火にの説明を聞いていた。だが、聞いてはいたが、手に持つ刀の感触の方が気になっていた。



「なにか思い出せた? じゃあ、実際に手合わせしてみようか」



 音火は腰に付けていたもう一本の刀を抜いた。

 鞘と金属がこすれる音を出しながら、まっすぐで長い刃が里絵の目の前に現れた。



「借り物の刀だよ。能力が《付加》されてない非能力刀だから安心して。怪我をさせる心配はしないで。いざとなったら《排他》とか《防御》とか、とっさの攻撃を防ぐ方法はいっぱいあるから」



「了解」



 里絵は恐る恐るだが、しっかり右手に力を入れ、黄昏花を抜刀した。

 鞘から現れる長い刀身。再び黄昏花を両手で構える。


 構える仕草や抜刀の仕草を見ると、しっかりと訓練を受けた人間の動きだったことに音火は驚いた。記憶などの意志的な部分じゃない、体の動かし方などの無意識的な部分は、記憶喪失が影響してない? これが「体が覚えてる」ってことなのかな、と音火は思った。



「いつでも、どこからでもどうぞ」



 そう言った音火の瞳が赤色に染まっていく。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)



「いきます」



 里絵はそう言うと、すかさず音火に接近し、刀を顔面へ向け、突く。里絵からの刺突を自身の刀で弾き、防ぐ音火。


 弾かれた刀の勢いで体が揺さぶられる里絵。そのまま次の斬撃を繰り出していくが、刀の取り回しに鈍臭さが見られた。足の運び、重心の移動、切っ先の軌道、どれもおぼつかなかった。


 そんな攻撃に動じる音火ではなかった。この程度の攻撃が無意識にでも防がれなければ、敵戦闘員との交戦ですぐに命を落とす。



「どう?」



 汗ひとつかかない音火は里絵に言った。

 対して里絵の額には汗が見え始め、息は苦しそうに聞こえた。



「動かないし、動かせない……。思い出せない記憶と同じで、すごく……もどかしい」



 いつの間にか、里絵からの攻撃は止まっていた。刀を振り回すだけでも相当体力を消耗する。手も、腕もパンパンになっているだろう。音火は里絵を気遣い、



「少し、休も」



と、声をかけた。



 二人は練習場の隅っこに二人は座り込む。壁に背を向け、どこを見るというわけでもなく、二人は空間の中央に視線を向けていた。肩と肩が触れそうなくらい二人は接近していた。



「そういえば能力の説明してなかったよね」



「うん。と言っても今の自分には使うことができないけど……」



「そんなこと言わないの」










 音火の説明が始まった。


 基本的な能力は、身術、動術、刀術が存在。




身術:術士自身の体を使って戦闘を行う術。つまり強化人間?


動術:術士周辺の空間を操り戦闘を行う術。つまし超能力者?


刀術:術士の持つ刀を用いて戦闘を行う術。つまり武具使い?




それらの術はそれぞれ7つの能力がある。




身術:《増強》《再生》《防守》《収蔵》《知覚》《伝播》《変生》


動術:《加速》《固定》《排他》《侵食》《圧縮》《膨張》《操作》


刀術:《印加》《理解》《取扱》《内包》《不壊》《解放》《付加》




それら能力の簡単な説明。




身術:

《増強》筋力や持久力などの身体能力の強化する

《再生》自身の身体を治癒する

《防守》物理的、能力的な攻撃の軽減する

《収蔵》物体を体の中へ入れ、所有する

《知覚》五感もしくは第六感で物事や刺激に反応する

《伝播》他人に直接意志を伝える

《変生》体の組織や構造を変える



動術:

《加速》自分の体や物を加速させる

《固定》自分の体や物を固定させる

《排他》バリアのような空間を作り、攻撃から身を守る

《侵食》他人の守りに侵入し、攻撃を通す

《圧縮》空間の一部を圧縮する

《膨張》空間の一部を膨張させる

《操作》周りの、物体、能力、事柄を自由に操作する



刀術:

《印加》刀に備わった能力を引き出す

《理解》刀に備わった能力を読み取り、理解する

《取扱》刀を自由自在に操る

《内包》刀を体の中に入れる。その状態で《印加》を発動する

《不壊》《付加》された刀が絶対的な強度を得る

《解放》《付加》された刀の能力を解放する

《付加》刀に能力を与える





 一気に説明されて混乱していく里絵。


 自分は動術士であると言われても、ピンとこない。軍学校を卒業している身であることは聞いているから、厳しい訓練を受けてきたはずなのに……。他の能力についても絶対学習してきて、身術士、刀術士とも戦闘をしてきたはずなのに……。そう、里絵は考え詰めていった。



 そんな里絵に気がついたのか音火は声をかけた。



「今、全部覚えることはないよ。記憶を思い出せば良いんだし、もし、記憶が戻るのがずっと遅くても、能力関係の知識は自然と身につくから」



「音火少尉も歴史や能力のことをすらすら言えますし……」



「あっ………………私がこれだけ言えるのは……何度も、何度も勉強させられたから…………追試で……」



 音火は顔を少し背けて遠い目をした。ジュリアとダンテから里絵を奪還した時を思い出した時と同じ顔つきだ。



「…………」



 その表情のせいで里絵はそれ以上のことを聞くのをやめた。やめざるおえなかった。




「そうだ! 言い忘れてた」



「なに?」



「三つの能力、身術、動術、刀術は基本。だけど能力はそれだけじゃないの。



 秘匿されている能力はおそらく少なくない……。



 呪術【怨花】 とういう術がその秘匿された能力の一つ。




 そして……




 あなたとともに作戦の遂行をした司結が持っていた能力でもある」





再び手合わせをする里絵と音火。その中で里絵にあの記憶が走った……


次回 9話「体が覚えてる」


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