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綺麗な髪とゾッとする声

9月2日2015時



「それで追ったの?」



 里絵は音火に尋ねる。



「追わなかった。目一杯考えたんだけど、よくわからなくなっちゃった」



 音火らしい判断だと里絵は思った。



「それで……助けてくれた後、私はここで4ヶ月眠ってた」



「そう。そして……肝心の……里絵少尉が遂行した任務について説明する」



 自然と唾を飲み込む里絵。同じように音火も緊張していた。



「作戦はある人物と一緒に行われた。特殊戦闘員である司結つかさゆい中尉」



「つかさ……ゆい…………」



 里絵の心の中がざわついた。里絵はその名前をはっきり覚えているわけではないが、まったく記憶がないとは言えなかった。何か引っかかるものを感じた。里絵の表情が暗くなっていく。



「何か覚えてる?」



「いや……でも、続けて……」



 里絵は辛そうな表情をしながら、なお説明を求めた。



「任務の内容は二人が、遮断結界を超え、イーティルの初蟹基地まで潜入するというもの。潜入目的はその後発動した、巨大遮断結界破壊およびイーティル侵攻作戦を裏から支援するというものだった。あっ……遮断結界というのは……」



「いい、続けて」



 里絵はさらに続きを求めた。作戦内容の詳細などどうでもよかった。それよりも司結という戦闘員のことが知りたかった。



「作戦実行の前日に里絵少尉と司中尉は顔を合わせている。司結中尉は単独潜入員だったから作戦直前まで潜入していたイーティル側からエイシェの基地まで帰還しなければならなかった。その時に敵戦闘員に見つかり、逃走する形だったから、援助として派遣されたのが里絵少尉だった」



「…………」



 里絵は無言で話を聞いていた。先ほどと表情は変わらない。



「二人は敵との戦闘後、縦仙基地という前線基地に帰還。でもすぐに軍本部に出頭を命じられてここの施設まできて、翌日に縦仙基地に戻って、その夜潜入作戦が開始された。予想もしない襲撃があったけど……」



「……襲撃?」



 里絵はそこには食いつきを見せた。



「その日、縦仙基地が青仮面一体と赤仮面二体に襲撃されたの。目的は不明。赤仮面は基地にいた戦闘員が対処、青仮面は司中尉と、里絵少尉の活躍で撃退に成功した。作戦自体はこんなイレギュラーな戦闘ばかりがあったみたい」



「青仮面って……」



「あ、そっか。青赤面、赤仮面ってのは敵戦闘員の一種。何も描かれていない楕円の仮面を身につけていることからそれぞれ、その仮面の色の青仮面、赤仮面と呼ばれてる。敵の普通の戦闘員もそう呼んでる。略して青とか赤って呼ぶこともある。両方身術、動術、刀術を使える化け物だけど、危険なのは青仮面のほう。近くにターゲットとなる戦闘員がいなければ一般人をも攻撃する。能力の強さも赤仮面より強くて、青仮面に殺害された戦闘員も多い……」



「音火少尉みたいに三つの能力がすべて使えるの?」



「そう。身術、動術、刀術がすべて使える術士なんてそうそういるもんじゃない。なのにイーティルはそれらを使える戦闘員を多く所有している。青仮面は現在で10体ちょっとが確認されていて、赤仮面は20体くらいだったはず。割と識別が難しいから、戦術チームの解析班がひぃひぃ言ってる」



「青仮面……」



「二人は作戦前にも青、赤と戦闘したみたいだけど、作戦中にも青、赤の妨害に会った。戦闘はさぞかし激しかったはず……。それに……戦闘した敵兵は青と赤だけでなく、普通の戦闘員ともしたはず……。通称「巻き髪」と呼ばれてる女性戦闘員と……」



「巻き髪?…………」






 その時だった。里絵は激しい動悸と発汗に襲われた。里絵の五感はすべて現実からシャットアウトされた。聞こえてくるのはその女性であろう声。




挿絵(By みてみん)




「また会いましょう」







「予想以上に早かったですね。残念ですわ」







「苦しそうな顔ですこと」






「お望み通り、早く終わらせてあげますわ」






 丁寧な口調なのにもかかわらず、神経をぞっとさせる声……。


 見えるのは黒色の戦闘服と首元に伸びるカールした綺麗な髪の毛。


 刀を強く握る拳と、素早く無駄なく踊る刃。


 刃が振れるたびに痺れる手の感触。




 一瞬の幻覚だった。が、里絵ははっきりと思い出した。



「私の敵……。何度も邪魔されて……、そして……まだ……、これから…………」


 

 言葉が繋がらない。思い出せた映像、音、感触が言葉にできない。



 里絵に異常を感じた音火は慌てた。



「大丈夫!? 何か思い出せたの? 気持ち悪い? 横になろう」



 音火の手に導かれて里絵はベットへ上半身を預けた。


 息を切らし、胸を激しく上下させながら呼吸する里絵。ギギギと音が聞こえてくるくらいに固く握られた両手。まるで、手が刀を欲しているかのように音火は感じた。



「今日はもう寝よう。何か欲しいものはある? 言っておきたいことはある?」



 音火の心配をよそに、里絵の様子は落ち着き始めていた。



「大丈夫……。もう寝るね……。明日は少しだけ……体を動かしたいな……」



「了解。少しづつでいいから動けるようになろう。それじゃあ行くね」



 音火は部屋の照明を落とし、退室した。退出する瞬間に見たら、里絵はすでに目をつぶっていた。




体を動かすことを許可される里絵。早速二人は刀を握る練習に……


次回 8話「手合わせと能力のこと」

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