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あの任務のあとのこと① ジュリア、ダンテ登場

5月27日 1931時



 縦仙基地を襲撃したのはジュリア・ブールと呼ばれる小さな少女と、ダンテ・インプと呼ばれる女性だった。もちろん両方術士であり、戦闘員である。さらに二人は、青仮面を2体も連れてきていた。


 イーティルの戦闘服を身にまとった、こげ茶のぱっつん髪、一見中学生のような小ささ、あどけなさ、可愛らしさを持つ少女がそこにいた。


挿絵(By みてみん)


「こいよ」



 イーティル国戦闘兵であるジュリア・ブールは右手の中指をまっすぐ立てて、くいっくいっと二度曲げる。明らかに挑発している。その行為からは似ても似つかない容姿に音火はまだ戸惑っていた。

 

 音火はライフルの撃鉄を起こし、スコープを覗き、小さな少女の頭に狙いを定め、引き金を引く。自分が銃声を体で感じるのと同時に、銃弾がジュリアへ向かっていく。が、もう一つの影が盾となり《排他》で銃弾を防ぐ。銃弾は鈍い音とともに三十度ほど角度を変え後方へ飛んで行った。


 少女の盾になったのは「青仮面」と呼ばれるイーティルの戦闘員。足には黒いブーツ。ミリタリーローブも黒く、飾り気は皆無。両手にも黒い手袋がはめられて、右手に刀を握っている。そして顔面には一番の特徴である模様も凹凸も一切無い、縦に楕円の青い仮面。フードを被っており、前髪も見えない。身長は約170cm。しかし、異常に大きく見える。

 



 音火はすぐにライフルを持ち、縦仙基地兵舎棟の屋上から撤収しようとする。しかし、ジュリアが持つハンドガンが音火がいた場所を攻撃してきた。容赦のない掃射。銃弾の残弾数など気にしていない清々しい攻撃だと音火は感じた。同時に、一発の狙撃で迷いなく、正確に反攻できるジュリアに対し、青仮面に頼らない強さを感じた。


 兵舎棟の屋上から飛び降りる音火。重力の反対方向へ《加速》し着地。ライフルをジュリアの方向へ向け、再びスコープを覗く音火。先と同じように引き金を引く。今回は青がカバーしなかったが、ジュリアは強力な《排他》で銃弾を弾いた。


 青がいなくても狙撃が通らない。



「あれ!? 青は!?」



 音火はすぐに周りに全神経を集中させる。青仮面から目を離すことがどれほど恐ろしいことか音火もわかっている。そしてそれが冷や汗を大量に出すことだと実感する。


 世界が止まったかのように音火は感じた。だが、止まった世界で唯一真後ろに気配を感じた。音火は全力で《排他》を発動させ、手に持つライフルを掲げることで自分の身を守った。


 一瞬だけ目に映った青い仮面の姿。そしてその怪物は真上に刀を振り上げ終わり、今まさに刃を振り下ろすところだった。


 刀がライフルを裂いていく。音火は敵の刀身がライフルを通り過ぎる前にライフルを真横にずらし、青の斬撃が自分の排他空間を切込むのを極力防いだ。



 青仮面の最初の一撃を防いだ音火は、真っ二つになったライフルから手を離すと、抜刀するために腰に手をやる。《切断》の能力を持つ音火希梨の刀「黄昏花」(おうこんか)を強く握り、居合で青を攻撃しようと素早く刀を抜く。鞘から黄色に染まった刀身が少しだけ覗いたところでーー



「!」



 居合の途中でまた後ろに気配を音火は感じた。誰なのかはわかりきっていることだった。


 音火はとっさに居合を中断し、両手を外へ伸ばし、全力の《排他》を発動させる。後ろからの攻撃、ジュリア・ブールの放った斬撃は音火の防御で一瞬だけ速度を落とす。音火はその隙に挟み撃ちになっているこの状況から、素早く《加速》することで逃げ出す。



 距離を開けた音火は改めて敵の姿を確認する。



 そして、音火は抜刀する。



「おねがい、黄昏花」



 ゆっくりと鞘から黄色の刀身を抜き、構える。




  






同日1941時



  警戒しながら意識のない里絵しずくへ近づくジュリア。《排他》で極力身を守り、いつでも《加速》できるようにしながら、少女の元へ行き、青紫色に染まる刀であるゲンチアを伸ばし、ツンツンする。



「ハロー…………もしもーし…………」



 動く気配はない。明らかに気を失っている。

 ジュリアはヘリの中を覗く。裸の刀が落ちているだけで、人の姿はなかった。


 ジュリアは何気なく刀に手を伸ばす。だが、手は刀に触れることなく、止まった。



「拒絶刀……初めて見た…………これが拒否されるってことなのかな……」



 興味は刀から少女へ変わったジュリアは、少女を背中に背負い込む。ジュリアの方が背丈が小さいため、背負われた方の足が引きずられる形になる。



「ううう……重いぃ…………結構たっぱあるし、何より服が血を吸ってさらに重い! 全裸で持っていこうかな……」



 ジュリアは刀術士であり、身術士や動術士ではない。体力や筋力面については、非能力者と同等である。《加速》さえすれば、重量物でも速く動かすことができるが、それも瞬間的な能力で、物や人を長距離移動させるのに《加速》は向かない。

 ジュリアは、額に汗をかき、歪んだ顔つきでゆっくりと歩き出した。








同日2055時



 縦仙基地から数キロイーティル側へ入り込んだ地点、音火希梨少尉と富詩じんた中尉は、里絵しずくを拉致した敵国の戦闘員ジュリア・ブールとダンテ・インプに追いつくことができた。音火と富詩はそれぞれバイクで敵車両に接近するが、ジュリアからの銃撃で思うように動くことができなかたった。


 だが、富詩は敵車両の右後ろのタイヤを銃撃することで、敵車両はバランスを失い、勢いよく木に激突した。


 音火、富詩はバイクを停車させたが、すぐにジュリア、ダンテからの銃撃が二人を襲った。音火は《排他》を発動させながら壊れた車両にバイクごと突っ込んだ。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)


 そして、敵車両がすぐ目の前というところで、助手席から出てきたジュリアと目があった。両者は両者を睨みつけていた。


 ジュリアは瞬く間に抜刀し、バイクに乗る音火に斬撃を放った。音火はバイクを乗り捨て、《加速》し、地面に転がることで斬撃をかわし、すぐに黄昏花を抜刀した。

 もう一人の敵兵、ダンテと呼ばれる女性戦闘員も富詩中尉との戦闘を開始したようだった。刀と刀がぶつかりあう音が聞こえる。


 音火とジュリアは対峙した。


 音火は両手で黄昏花を握り、ジュリアは右手でゲンチアを握る。



「もたもたすっから追いつかれたじゃねえか、……まあいいや」



 ジュリアはダンテに対してそう文句を言い放った。それが本人に届いているかどうかは音火にはわからなかったが。



「絶対、取り返す」



 音火は呟くように言った。里絵少尉は車の中にいる……。



「奪って逃げられると思うなよ」



 ジュリアはそう忠告する。考えていることが当てられたようでぞくりとする音火。ジュリアが言った通り、倒さなければならないようだ。


 おもむろにジュリアは懐から注射器のような物を取り出し、たちまち左肩あたりに刺した。それを終えると、またどこからか錠剤を取り出した。

 音火はその存在を知っていた。



「薬物、TMX137……経口薬まで……」



「ご名答。じゃあ、はじめますか」



 ジュリアはその薬を口へ放り込み、飲み込んだ。



薬物TMX-137を服用したジュリアに音火は翻弄された。しかし、ジュリアにある異変が……


次回 6話 「あの任務のあとのこと②」 

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