表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/37

不安を煽る余裕

「だまれ、チョココロネおばけ」


 巻き髪の余裕のある言動と表情に司は不気味さを覚える。



 巻き髪の足元にすばやくツルを伸ばすが、巻き髪は《排他》を利用した跳躍で、さらに上方からの振りかぶった斬撃を繰り出してきた。司はそれを刀やツルで受けずに、姿勢を低くし、素早く前転をすることで回避し、巻き髪との位置関係を逆転させる。私と里絵が二人の敵にはさみ打ちになる配置になってしまった。しかし、それでいい。


 里絵と背中合わせになると、里絵に言う。



「ツルで、巻き髪と赤を妨害するから、里絵は《加速》を多分に使って、二人を撹乱、隙を作って」


「了解」



 司はツルを限界まで出現させ、空間を埋めていく。


 里絵は《加速》し、赤、巻き髪の死角を突き攻撃、再び《加速》するヒットアンドアウェイを繰り返す。伸ばすツルは、里絵を避けるようにして動く。この攻撃で、自然と赤、巻き髪の足が止まった。



「うっとしいこと…これだから体術士は好きになれません」



 巻き髪の撹乱には成功しているみたいだ。


 一方、里絵は赤の隙を感じ取ると、赤へ刀を向ける。赤の肩ほどの高さを狙った攻撃だった。


 赤の《排他》は突破できていない。さらに赤は位置の高い攻撃を自身の刀で下から上へ弾き飛ばすようにふしあかねを打った。里絵はその攻撃を待っていたのごとく、打たれた勢いを利用し、刀をひらりと回転。赤の刀をさらに下から上へ激しく打ち返した。赤の刀は頭上まで上がる。


 里絵の一連の攻撃は、遮断結界付近での敵兵との戦闘を司に思い起こさせた。


 すぐに司はツルで赤の刀を拘束し、同時にツルを数本絡ませて太いツルを作り上げる。



「跳んで」



 その指示を聞いた里絵は迷うことなく飛び上がった。司の操る太いツルは凄まじい勢いで地を這い、赤の足元を排他空間ごと薙ぎはらった。だが、赤はタダでは転ばないと言わんばかりに、素早く足を地面につき、踏ん張った。


 そこへ、飛び上がった里絵が急襲する。ふしあかねを逆手に持ち替え、真下の赤へ全体重をかけて突き刺す。


 赤の排他はその攻撃に耐えた。しかし、里絵の体重のかかった攻撃に、踏ん張りは耐えられず、そのまま背中を地面に着ける……が排他空間はまだ突破できない。



「惜しい。けど、転ばせただけでも上出来」



 ツルを数本出現させると、赤の足元を攻撃する。排他空間は自分の足より下に注意が向きづらい。これは基地内での赤、青の襲撃された時の戦闘と似ていた。


 攻撃は容易く排他空間を突破し、《排他》は崩壊する。赤はとっさに自身の刀を離し、里絵の刀の刀身を手でいなして回避する。ふしあかねは地面へ深々と刺さった。


 排他空間を突破したツルはそのまま赤の足に絡みつく。そして赤を里絵の体の下から引きずり出し、そのまま近くの木へ激突させ、そのまま木ごとツルでぐるぐる巻きにする。



「いっちょあがり」



 司が言った。










「あらまあ、情けないですねえ」 



 巻き髪の言葉を無視し、マイクで里絵に次の指示を出す司。



「できそう?」


「やってみます」



 里絵は返答すると《加速》し、巻き髪の真後ろから切り掛かる。気づくのが遅れた巻き髪は後傾姿勢になり、刀で受けて里絵とつばぜり合いになるが、すぐに里絵を圧倒し、里絵が力負けしだす。


 巻き髪の剣術は末恐ろしいところがあり、刀の扱い、つばぜり合いに関しても力とは別のところで、他者に負けない技術がある。


 だがそこが司の狙い目だった。



 里絵は一瞬、刀に込める力をゼロにし、体を横にそらす。そこから、ふしあかねを巻き髪の刀の裏側に当て、無理やり切っ先を下げさせる。排他空間に入っていた巻き髪の刀は裸となった。



「なっ……」



 巻き髪が言葉をもらす。



「指示通りよくできました」



 伸ばしたツルが巻き髪の刀に結びつき、引っ張る。


 巻き髪は負けじと抵抗し、力は拮抗する。そして里絵が再び巻き髪の背後から攻撃する。

しかし、その斬撃は巻き髪のもう一本の刀によって防がれた。


 巻き髪は拘束された刀を左手だけで持ち、右手の中から刀を出現させた。刀術士が持つ能力《内包》だった。



「卑怯だぞ!」



「何言ってますの」



 里絵は巻き髪と刀を交えたまま動けない。巻き髪の右手から出ている刀を自由にしてしまっては、すぐにもう一方の刀に巻きつくツルを切られてしまうからだ。


 しかし、里絵は動けなくとも、考えていた。司の方へ一瞬目配せする。


 それを察した司は、刀を縛り上げているツルの力を一瞬だけ解く。巻き髪の体は一瞬だが里絵の方へ傾いた。その物理的なスキと、精神的なスキが巻き髪の《排他》を突破するきっかけとなった。


 里絵は刀の力を抜き、右手だけで保持、巻き髪の右肘に自分の右肘をクロスさせ、さらにふところに背中を入れ、姿勢を低くし、巻き髪を投げる。




 一本背負。




 投げる方も投げられる方も刀を持ったままであはあるが、確かにその形そのものだった。


 司はまさか頭の固い里絵が投げをするとは思わなかった。巻き髪も敵の意外な攻撃になすすべがなかったのか、一本背負は綺麗に決まり、巻き髪の背中は地面についた。


 《排他》の解かれた巻き髪と刀二本をツルで拘束する。さすがの巻き髪もこれで動くことができなくなった。



「いらいらしますわ、小賢しい真似を一度だけでなく、二度も……」



 巻き髪は見るからにプライドが高そうだからおちょくるような攻撃に苛立ちを覚えるのも当たり前か。だが、巻き髪のこの余裕はなんだ? 今は拘束しているだけだが、下手をすれば殺されてもおかしくない状況。まだ、何か逃げ出す策でもあるのか……?


 そんな漠然とした不安が司の思考を埋める。嫌な予感がしてならなかった。



次回「予想以上に早い」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ