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チョココロネおばけ

27日1521時



「司、南初蟹市が見えます」


「どれ……本当だ。まあ、予定通りって感じかな」



 夜明けの薄暗い中、二人は斜面の高い位置でシートで身を包みながら伏せ、極力動かずにスコープであたりを警戒していた。



「目標の初蟹基地ももうすぐです」


「基地が見える場所まで進もう。そこで待機する」


「了解」




 その時だった。



 爆音とともに視界が歪んだ。里絵はとっさに《排他》を発動し身構えた。察するに銃撃を受けた。銃弾は司のツルが防いだ。が、銃撃は一発では終わるはずもなく、約20発もの弾丸を浴びせられた。里絵はスコープで、弾が飛んでくる方向を確認する。



「赤仮面一体を確認」


「赤か」


「敵兵に自分たちの存在が知られたので、作戦が変更されます」



 この位置でバレた場合は、急ぎ進行し、南初蟹市に潜伏しなければならない。



「あーあ、見つかっちゃった。でもまあここをしのぎ切ってさっさと市内に入ろう」



 里絵が姿勢を低くする。 



「先に当たります」


「よろしく」



 里絵は一気に《加速》すると、斜面を飛ぶように下り、空中で抜刀、赤に斬撃を食らわす。赤も刀で応戦。両方の刀が鋭い音をあげ衝突する。


 司は前髪を留めながら斜面を下りていった。そして赤まで50mところで、ツルを伸ばし攻撃する。その瞬間、里絵が横に移動させ、司と赤の射線を通し、攻撃できるようにした。


 里絵の行動に戦いやすさを感じる司。がしかし、ツルは赤の排他空間で止められる。やはり、仮面の能力は強力だった。


 里絵はつるの攻撃の射線を通した後、赤の後ろへ回り込んだ。赤は挟み討ちの状態になっていることに感づくと、里絵を銃撃し始めるが。7発の銃弾を里絵は全てかわした。赤は続けて司の方を銃撃するが、十数本のツルが司を守る。


 赤は《加速》し、50mほど移動する。司と里絵の線上にいることを避けた。



 三人が50mの距離で、正三角形を作る配置になった。


 だが、戦況が硬直することはなかった。



 里絵は赤を銃撃する。《排他》され防がれたのを悟ると、今度は地面に銃撃し、赤を動けなくすると同時に、砂埃をあげ視界を遮る。



「ナイスな判断だ」



 司はそう言うと、ツルを数十本だし、赤の周りの空間を囲んだ。逃げられないように、すぐに赤の後方でツルを絡ませ、拘束する。


 しかし赤の排他空間は硬く、締め上げるだけでは破壊できない。



「突貫」



 私が言う。



「了解」



 里絵が答える。

 里絵は刀を赤に向け《加速》し、突き刺す。赤の《排他》と里絵の《侵食》が衝突する。ツルが締め付けている分、《排他》が比較的弱い。これなら突破も時間の問題だ。


 里絵は必死に赤の排他空間を削る。だが、次の瞬間右側面からの攻撃に気がついた。里絵を刀が襲う。とっさに刀を赤から引き抜き、斬撃を防ぐ。



「くっ」



 明らかに勢いの乗った攻撃に里絵はバランスを崩すが、後方へ下がりしゃがみこむ。



 新たな敵は、さらに追い打ちをかけるように里絵に接近。隙を与えないその攻撃をする者は「巻き髪」だった。



 司は里絵への巻き髪の攻撃をツルで妨害し防いだ。里絵はその隙に司の近くへと素早く移動した。巻き髪は赤の近くへ下がると、囲んでいるツルをあっさりと切断する。



「よりにもよっておまえかよ」


「お言葉ですこと」



 これで2対2の状況になり、エイシェ側が一気に不利になった。場所が場所だけに援軍を呼ばれる可能性は高かった。この状況から逃げられたとしても、任務成功の可能性はがくんと低くなった。


 司は自分の表情が苦くなるのを感じる。



「そんな顔しないでくださる? こっちは会えるのを心待ちにしてたのですから」


「自分のしつこさを自覚してるんか? そらこんな顔にもなるわ」



 巻き髪は赤の方へ顔を向けて、


「赤仮面さん、わたくしが前に出ますから、後方支援よろしくお願いいたします」


 と発言した。


 赤は微動だにしなかったが、巻き髪がすぐにこちらに向いたのを見ると、命令が拒否されることはないのだろうと司は思った。


 巻き髪は片手で刀を持ちながら、ゆっくり、ステップを踏むように司の方へ接近してきた。


 局所的に2対1になるこの状況でも、余裕が見える。その余裕は巻き髪自身が持つ力からくるものだ。



「当たります」



 里絵が告げる。



「油断厳禁ね」


 もちろん油断するような里絵ではないが、それでもそう声をかけられずにはいられなかった。


 巻き髪と里絵が接近する。巻き髪はその瞬間、ゆっくりとした動きから、素早く斬撃を複数回切り込み、緩急をつけた攻撃に出る。


 里絵は刀と《排他》で防ぎながら対応するも、どうしても激しい攻撃に気圧される。間髪入れずに巻き髪は、里絵の背後へ回り、《排他》を利用した蹴りで、里絵を飛ばした。そのまま里絵の方へは向かうことなく、司の方へ近づく。


 司は巻き髪をツルで攻撃する。これまでの戦闘から、巻き髪はツルがよく見えていないことは司はなんとなく察していた。だが、排他空間を拡張させ、その感触でツルの位置を確認し、切り落とすという化け物じみた芸当を平然としてくる。その攻撃はたった今も司の眼前で行われていた。


 里絵は巻き髪への接近を試みたが、赤の銃撃でそちらへ向かざるをえない状況になった。


 こっちに近づいた巻き髪は刀で攻撃してくる。すかさず司はたちあおいを抜刀し、攻撃を受け止め、突き放す。



「こんな奥地まで進行する作戦とはご苦労様ですこと。でも、見つかってはダメでしてよ」


「だまれ、チョココロネおばけ」


次回「不安を煽る余裕」

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