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二通目の手紙

同日1530時



 音火は立参謀のデスクの前に起立していた。不揃いの書類や書籍が至る所に積まされているが、全て内容が見えないようになっていた。部屋には里絵と立参謀、他にサポート役を思わせる女性がいた。



「里絵少尉を確保できませんでした」



 音火はハキハキと大きな声で発言した。



「結果は知っている。昏睡から目が覚めたばかりの者を相手にしてなんたる失態だ。……と言いたいところだが、それだけ里絵少尉が器用だったのだろう。そこで、音火少尉には里絵少尉の逮捕……確保と言っておこうか……。確保の任務を与えたいと思う」



「は!」



 音火は返事をするが、少しだけ迷いがあった。それを感じ取ったのか、立参謀は付け加えた。



「気が進まないのはわかる。音火少尉に遂行してもらいたいのだが、断ってくれてもいい。今、現実世界へ行って、あるモノを回収する任務もあるがーー」



「いえ、里絵少尉を追いかけます!」



 音火は迷わなかった。



「よろしい。監視カメラからの映像から、手紙のようなもので里絵少尉は第三者から情報をもらっている。手紙自体は里絵少尉が回収してしまったが、そこには国境近くへ行って、敵と戦うように促す内容が書かれていた」



 音火には気になる部分が多数あった。監視カメラがあってなんで脱走が防げなかったのか。そんなことができる第三者とはだれなのか。国境近くにいる敵とは誰か。


 だが音火はそのことに関して深く考えなかった。



「手紙に書かれている敵とは誰なのかは不明。現在、それらしきイーティルの戦闘員は確認されていない。里絵少尉の目的がその敵であるなら、音火少尉も十分注意が必要だ。注意しておけと言っておきながら、この任務は単独で行ってもらう。可能か?」



「問題ありません!」



「よし。ではよろしく頼む。それと、教えておかなければならないこともある。もちろん極秘だ」



 音火は立参謀からとある重要な情報をもらう。








「失礼します!」



 音火は素早く退室した。


 少しだけ何かを考えてるように静止する音火。そして再び歩き出した音火の向かう先は自室だった。



 数時間前に、開くのをためらった書類を手に取る音火。音火の真剣な表情に、ためらいなど皆無だった。


 音火は無造作に封筒を開ける。






















同日1447時



 里絵はバイクを急発進させた。

 

 エンジン音があたりに響き渡る。それと同時に里絵はバイクごと自分を《加速》させた。


 音火少尉に気づかれるのが先が、バイクで加速しきって逃げるのが先か。里絵は博打を打った。


 その時だった。バイクの後方に銃撃のような衝撃を感じた。不思議なことに金属と金属がぶつかり合うような音はしなかった。あたかも動術の《排他》で銃撃から守られたような、そんな感覚だった。



 里絵はとっさに《排他》を展開させながら、考えた。



 銃撃は音火少尉からのものだろう。自分の背中ではなく、バイクを狙ってくれたのには、音火少尉の優しさを感じる。その優しさに後ろめたさを感じてしまう。銃撃を防いだのは無意識に自分が発動させたものだろうか。



 音火少尉が追ってくる気配は感じない。一応逃走には成功した。

 


 手紙、服、刀……。あの部屋の鍵はかかっていたが、それ以外障害となるものはなかった。建物の構造を知っているわけではないが、すんなり逃げられる場所とも考えにくい。それに、都合よく見つけたこのバイク……。鍵もかかっていなかったし、おまけにエンジンまでかかっていた。


 総じて、第三者が逃走を補助してくれていると感じざるおえない。



 そう思考を巡らしながら里絵はバイクを走らせた。





 それからいくつか、検問らしい場所を見つけたが、里絵は強行突破か、道なき道を通り、障害を回避し続けていった。そんなことをしていると、いつの間にか獣道のような道が続く地帯へ入った。


 少しだけの安堵を里絵は感じた。内太ももが痛くなったため、少しだけバイクを降りることにした。停車し、エンジンを止め、降り、バイクに腰を預けた。

 もう少しで夕方という時間帯。里絵の場所からは遠くの空まで見渡すことができ、薄くかかるうろこ雲が幻想的な絵を描いていた。



「はあ……」



 疲れのためかため息が出る。静かな場所なだけあって、里絵は自分が一人であることを強く感じてしまった。記憶がない状況の中、音火の笑顔から安堵をもらっていたことに気づいていく。



「悪いことしちゃったな……」



 だからと言って、「一緒に逃げよう」と言うわけにもいかなかった。


 ふと、バイクのシート部分に、紙が挟まっているのに気がついた。里絵はその飾りっ気のない紙に見覚えがあった。



「あの手紙の……二通目?」



 里絵はその挟まっている手紙を手に取り、広げる。



(縦仙基地にむかえ。これが最後のアドバイス。これからこれまでのような援助はない)


 

 手紙には手書きの地図のようなものも書かれていた。字体もさることながら、地図のできはよくない。まるで、学校の授業中に、教師に見つからないように、隣の席の生徒に見せるために殴り書きしたような落書きだった。



「…………??……?」



 北の方向、里絵がいたエイシェ本部棟、縦仙基地、大まかな距離がわかるような直線しか描かれていない。

 

 地図はお粗末だったが、里絵は太陽の位置と、来た方向を考え、大まかな進路を定めた。


 涼しい気温、暗くなり始めた空、植物のにおい……。里絵は説明できない懐かしさを感じた。



 「……………………」



 覚えのない懐かしさに里絵は戸惑った。そしてもう慣れてしまったあの感覚が来ることを直感した。



「くる!」



 そう言った瞬間、激しい頭痛が里絵を襲う。



「痛……!」



 強烈な痛みは、これまでにない規模のものだった。その痛みの強さに、里絵はその場に座り込み、頭を抱え動かなくなった。



 里絵の頭の中に、次々と映像がフラッシュバックする。それは紛れもなくあの任務での出来事だった。


そして里絵しずくと、司結は出会った……。

あの任務の想起がついに始まる!


次回 14話「司結という少女」


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