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病気


朝だ。

俺、高橋優樹たかはしゆうきは正直朝が嫌いだ。

なぜ嫌いかと言われると理由はないのだが、なんとなく嫌いだ。

あまり気が乗らないがとりあえず階段を下りて一階のリビングに向かう。

いつも通り妹の高橋優香たかはしゆうかが朝ご飯の支度をしてくれている。

「あ、お兄ちゃんおはよう!」

「おう。おはよう。」

何気ない会話だ。

そして凄く価値のある物だ。

「お父さんに挨拶した?」

「悪い、まだだ。してくる。」

優香に言われて気付いた俺は父の...遺影の元へ足を進める。

父は交通事故で二年前に亡くなった。

母は海外で仕事をしていて、中々帰ってこないため、俺達は二人で暮らしている...来年には一人になってるだろうが。

「親父。おはよう。俺...大学行ったほうがいいのかな?...もう行く意味がないと思うんだ...どうせ後一年しか俺は生きれねえしよ。」

俺の持っている病気は凄く卑怯なもので、決まった時に確か来年の8月28日の午前6時50分30秒に殺してくるらしい。

しかも、その時が来る一か月前まではなんともないらしい。

酷いものだ。

ちなみに優香には教えていない...いや、教えられない。

可愛い妹に悲しんでほしくない...いや、違うな。

俺が恐れているんだ。

俺が死ぬと知れば優香は泣き喚くと思う。

それを遠ざけてるだけなんだ。

...俺、間違ってるのな。

優香は現在16歳で高校一年生。

二歳差で俺は18歳の高校三年生。

二人共同じ高校に通っているため、一緒に登校しているが、まだ8月2日の夏休み中なのでのんびりしている。

「...やっぱ大学行かねーわ親父。俺は優香みたいに賢くないし、軽い気持ちで受けてもどうせ変わんねえから。あの世でも酒ばっか飲むなよ。」

俺は父にそう言ってリビングに行くと、もう朝ご飯が出来ていた。

「お兄ちゃん〜大学受けないんだったら就職活動とかした方がよくないの?」

「あ〜そうだな...あんま考えてねーな...」

「...なんか最近いつも以上に適当だよね」

優香が少しだけ悲しそうな顔して呟く。

「俺の事はいいよ。んで?お前は?青春してる?」

「え、その流れは普通勉強の事聞かない!?」

「お前テストはトップで高成績だろうが。何か俺が言うことあると思うか?」

俺は馬鹿にした様子で優香に言い放つ。

「言ってて悲しくない?」

「悲しい。」

妹が「何言ってんだこいつ」みたいな顔で言ってくるので余計悲しくなり俺は正直にそう答える。

悲しい。

「青春ねぇ...私、どんな男の人よりもお兄ちゃんの方が好きだな〜」

...優香は兄の俺が言うのもなんだが、普通のレベルを超えたブラコンだ。

とかいう俺も普通なシスコンなのだが。

妹可愛い。

「あっそう...俺もお前の方がどんな女子よりも可愛いと思うぞ。」

「由香里さんより?」

「あいつはただの幼なじみだろ?」

「へぇ...由香里さんお兄ちゃんの事大好きだからベタベタしてるし、好意があるのかと思ってた。」

「...ないと言うと嘘になるな」

俺は小声でそう呟いてみる。

「お兄ちゃん由香里さんのこと好きだもんね」

「べ、別に好きなんて言っとらんわ!」

妹がニヤニヤしながら言ってくるので慌てて否定するが、妹は完璧に地雷を踏んだようで

「あーでも...お兄ちゃんが由香里さんのこと大好きとか言い出したらヤキモチ焼いちゃうな〜...あ〜...」

と少し悲しげな様子になる。

何これ、俺が悪いんですか?

「まぁ、二人が付き合うことになったら応援するけどね!」

「あーはいはい。ありがと。」

...正直、由香里の事は好きだし、あっちが好きだと言ってくれてるのなら俺も付き合いたい。

でも、俺は後一年で死ぬんだ。

そんな死ぬ事が分かっている奴と付き合うなんて死んでも駄目だ...でもこれも逃げてるだけだって事はわかってる。

わかってるからこそ言えないんだ。

「お兄ちゃん?」

「えっほほい!?」

いきなり話しかけられた俺は変な声を上げる。

なんだよえっほほいって。

「どんな驚き方だよ。」

ごもっともです。

えっほほい。

「うるせえよ。どうしたんだ?」

「あ〜いや。お兄ちゃん暇かなって。」

妹が顔を逸らしながら聞いてくるので俺は

「あぁ、一年中暇だな」

とかっこよくもなんともないのに決め顔で言ってみる。

「ニートか。」

「ちゃうわ。んでなんでそんなこと聞いてきたんだ?」

「あ〜えっと...と、友達とカラオケに行くんだけど...お願いお兄ちゃん。付いてきてくれないかな!?」

「あ〜...まぁいいけど...」

優香はさっきも言ったとおりテストはトップで高成績、しかも兄の俺から見てもわかるほど可愛いのだが、一つだけ欠点がある。

「あ...も、しもし...あの...お兄ちゃんが...うん...付いてきて...もら...うん...ありがとう...うん...うん...」

優香はコミュ障なのだ。

家族に対しては話せるのだが、友達と話す時に固まってしまうようで、中々友達と遊びに行かない。

「お、OKだって!」

「おう。よかったなコミュ障」

「やめて!言わないで!」

優香が「><」と言う目の形をして体を押してくる。

超可愛い、抱きしめたい。

でも実際抱きしめるとどう言った反応をするんだろう?

...少しやってみるか。

「へ...?わ、ちょ、お兄...ちゃん...」

優香の表情がみるみる緩くなっていってる。

自分も若干赤くなってるのは多分優香の胸が当たってるからだろう。

こいつ相変わらず胸でけえな。

「お兄...ちゃん...」

優香が恥ずかしさで限界に来ているのでそろそろ離してやる。

「な、なんで急に抱きしめたの...」

優香がまだ少し緩んだ顔で少しだけ口を尖らせて聞いてくる。

「可愛かったから。」

「うぅ...お兄ちゃんの馬鹿...」

「とか言っといてお前どうせ心の中じゃ喜んでんだろ。」

ま、どうせいつも通り「そんなんじゃないし馬鹿!」って言われるんだろ。

もうこの展開慣れてきたわ。

「...うん。嬉しかった。」

...すごく予想外、優香が素直だ。

もう一度抱きしめたい気分だが流石に自重して頭を撫でるだけに抑える。

「...お兄ちゃんの体に触れる度に私、ドキドキしてるの。」

「は?」

なんだこのエロゲーみたいな展開。

俺は優香の事は大好きだが汚したくはないぞ。

「だから、お兄ちゃん...」

待て待て待て待て...なんだこれ...

「ちょっとだけ目を瞑ってて。」

俺が反論出来ずに目を瞑ると優香が俺にキスをする。

「あはっ♪」

可愛い。

可愛いけどそうじゃない。

「あはっ♪じゃねえよ何やってんだ。」

「私のファーストキス、お兄ちゃんにあげちゃった♪」

「このブラコンが...」

「えへへ〜じゃあお兄ちゃんカラオケ一時から始まるから覚えておいてね!」

「おう。お前も忘れんなよ。」

...何やってんだ優香は...だとしても...柔らかかったな...って何考えてんだ俺は...

でも、この幸せな時は一年後に絶望に変わってしまうと考えるともう...何も考えたくなくなるな。

優香と仲良くなりすぎるのはまずい。

いやもう既に手遅れだが...でも、どうせ死んでしまうなら、悲しんでほしくない。

どうせなら嫌って欲しい。

...一年。

残り一年のいつかに、優香に伝えなければならない。

俺はその日を見極めなきゃいけない。

優香だけじゃない。

由香里にもだ。

なんだかムカついてきたな。

俺はこんなにも愛してくれる妹と、両想いの幼馴染みまでいるのに何故死ななければならないんだ?

...ならいっそ、生まれなければよかったのによ......俺は考える事に浸っていて優香が悲しい顔して泣きそうになっている事に気付いてあげられなかった。

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