第八話 あの人と会うだけは勘弁してくれ!
「おやっさん、お酒ちょうだい!」
店に入るなり、翼徳が甲高い声で酒を注文した。そして適当に席を見繕って座った。
「おまちどー」
と声と同時に酒が運ばれた。
「酒はちょっと……」
「そんなこと言わずに、一口」
「まあ……一口なら……」
勧められるがままに、酒を一口すすった。
うすい。
甘酒を薄めたような口答えで、想像と全く違った。
「ほほぉ、さて玄徳は飲める口だな? ぐんぐん、くはー」
翼徳は皿に盛った酒を一気飲みにして、気持ちよさそうに息をはく。
こ、こんな酒だったら、俺も行けちゃうかもしれない……て、今はそういうところじゃない!
ちょろちょろと酒場を見まわした。あの長身の赤肌の漢がここに居るはずだ。
もし、誰の意図かは知らないけど、俺に劉備を演じさせようとするのなら、これから必ずあるイベントが起きるはず。そう、あの関羽が現れるはずなんだ。
劉備という役から降りるためにも、まずこのイベントを回避しないといけない。
しかし、見当たらないな。
不意に、緋色の糸らしきものが視界に入り、鼻あたりを掠めた。
「へっ、へっ、へくしょん!」
あの糸が鼻を刺激したせいか、俺は我慢できずにくしゃみしてしまった。
「おい、後ろの! 髪が邪魔だ!」
後先考えずに、翼徳はとりあえず怒鳴る。
「お? あ、済まぬ。髪が長くてな」
後ろに女子の声がした。
「いえいえ、大丈夫。気にしない気にしない」
俺は振り返り、慌てて手を横に振った。
目の前にいる人、背は多分俺と同じぐらいだ。髪はとにかく長く、しかも異質なほど緋色の髪だ。キラキラした銀色の瞳は、この目の持ち主が如何に真面目であろうと物語っている。
「地元の人間じゃないらしいね?」
翼徳も彼女の髪の毛に気づいたのか、そう聞いた。
「ああ、お察しの通りだ。わたしは北のほうから来た。今日徴兵の告示を見て、これから軍に申し出るつもりだ」
「あれ? そういえば、この時代って、女性も軍に入れる?」
「なぜ入れない?」
赤髪の女の子はまるで原始人でも見ているかのように俺を見つめた。
「男女平等は#商__しょう__#からとっくに実現している!」
「……」
俺は自分の常識が間違っていないと信じたい。だって俺の時代でも、男女平等だと、胸を張って言い切れる者はなかなかいないだろう。