第五話 母ちゃんもここに来ている?
「で? あたしの質問に答えてくれる気になった?」
「あ? ああ、告示のことか」
彼女のしつこさに呆れた。
要するに、こいつは劉焉とやらの徴兵に応募する気だな。まあ、劉焉なんてどうでもいい。だって張飛といえば、劉備についていくに決まっている。
「あんな奴の徴兵なんてほっとけりゃいいんだ。どうせそのうち死んじゃうし」
「おう? なんで?」
や、やっちゃった! うっかり未来のことを口走っちゃった。時間軸干渉云々を考えたら、やはり今は俺の知っていることを言わないほうがいいかもしれないな。知らないけど……。
とは言っても、もともと三国についてそんなに詳しいわけでもないので、言いたくても何を言えばいいかわからない。
三国をテーマにしたゲームを二、三本やったぐらいで、デカいイベントなど常識みたいな歴史出来事は当然知っているけど、その間の細かい出来事や登場人物など、余裕ですっ飛ばした。
「まっ、まあ、あんなもん、考えたらすぐ分かることだろう?」
「うーん」
「劉焉なんかに頼らず、名を上げたかったら自分でやれ!」
「一緒にやってくれるの!?」
「はあ?」
どう解釈すればそういう話になるんだ?
お誘いは嬉しいが、あいにく天下を取る余裕はない。俺は早く帰りたいんだ。
「俺が言いたいのはだな……」
「よしっ、決めた! あんたについていく! 見た目はちょっと変わってるけど、あんたなんか凄そうな気がする」
彼女はちょっぴり真剣な顔で、つま先立ちして、俺の肩を叩いた。
「これからはあんたが親分だ!」
「ちょっ! いやいやいやいや」
だめだこいつ。
「いい?」
俺はむりやり彼女の手をどかし、本気を分かってもらうよう、しっかりと彼女の肩を掴み、しっかりと彼女の目を見つめる。
「まず、足がイタイっ!! もう踏むのはやめて?!」
「ちょっ、何する気!?」
俺の強引なボディ―タッチに怯えているようで、一歩を引いてくれた彼女の顔が少し赤くなった。
「だーかーら! 俺は家に帰りたいだけだァ! 他のことをやってる場合じゃない! 了解? ドゥユーアンダスタン?」
すると、彼女の返答が来る前に、後ろから呼び声がした。
「おーい!! お前の母ちゃんもうだめみたいだぞ!! 早く見に行ってやってよ!」
後ろへ振り向くと、顔の知らない男が何故か俺のほうを見て言っている。
「へっ?」
母ちゃん? 俺に言ってんの?
張本人の俺が未だ飲み込めてないのに、張飛は全部理解できたような吹っ切れた顔で満足そうに頷き始めた。
「おぉ、なるほど! だから家に帰りたいんだね。じゃ早く帰ろう! 一緒に行くから」
「……」
何かを言い出す前に、彼女は物凄い勢いで俺を引っ張って走り出した。
しかし解せない。
母ちゃんもこの時代に来ている? しかもこいつらと知り合い?