第三話 ちょっとやばいところに来たかも
とりあえず彼女を無視して、団扇を睨む。
この団扇に刺さった紙を取って、読んだ瞬間から異変が起きた。推測が間違ってなければ、俺がここに居るのは十中八九この団扇と関係している。いや、それ以外考えられない。
もやもやしてきた俺は、念のため、また周囲を確認した。そしてやはり先と同じ結論に至った。
ここは俺の馴染みのある場所ではない。完全に、完璧に俺にとっては未知の町だ。
いや、町だけじゃない、この世界自体が、だ。
は、はは……。
これを意識し始めたら、不安が一気に襲ってきた。息もまたつまりそうだ。体を構成している水分が汗となり、止めどなく全身の毛穴から噴き出てくる。
冷静、冷静になるんだ。
この団扇のせいで来させられたのなら、きっとまたこいつを使って、元に戻れるはずだ。
そう! きっとそうだ!
慌てて団扇に仕込まれているかもしれないスイッチやボタンを探したが、そんなのあるはずもなかった。
おい、ちょっと待って! なんか大事なこと忘れてるぞ! あの紙はどこに行った?
「ね、なに探してんの?」
ない!?
てことは、なに? 片道チップ!? 来たけど戻れない?
冗談だと言ってくれよ!
「そんなバカなっ! いだだだ!」
俺は悲惨な境地を嘆いているだけなのに、悪意の満ちた足踏みに、嘆きの言葉もかき替えさせられた。
「いきなりなにするのよ? びっくりするじゃない! 変な人!」
彼女はどっちがよりびっくりしているかを知る由もなく、俺の襟を引っ張った。
「まあそれは置いといて、ほら、あれ見て」
「今はそれところじゃ……」
言葉が半分出たけど、最後まで言い切れなかった。彼女はなぜか一風変わって、ものすごく真剣な顔である方向に指を差した。
「どう思う?」
「……告示?」
彼女の指さした方向に目を向けると、デカデカと壁に貼られた告示があった。なぜか古い文字で書かれている。古文が読めるほど国語できていないが、キーワードだけで大体の意味を理解できた。
幽州太守劉焉……徴兵?
あれ? この名前どこかで見たことがあるような……。