第二話 十六歳の足踏み魔
ああーー!!
「おい貴様、何を叫んでる!?」
「いててっ」
突如現れた声と、誰かに蹴られたような痛みで、俺は再び現実に戻った。
「あっ」
間抜けな声を出しながら、俺は目を開けた。
目の前には小柄な女の子がいた。
誰だ?
と疑問を抱きながらも、俺はまず生きていることに胸元を撫で下ろした。
変だ。さっき感じていた胸の痛みはもうなくなっている。
「あんなに驚くこともないだろう。告示を見ただけで癲癇でも起こしたのか?」
俺が痛そうな目線を向けると、彼女は後ろめたい表情になり、後頭部を掻いて近寄ってきた。
「立てるか?」
ぽいっと手が伸びてきた。
「あっ、ああ、まあ」
今だに体に違和感はあるが、立てないほどではない。
「うん。大丈夫みたいだな」
と女の子はそう言いながら、下から上まで俺の体を眺めた。
「背はちっちゃいけど、なかなか鍛えてそうな体してるな?」
君みたいな小娘にだけは言われたくない。
そう思い、俺は女の子を見返した。少なくとも、彼女は俺より頭二つ分以上に背が低い。肩まで伸びたつやつやの黒髪。生き生きしたまん丸の緑の瞳。服は……ローブ? ローブなのか? 今こんな懐古的な服装が流行っているのか?
ちょっと待った……。
ていうかここどこ?
辺りを見回す。
視界を覆いつくす低い平屋。行き交う顔の知らない人々。
はっきり言おう、ここは断じて屋根の付いてる馴染みの我が家ではない。
「あっ、ちょっ、お嬢ちゃん? 足、足っ!」
足の指先が思いっきり踏まれている。
「子ども扱いするな! あたしはもう十六歳だ! 十、六、歳!」
「ひぃー、痛いぃ!」
だから足痛いって!
「ああ、信じてない顔してる」
目を細めて一歩引いたおかげで、俺の足指が救われた。
「ご、誤解だ」
俺はなるべく平静で信頼できる大人の顔をしながら嘘を吐く。そして話を逸らす。
「それより、ここがどこなのか、ちょっと教えてくれないか」
「……はあ?」
俺の質問が終わる前に、彼女は爪先立ちで俺の額に手を乗せた。ちっちゃい顔を近づけてくる。
「なんか悪いもんでも食べた?ここは涿県だろ?」
「だから! たくけんってどこなんだよ?」
彼女の手をどかすと、ふっと自分の手に握っているあるものに気が付いた。
「羽毛の……団扇!? あいててててっ!」
「なんですぐ奇声あげたがるのよ!」
お前のせいだろうが!
言うだけ無駄なので、痛みを我慢して強引に自分の足を彼女の魔の足から引っこ抜いた。