第一話 変な物に手を出すんじゃなかった
「えーと、これは……」
団扇?
散らかっている部屋の片づけをしていたら、ふっと一羽の団扇が目に映った。
いま時には見ない羽毛で出来ていて、使い込まれた跡があちこち残っている。なんとも不思議な雰囲気をまとっている。
「オヤジ! 何だこれ? 骨董品かなんか?」
「どれ?」
新聞に目を向けたまま、オヤジは適当に相槌を打つ。そして恒例のように、また得意の説教を始めた。
「どんなことであれ、遊ぶ余裕があるのなら、ちゃんと勉強しろ勉強! 来年から受験生だぞ? 今のだらしない様子じゃ、どこの大学も受けないぞ……」
ぶつぶつ言っているオヤジを後に、俺はさっさとその場から離れた。
三年前も全く同じセリフを毎日聞かされてきた俺には、これぽっちの効き目もない。
む?
わき目で気づいた、団扇の上に何かが挟まれてある。
紙の……破片?
すごく黄ばんでいて、少しでも力を加えたら千切れちゃいそうだ。
ゆっくりと破片を引き出す。
『持ち主へ返すべし』
これ以外はなにも書かれていない。
紙をひっくり返してみると、『太平要術』という文字があった。
なんじゃこれ? 本のタイトルっぽいけど。
ちょっとぼんやりしてたら急に目眩がしてきた。
くっ!
体を抉るような痛みが胸から頭に向かって走る。俺は耐え切れず、腰を抜かして床に倒れ込んだ。
息が、息ができない。
なんかやばいかも。
ああ……俺の人生って、こんなにもあっさりと終わってしまうのか。
と思いきや、いきなり床に穴が開いたような気がした。そして次の瞬間、俺はすぽんっとその中に落ちて行った。
ぎゃああーー!!