道化の仮面を被って
グエン視点+ラズ視点
「可愛い…可愛いよぅ……」
僕よりも可愛い女の子に、可愛いと言われてシッポを撫で撫でされる。
ひゃうっ……止めて欲しい…。だってくすぐったいのと……何だろう…?何か変な感じがするから。
不安で泣き出した彼女を慰める為に、背中を優しく撫でてあげたんだけど、お返しとばかりにシッポを撫でられた。
「くひゃんっ……っ……っ……ひっ…」
駄目だよ……。何かムズムズするっ!!
僕は我慢の限界が来てしまい、彼女から自分のシッポを取り返した。途端に、残念そうな声が聞こえて来る。
「あ~~~あ………………」
そんなに僕のシッポが気に入ったのかな?嬉しけど、あんまり触られないようにしなきゃ……。
ムズムズするからね。
「ゴメンね?でも…えっと……あんまりシッポを触っちゃダメなんだよ?」
これは本当だよ?まぁ、でも本当は引っ張ったり乱暴にするのがダメなんだけど、なぜか彼女が僕以外の他の人のシッポを触って喜んだりするのは、僕が嬉しく無いから…ね?
「ええ~?触っちゃ駄目だったの?じゃあ、勝手に撫で撫でしてご免なさい………」
彼女が目に見えてショボーンとしてしまった。
同族だったら、耳は下に伏せられてシッポも下がった状態だろうな。
まぁ彼女は同族じゃないけど、凄く分かりやすい。
感情が全部顔に出てしまっているからだ。
「大丈夫だから、僕は怒ったりはしてないよ?だからそんなに落ち込まないで?」
「本当……?」
うわっ!うわあっ!その潤んだ瞳で上目使いとか……かっ…可愛い過ぎる!
僕の事を可愛い可愛いと、言って来るけど、彼女の方が全然可愛いよ………。
「ほっ……本当だよ!!元気出してっ!」
「ありがとう……」
はうっ!!潤んだ上目使いからの、本気で嬉しそうな微笑み………ううっ…胸がドキドキする。
僕は自分の高鳴る胸の鼓動に、焦りながらもどうにか落ち着くために、彼女に自己紹介することにした。
「あっ…あのね…ちゃんと名のって無かったよね?僕はグエン…虎族のグエンだよ……。それで……君は?」
僕が照れながら名前を聞くと、彼女は驚いた表情をしながらも、小さな声で答えてくれた。
「私は……寧々…だよ……。人間」
う~ん…ネネかぁ…。名前も可愛いんだな。
「これからよろしく!ネネッ!!」
「うん……よろしく」
うつむきながらも、よろしくと答えてくれたネネの言葉が嬉しくて、僕はまた舞い上がって仕舞うのであった。
そんな二人の様子をコッソリ見詰める人影があった。
そう、お笑い要員……ゲフン…グエンの父のラズリルこと、ラズであった。
くぅ~!!あっ…甘酸っぺぇ……。俺がグエン位の頃は色恋沙汰なんか皆無だったなぁ…。
好いた惚れたなんかより、その日の食い物をどうするかの簒奪の話の方が多かったからなぁ…。
平和になったもんだぜ。
それにしても、グエンの奴……ベタ惚れじゃねぇか。
確かに小さくて、柔らかくて、可愛くて……俺たちの庇護欲を誘うのが上手い。
俺や親父はまだ分かる…しかし大の人間嫌いのナナキまで、追い出さずに家に置いているのだから、何かしらあの少女自身も気付かない魅力でもあるのだろうか?
だが今の所怪しい素振りも見せないが、この少女を
取り戻しに他の人間がこの村にやってくるなんてあったら、たまったもんじゃ無い。
何も気付いていない振りをしながら、もう少し様子を監視するしかあるまい。
全ては虎族の皆の為だ。
もう俺の若い頃のように殺伐とした世界を、グエンには味会わせなく無いからな。
色恋でほのぼのしてりゃあ良いんだ。
俺はその為に道化の仮面を被ってるのだから。
さてと……そろそろ夜が空ける……そしたら先ずは村の周辺の様子を探りに行かなきゃな?
何も無いと良いけどなぁ…?
俺はぼんやりとこれからの事を考えながら、嬉しそうに微笑みながら、顔を赤くして照れているグエンの顔をコッソリと見詰めていたのであった。
実は道化を演じていたラズ氏。
いや…違うっ!
真面目を演じているのかもしれない。