シリアス!?知らねぇな?そんなのあったか?
グエン視点です。
元気な様子でお祖父ちゃんと会話をしていた少女が、突然青ざめてガタガタ震えながら気絶してしまったので、僕とお祖父ちゃんは驚いてしまい、凄く慌ててしまった。
二人でオロオロしていると、母さんが様子を見に来てくれて、ただ気を失ってしまっただけだろうと言っていた。
僕たちと違う種族だから、突然気を失うとかも普通にあるのかな?心配ない様で良かったけど。
「お祖父ちゃん…この子の種族、分かる?僕はこんな耳をした子を見たこと無いよ…」
お祖父ちゃんは顎に手を当てながら、僕の質問に答えてくれた。
「フム、そうじゃの……幾分昔に見ただけじゃが、この娘は多分人間じゃろうな……」
「人間~?ええっと?それはどんな種族なの?」
「特長はのぅ…。我々より身体能力は低いな。ただし知恵はあり、種族の数は他の種族とは比べられぬほど沢山居るのぅ……」
「……それに狡猾で卑劣でもあるわね」
僕はお祖父ちゃんに聞いたのに、母さんが話に入って来る。
「母さんには聞いてないよ。それに、何だかこの子を警戒しているみたいだし……」
儚げで、守ってあげなければいけない気分にさせる少女であった。そんな少女に母さんは、警戒…というか敵意すら持っているみたいだ。
「ナナキ…お主まだ気にして居ったんじゃな?」
お祖父ちゃんは母さんの少女への、敵意の理由に心当たりがあるのか、沈痛そうな面持ちで、母さんの頭を撫でた。
「あれはお主のせいでは無かろうに……」
「っ…でも…。あんな事が無かったら、今でもあの子はっ!メルはこの村にいたかもしれないって考えると………ううっ……」
何かを思い出したのか、母さんは小さく嗚咽を漏らした。その表情や話の内容から言って、やっぱり母さんは少女の種族を良くは思っていない様子だ。
でもこの少女と、その母さんが嫌う相手は別人だし、きっとその事は母さんも分かっている筈だ。だって結局彼女の傷とかをちゃんと見てくれたしね。
お祖父ちゃんが母さんを、落ち着かせて居ると入り口のドアが勢いよく開け放たれた。
「ただいま~。それでどうしたんだ?皆でお袋の部屋に集まって………って、おい?どうした?何でナナキが親父に抱き付いてんだ?ハッ!これが世に言う浮気ってやつか?」
突然部屋に入ってきて、とんでもない勘違いをしている父さんに、重かった空気が消えていく。
「ラズリル……お主…アホじゃな。大空へ舞い上がるほどの」
「ラズったら、何を訳の分からない勘違いしてるのかしら……はあっ……」
お祖父ちゃん可哀想な人を見る目付きで父さんをみるし、母さんは心底呆れたといった感じでため息を吐いていた。
でも僕は父さんのナイスなタイミングに、内心ガッツポーズをしてしまった。父さんのアホな乱入で部屋の重い空気が払拭されたのだから。
「えっ?なっ…何を?浮気じゃないのか?」
「「そんなわけないでしょっ!(じゃろっ!)」」
お祖父ちゃんと母さんの息の合ったツッコミに、疑わしげに二人を見ていた父さんであったが、ここでやっとベッドの少女の存在に気付いたらしく、怪訝そうな表情で聞いてくる。
「誰だこの子は?ハッ!まさか…親父の隠し孫でも出てきたのか?」
何でそういう結論になるのか。一度父さんの頭の中を覗いて見たい。まあ、間違いなく筋肉がギッチリと詰まっているのでしょうけど。
「はあっ…。我が息子のアホぶりは、磨きがかかる一方じゃな。衰え知らずじゃ……はあ~」
「うふふ。でも、このアホな所も可愛いく思えるのよね……。惚れた欲目かしら?」
「間違いなくそうじゃな。ワシには可愛く見えんから、親の欲目は働いておらんようじゃがな」
「はあっ!?結局なんなんだよ~?」
「ほら貴方!ご飯を食べながら話してあげるから」
「そうじゃの。腹は減ったのぅ。グエンもほれ、行くぞ」
母さんは、全然理解していない父さんの背中を押しながら、部屋の外に出ていき、お祖父ちゃんは僕を手招きしてくれたのだけど、僕はそれを断った。
「有り難うお祖父ちゃん。でも僕は彼女の側に居るよ。目が覚めて誰も居なかったら、きっと怖いと思うし……」
僕がそう言うと、お祖父ちゃんは僕の頭を撫でながら、嬉しそうに微笑みながら、
「お主の意志は固いのじゃな?好きにすると良い。後でワシが食べ物を持ってきてやるからのぅ…」
と、言うと部屋を出ていったのであった。
***
お祖父ちゃんが持ってきてくれたご飯は、案の定野菜の炒めもので、僕は苦労しながら全部食べ終わった。元々僕たち虎族の祖先は肉食だったのだが、永い時間をかけて草食でも生きられるように進化したそうです。でも僕は野菜が余り得意ではありません。勿論出された物はちゃんと食べますし、お腹も一杯になりますが苦手です。
「お主は本当に野菜が苦手じゃな?まあ若いときは大体そんなもんなんじゃろ?ワシも昔はそうだったからのぅ…」
「そうなの?僕だけじゃ無かったんだ……。良かった~」
「まあ、お主も歳を取れば野菜の旨味が分かるようになるじゃろ?」
「う~ん…なるかなぁ……」
僕とお祖父ちゃんが野菜話に花を咲かしていると、「うげっ…マジか~。どうする?」と、父さんの驚く声が聞こえて来た。多分母さんが彼女の事を伝えたんだろう。
ドタドタと走る音が聞こえてきて、この部屋のドアが開く。
「おいっ!本当に人間か?」
ズカズカと大きな声でそう聞きながら、父さんは部屋に入って来る。
すると父さんの声が五月蝿かったのか、少女は眉間に皺を寄せてうなされ始めてしまう。
「ちょっと父さん?静かにしてよ…。この子が寝てるでしょ?」
僕は父さんの背中を押しながら、部屋から出ていってもらった。
「ええ~?そんなに五月蝿くしたかぁ~?ハハッ…グエンお前、いっちょまえにナイト気取りか?」
「ナイト…気取り…?ナイトって何?」
「あん?知らねえのか?確か人間の国の言葉で…そうだな、女を護ってやる為の戦士ってとこだろ?簡単にいうと」
「あの子を護る…戦士……」
うん。何か凄く良いね!とってもか弱そうだし、僕が彼女を護ってあげなきゃね。
僕が決意に満ちた瞳で父さんを見ると、しょうがねえなって顔で頭を撫でてくれた。
「ハッ!そうか…お前も女に惚れるような歳になったのかぁ…。俺も歳をとるわけだな。しかも惚れたのが他の……しかも人間とはなぁ……」
妙に含みを持った父さんの言葉に、僕はずっと気になっていた事を聞いてみた。
「人間って種族は、そんなに駄目なの?それに、母さんも何だかおかしいし。あの感じからして良い事では無さそうだけど……」
父さんは自分の頭を豪快に掻きながらも、教えてくれた。
「……ナナキには昔、大切な友達…親友が居たんだ。ある日怖いもの見たさで、人間が暮らす人里まで降りていっちまったんだ。そこで運悪く奴隷狩りの人間にはちあわせちまってな…。ナナキは命からがら逃げられたんだが、ナナキの親友のメルが捕まっちまったんだよ。ナナキは物凄く気に病んでな……まあ、誰の目から見てもいつも行動的だったメルが、ナナキを誘ったのは明らかだったから誰もナナキを責めなかったんだが、それが逆にナナキの心に重くのし掛かってんだよ……」
そんな事があったんだ。母さんは悪く無かった。むしろ辛かったのに、僕はそんな母さんに、知らなかったとはいえ酷い態度を取ってしまった。
「僕……母さんに謝って来るよ。その間だけ父さん、あの子を護ってあげて!」
僕は決めたら即座に動く獣人の性なのでしょうか、母さんに謝りに行くことにしました。その間の少女の護衛は父さんに一任しました。若干心配ですが、お祖父ちゃんも居ることだし、大丈夫でしょう。
走り去った僕には聞こえなかったのですが、父さんはポツリと呟いた。
「齢十にして、好きな娘が出来るとか……早すぎねぇ?俺があいつ位の時って、畑の芋を漁って殴られたり、木の実をとるために木登りして地面に落下したりしてなぁ……」
と、なんとも情けない自分の昔を振り返っていたりしていたのでした。
眠くてしょうがないっす。
そしてシリアスクラッシャーの父、帰宅。
あの後ナナキママンに謝り、スッキリして帰ってきたグエンが見たのは、腕ひしぎ十地固めを極められて、床で悶える父の姿があったとか、無かったとか。ま、どうせまた五月蝿くしたんでしょうね、きっと。学習能力は間違いなく低そうですよね。