ショッキングな現実?
最初シリアス…後にコメディ?テイストな話になってます。ご免なさい。
私の周囲は薄暗く、 重苦しい雰囲気に包まれている。
ウッスラと開いた私の瞳に写るのは、辺りを気にせず号泣する母と、目を真っ赤にして泣くのを我慢している父と、静かに涙を溢している弟の姿であった。
場所は実家の客間だと思う。そこにはテーブルを挟んで二人のスーツを着た男性がソファーに座っている。
「……舞桜村さん、現在の捜査状況ですが、お嬢さん…寧々子さんはまだ発見されておりません。犯人の男はその場で逮捕されましたが、意味不明な言葉を繰り返しておりまして、寧々子さんをどうしたかはハッキリと判明してはいませんが、現場の状況から考えて恐らくは……………」
父の声がスーツの男性の話を遮る。
「でっ…でもっ…あの子はまだ見付かって無いんです。という事はどこかに逃げて、生きている事も考えられますよね?」
「………残念ながらDNA鑑定の結果、あの血溜まりは寧々子さんの血液と確定されました。あの量の出血です……残念ながら寧々子さんが、ご自分で動いて犯人から逃げた可能性は低いと我々は考えております」
「………では、娘は…寧々子は一体どこに行ってしまったんですか?」
「現時点では分かりません。警察官百五十人体制で現場周辺をしらみ潰しで捜しておりますが、未だに見付かって無いのです。犯人の男が寧々子さんのご遺体をどこかに持ち去ったのではないかと、我々は睨んでおります。ただし、犯人の男に事情を聞きたくても、現在錯乱しておりまして、鎮静剤の効果で意識が無い状態です。意識を取り戻したら取り調べを行う予定ですので、数日はお待ち頂きたいと思います」
「ごっ……ご遺体……………………………」
スーツの男性……刑事がサラリと言ってしまった。寧々子の家族全員が、内心は分かっていながらも認めたくなかった現実を……。
「では、犯人の男が意識を取り戻し、新しいことが分かりましたら参ります。失礼致します……」
ご遺体と断定して話してしまった事に対して、流石に気まずげな表情で二人の刑事は頭を下げた後、そそくさと私の実家から出ていった。
後に残ったのは、泣き崩れる母と静かに泣く弟……そして、我慢していた涙が頬を伝う父の三人であった。
「何で…何でこんな事に……。寧々子は至って普通の子だった。こんな…事件に巻き込まれる様な子では無かったのに……………どうしてっ………」
父の無念の呟きが聞こえたのが、最後であった。私の身体は急速に何かに引っ張られるように引き戻られる。
「私…やっぱりあの後、死んだんだ……。じゃあ…今の私は……。一体どうなっているの?」
私の疑問は解決されずに、身体はただ引っ張られるのみであった。
***
誰かが私を呼んでいる様な気がした。それが両親や弟なのか、はたまた友達の誰かだったのかは、よくわからない。ただ、凄く心配してくれているのだけは伝わって来た。
そして私は眩しい光のなかで目を覚ました。先程とは打って変わった明るい日差しの中で、重い目蓋をゆっくりと開いた。
そこで私が見たのは、心配そうに見つめる二対の瞳だった。
「ああっ!起きたよ、お祖父ちゃん!良かった~」
「コラ!余り騒ぐでないぞ?グエン……」
グエンと呼ばれた少年は、ご老人に襟首を掴まれながら大はしゃぎしている。
目を覚ますまでに見た家族の姿が一瞬脳裏を過ったが、ここで考えてもどうしようもない事なので、今は考えない様にして、私は現在目の前に居る二人に目を向けた。
それにしても素晴らしい光景である。ネコ耳を持っている人物が二人も居るのだ。正に癒しの空間。ハアハア…触りたい…引っ張りたい…スリスリしたい…。
「ウムゥ…。この少女……やはりただなぬ気配がするのぉ…」
「ええっ?ただならぬ気配って、一体どんな感じなの?僕には全然分からないけど?」
「グエンはまだ子供じゃからな?精進せねばならぬのぅ……」
「うんっ!僕頑張るよっ!この子も守ってあげなくちゃならないしね!」
おっと…。ご老人は鋭いですね?私の邪な煩悩にお気付きですか……って、ん?グエンと呼ばれた少年が、私の事をこの子呼ばわりですよ?二十一歳のお姉さんに向かって、この子となっ!?
「あのぉ~。一応私は二十一歳よ?流石にこの子呼ばわりは、ちょっと……」
私が申し訳なさげに自分の年齢を言ってみると、二人は声を揃えてこう言ったのであった。
「嘘だねっ!」
「嘘じゃなっ!」
実年齢を告げたのにも関わらず、嘘と即答されてしまった。解せぬ…。この二人は何を根拠に嘘と断定しているのだろうか?
「いやいや、どう見ても僕と同じ位いでしょ?」
「そうじゃな…ワシにもグエンとそう変わらん年齢にしかみえんのぅ……」
「なっ?何ですって?」
どう見積もってもグエン少年は十歳前後よね?日本人は童顔だと言うけれど、私はそこまでじゃないわよ?年相応の顔よ…………多分。
「………因みにグエンくんは何歳なの?」
「へっ?初めて名前を呼ばれた……………」
あら?どうしたのかしら?グエン少年は、顔を真っ赤にして動かなくなってしまった。もしや…名前を勝手に読んではいけない習慣でもあるのかしら?だとすると不味いわね……。聞いた方が良いのかしら?
「名前を勝手に読んでは駄目だったのかしら?」
グエン少年に、近づいて上目使いで聞いてみる……あれっ?上目使い?ホワット?何故十歳前後の少年の身長を、私が見上げねばならない!?
私は自分の身体を見回した。うん。ちっちゃい。何もかもが!!中でも一番ショックなのは自慢のプロポーションがっ!出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込んでいたナイスボディが……………ツルペタになっていた事であった。
「はわわわわ…。ペッタンコ……ペッタンコ何ですけどぉぉぉぉぉ!?」
私が自分の胸を触りながら絶叫して居ると、グエン少年とご老人の二人は背後でなにやらボソボソと話し合っていた。
「この少女…大丈夫なんじゃろうか?頭の病気に詳しい者を呼んだ方がええんじゃないかのぅ?グエンよ、どう思う………って、お主も大丈夫かのぅ?」
「うわああああ…違っ……別に、その…胸……あっ…鼻血がっ………うわああああ………」
「グエンも多感なお年頃じゃったな……じゃが、あの様な絶壁にドキドキしてしまうとは、若さゆえかのぅ。はぁ……」
ご老人は突然鼻血を出してしまったグエンに、布を渡すと遠くを見つめながら溜め息ついたのであった。
寧々子は現在元の場所の事を考えるのを放棄しましたが、いつかはまた考えるでしょう。多分。