大丈夫なら良かった~。
グエン視点と、グエンの母親視点を含みますので、ご注意を。
因みに****←これは時間経過や、視点変更にも使ってます。分かりにくくて申し訳ないです。
僕が少女を抱えて家に急いで走っていると、友達のサーシャが前方から鼻歌を歌いながら歩いて来ました。
「ふんふん~♪ふんふん~♪ふんふ………って、グエン!?どうしたの、その子……」
「ごめんね、サーシャ!急いでるからっ!!」
説明している暇は無いのです。呼吸も落ち着いてますし、気を失っちゃっただけだと思いますが、万が一ってこともあるかもしれないので、急いで身体を休ませてあげないと。
僕はサーシャに軽く謝ると、家への道を急いだ。
「あっ!ちょ、ちょっと……グエン……って、行っちゃったわ。それにしても……グエンが知らない女の子を抱きかかえる何て、ねぇ……。う~んミーナには言えないなぁ」
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僕が走って家の前まで戻って来ると、両手が少女で塞がってしまっていて、ドアが開けられないことに気付く。少女を地面に下ろすのは躊躇われた為、その場で家に居るはずの母さんを呼んだ。
「母さんっ!母さ~んっ!!」
自分で言うのも何だが、結構な大声だった。明日は僕の大声で村中の噂になりそうです。
少し待っていると、パタパタと足音がしてドアが開いた。
「どうしたの?そんなに大きな声を出したらご近所迷惑でしょう?貴方ももう十歳になったんだから……………」
母さんのお小言がピタリと止まった。母さんの視線は僕が抱えた少女をジッと見詰めていた。
「母さんっ!この子大丈夫だよね?寝ちゃってるだけだよね?こんなに血だらけなんだ………」
僕は余りにも静かに母さんが少女を見詰め続けているので、少し怖くなった。このまま少女が息を引き取ってしまうのではないかと。
そして、母さんがまるで少女を危険な者を見る様な、感情の抜け落ちた表情で見詰めていたのが、物凄く気になったのです。しかし母さん本人に問い質すことも出来ず、女子の無事を母さんに確認する言葉を選びました。それ以外に言えなかったのです。僕は意気地無しでしょうか?
僕に確認された母さんは、ハッと驚いた様に僕と少女を見比べてひとつ頷くと、急いで家に入れてくれた。
「……グエン、その子をこっちに連れて来なさい。お祖母ちゃんの部屋が空いてるでしょ?ベッドのシーツも取り替えたばかりだから大丈夫でしょう」
「うん。分かった!お祖母ちゃんの部屋だね?」
母さんの言う通りにお祖母ちゃんの部屋に少女を連れて行くと、部屋のドアが閉まっていたが、母さんが直ぐに開けてくれた。
「そこのベッドへゆっくり下ろして」
「分かってるよ…」
僕は優しく少女をベッドに下ろした。すると続けざまに母さんから命令が飛ぶ。
「私はこの子の傷の具合を見るから、貴方は裏の井戸から桶に水を汲んできてちょうだい!それと清潔な布ね。場所は分かるでしょ?」
「えっ?う、うん。分かるけど………」
さっきの母さんの態度が尾を引いていて、中々直ぐにはこの部屋から立ち去れない僕に、母さんが再度同じことを言って、最後に「早くっ!!」と大きな声で急かされてやっと僕は動き出せたのであった。
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「ふぅ…。まさかまたこんな形で人間にまた会うなんてね。まあこの子には関係がないし、罪もないのだけれど……でもやっぱりいい気分じゃ無いわね」
私は人間に良い感情は持ってない。まだ私が小さくて、怖いもの知らずだった頃、興味本意で人里に降りた際に奴隷狩りにあい、親友のメルを連れ去られた事が未だに消えない棘の様に私の胸を苦しませる。メルを助けてあげられなかった事と、そして自分が助かってホッとしてしまったあの時の気持ちが嫌になるのだ。
人間は…嫌いだ。あの時の恐怖や悔しさ、情けなさを思い起こさせる忌むべき存在であった。
しかし、そんな私の息子はあんなに大事そうに人間の少女を抱えて、心配でしょうがないみたいな表情だった。私のさっきの態度で何かを感じた様で、中々この少女と私を残して部屋を出て行くのが不安そうだったわね。
「はあっ……。嫌だけど、しょうがないわね。グエンがあんなに心配してるし…。それに人間って言ったって、子供の…しかも女の子だしね」
自身に諭すように言いながら少女を診ていく。何があったのか少女の上等な洋服は血でどす黒く染まっていた。この服の上等さからいうと、どうやらかなり良い身分の家の子供らしい。そんな子がどうしてこんなに血まみれになって虎族の村の近くで倒れていたのかしら?厄介な事にならなければ良いのだけど。
ざっと確認すると、少女は血まみれだったのだが特に傷らしい傷は見受けられず、益々厄介な事情を抱えてる気配が濃厚になった。
頭を抱えたい衝動に刈られたが、バタバタと近づいて来る足音が聞こえて、私は一つ大きな溜め息を付いたのであった。
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ドタドタ…タタタッ………。
「かっ…母さん!言われた通り用意してきたよ?それで、その子は大丈夫だったの?」
僕が勢い良く部屋に入ると、母さんは不機嫌そうに眉をしかめながら僕の頭を殴って来た。
「痛っ…!何で叩くの?」
「眠っている子が居るのに、騒がしく部屋に入って来るから、つい………」
「ついで叩かないでよ~って、それより彼女はどうなの?」
母さんが僕の目の前に、いきなり手のひらを突きだした。
「うわあっ!!ビックリしたっ!!」
「うん、貴方はまず落ち着きなさい。それとこの子だけど……身体には特に外傷は無かったわ。これで意識が戻れば大丈夫だと思うわ」
「そっかぁ~。大丈夫なんだ…良かった」
僕は母さんの言葉にホッとすると、椅子をベッドの横に付けると少女が目覚めるまで側に居ることにした。目が覚めて誰も居ないと不安になってしまうと思ったからだ。
「母さん、僕は彼女が目覚めるまで側に居るからね!良いよね?」
母さんは溜め息を付くと、一つの条件を出したが了承してくれた。
「はぁ……。分かった。ただし!夕御飯はちゃんと皆と一緒に食べること。それを約束出来るなら良いわよ?」
「うん、じゃあ………あっ!しまった!魚を捕ってきてないやっ!どっ…どうしよう……」
僕は川に魚を捕りに行く途中だったことを思い出した。チラリと母さんの方に視線を向けると、母さんは物凄い笑顔で「じゃあ今日は裏の畑の野菜をオカズに夕御飯を作りましょうね?」と、言って部屋の外に出ていってしまったのだが、僕は野菜が余り好きじゃないので、ベッドにガックリと突っ伏してしまったでした。
変なところはいずれ直します。いずれ……ね。