振られる前に振ってやれ
うっしゃ~。閃いたから書いた。ただ、それだけ。
パッションの赴くままにっ!
ポカポカ陽気に誘われて週末のお楽しみ、ネコウォッチングからの猫カフェ巡りに出掛けようとした矢先、スマホから可愛らしいネコの鳴き声の着信音が鳴り響いた。
にゃ~んにゃ~んにゃ~ん……にゃ~んにゃ~んにゃ~ん……にゃ~んにゃ~んにゃ~ん……ブツッ…。
ハッ!着信音が愛らしすぎて、取るのを忘れて聞き入っちゃったわ……。ニャンコ恐るべし!!
私が急いで掛けなおすと、相手は直ぐに出てくれた。
「おう、寧々子か?今日は会社が休みだろ?デートしようぜ?」
うげっ……。そういえば彼氏……居ましたね…。う~ん……デートより、ネコの方が大事だし…今回はお断りしよう、うん。
「あ~っと、ごめんね?ちょっと今日は大事な用があって…………」
「…………お前またなのか?先週も先々週も駄目だったよな?まさか……浮気とかじゃないよな?」
おっふ。浮気を疑われたよ……。まあしょうがないけれど。会社が休みの日に、毎回デート出来ないってそりゃあ浮気を疑われるよね?うん、分かる分かる……って、浮気はしてませんからね?
「失礼なっ!浮気なんてしてないからっ!?」
「じゃあ、一体何だよ?俺とのデートより大事な用って」
「………引かない?」
「はあっ?」
「大事な用の理由を聞いても、引かない?」
「なっ…何だよ?まさかお前…ヤバイ事でもしてるのか?」
「ヤバイ事では……無い……はず」
「じゃあ…聞くが……」
スゥーハースゥーハー……。深呼吸をした後に、一息に大事な用の内容を彼氏に告げた。
「実は私、三度の飯よりネコが好きなのっ!週末はいつもネコウォッチングからの猫カフェ巡りが趣味でして、新たなネコグッズショップの開拓や、ネコ大好きサークルのオフ会にも行かなきゃだし、色々時間が無い…の……よ……」
ハアハア……一息に言ったから、最後酸欠になっちゃったけど、聞き取れたかしら?
少したってやっと彼氏の返答が来た。
「………つまりは何か?俺とデートするより、ネコに纏わる事をしたいって事か?」
うむ。今回の彼氏は話が速くて助かりますな。前の彼氏は理解して貰うのに時間がかかったからな。
「まあ、有り体に言えばそうなるわね」
「ふざけんなっ!そんな口実っ!!別れたいなら、別れたいってハッキリ言えよっ!!」
ええっ?理解してくれたんじゃなかったんだ。別れの口実と思われた。ええ~面倒くさっ!これだから男は……ハアァァァ~。
「じゃ、ハッキリ言うわ。貴方よりネコが好きだし、大事なので別れましょう。さようなら」
私は言いたいことを言うと、通話を切り彼氏の電話番号を着信拒否に設定した。
ふっ。また別れてしまった。
私は舞桜村寧々子。二十一歳。この歳にして別れた経験が二桁って、笑えない。
自分で言うのも何ですが、私は見た目だけは良いのでモテます。ただし、見た目だけです。重度のネコマニアの為、彼氏よりもネコを優先してしまい、長続きしません。
彼氏にネコ耳が生えていたら最高なのに…。歴代の彼氏にネコ耳の付いたカチューシャを装着させたりもしましたが、ずっと付けている訳にもいかず、何より本物じゃ無いのでトキメキは殆どありませんでした。
ついでに言うと、彼氏の名前も覚えてません。一番長くても三ヶ月しか続かない相手の名前など、覚えてられませんし、顔すらも危ういです。
この間街で自称元カレという男性に「よっ!久し振りだな?」と、言われたのですが私は覚えておらず「どちら様でしょうか?」と、言って相手を凍り付かせてしまった程です。
まあ…かといって落ち込んでる訳では無いです。相手から付き合わないかと、言われ付き合っていただけですので、それほど思い入れは無いですし、それよりもネコウォッチングに行かねば。この時間のロスで三丁目の角の塀の上にいつも居る三毛ネコが居なくなってしまってないかどうかだけが心配です。
私は急いで靴を履くと、部屋のドアを開け放ったのでした。
ゴンッ……。「痛っ………」
開け放ったドアにぶつかってしまった男性が居ました。どんくさい人ですね?
「ご免なさい…急いでいたもので……。失礼します」
私は急いでいたので、おなざりに謝りながら走り出したのですが、急停止する羽目になりました。何故かと言いますと、ドアに当たった男性が私の腕を掴んで来たからです。
「あの……何でしょうか?離して頂けますか?」
私が訝しげに相手を見詰めながら離すように言うと、相手は顔を真っ赤にして怒りだしました。
「何を他人行儀な事を言ってるんだっ!電話の最中で言いたいことだけ言って切りやがって!かけ直しても繋がらねえしっ!俺は…俺はお前と絶対に別れないからなっ!!」
えっ?えと……ええっと……。もしや先程の電話の彼氏かしら?名前はなんて言ったかしら?
坂……坂上…坂下…?坂本……だったかしら?
「えっと……坂本…くん……?」
「……森口だっ!お前…ふざけんなっ!!名前すらも忘れてたのかよっ!!」
いやいや、忘れてたというか、最初から覚えて無かっただけですが、何か?
其よりも早くしなきゃ、塀の上に居る三毛ネコが居なくなってしまうっ!
私が時間を確認しようと腕時計に目をやると、それが気に入らなかったのか、彼が怒鳴った。
「っ……。時間を気にするって事は、誰かと待ち合わせでもしてるのか?新しい男となのか?くそっ…。こんな二股掛けるような女に俺は……俺は……」
だ・か・ら!二股とかしてませんからね?彼は何を変な勘違いをしているのでしょうか?
そして私はネコに会いたかったから余計な事を彼に告げてしまったのです。
「ねぇ、私急いでいるのっ!早くしないと会えなくなっちゃうっ!!手を離してっ!」
私のその言葉でブルブル震えていた彼は、ピタリと止まり私の腕を物凄く強く握り締めて来ました。
「痛いっ!離してっ!お願いっ!!」
余りの痛みに、懇願しましたが彼は離してはくれません。そして…………。
「お前が悪いんだからなっ!二股掛けやがって!この売女がっ!!誰かにとられる前に、俺がっ…お前を…………」
彼はもう片方の手にナイフを隠し持っていたのです。そして勢い良くそのナイフで私の首の動脈を切り裂いたのでした。
私の首から噴き出した鮮血が、辺りに降り注ぎます。周囲と自身を私の血で紅に染めながら、彼は狂ったように笑い声を上げて居ました。
「アハハハハハ……ハハハハハ…アハッ……ハハハハハ………」
私は朦朧とする意識のなかで、彼の狂ったように笑い続ける声が耳に残ったのでした。
ああ……それにしても……ネコに会えなくなるのだけが、心残りです……ね………ぇ……。
主人公……死すっ!!完!!!
じゃないです、一応続く予定です。あくまで予定。
ちなみに主人公の名前は、まおうむら ねねこです。
今後フルネームが出てくるかは謎ですが。