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『僕』と『俺』の幸福な世界  作者: たにさん
第0章『帰郷』
3/7

第2話 可愛いフリしてあの子…




様々な建造物が周りに立ちはだかるビル街、周りを見れば、人、人、人。

そんな景色が周りに見える桜中央駅前、地下鉄を出た場所、「桜木区」の中央モニュメントの前に俺はいた。


昨日知った話、数年前に桜木市から桜坂市(桜木町から桜坂町)に名前が変わったこの町、だけど中央区域の名前は桜木区から桜坂区には変わらなかったらしく、今も中央区は「桜木区」の名前のままらしい。

なんとも厄介だが、これには、せめて昔の名残りを残したいという人々の想いがあったようだ。


それにしてもだ、何故。

このわたくし、黒崎一和がいきなり最初から、一人称で無駄話を語っているのかと言いますと。


「遅い」


約束事をしたはずの、待ち合わせ相手が来ないからである。







「明日10時に、私とアンタと苺の三人で、駅前のモニュメント前に集合ね。」


「は?」


風呂から上がり、本家の昔使っていた自分の部屋で腕立て伏せをしていると、いきなり優香がやって来た。

そんな優香が発した、第一言が上参照だ。


「駅前って、何しに?」


「そんな事も分からないの!?」



分かる筈が無い。



「言っとくが、俺はエスパーじゃねぇ。」


つか、あの辺りは昔しか知らない俺にとっては、まさに未知の巣窟。

何があるか分かる筈ないから、何をしにいくかさえも分かるはずないのだ。


「ショッピングに行くのよ。」


「ショッピング?」


「そ、アンタの生活用品から服まで。無いと困るものとか色々あるでしょ?明日から、苺の家に一緒に住むんだから。」


「あぁ、なるほどね」


ちなみに、俺は明日から那奈夜家からおさらばする。

何故かと言うと、苺と二人暮らしを始めるからだ。元々、この街を離れるまでは苺と一緒に暮らしていたのだが、それがまた始まるだけの話。

明日からとは何とも早い話だが、明日は夜に親戚間での総会みたいなものが本家であるらしい。

で、親戚連中から諸事情により悪い印象を持たれている俺と苺は正直、あの連中に会いたくないというのが本音のため、さっさと退散する事に決めた。


「っていうか、今苺が住んでいるマンションって昔、俺と一緒に住んでた『コーポ桜花』だよな?」


「そうよ。ちなみに部屋番号も変わってないわ。安心なさい、あんたの部屋も四年前のまま。苺が暇を見つけては掃除してたみたいよ、兄さんがいつ帰ってきても良い様にって。」


「良い妹を持って俺は幸せだなぁ。けど、…」


チラリと優香を見て。俺は陰鬱に呟く。


「幼なじみがなぁ…。」


ドガシャッッ。


「蹴るわよ。」


「蹴った後に言うなよ。」


顔に足のマークを付けて、吹き飛ばされた俺はのしりと起き上がる。

補足説明だが、コーポ桜花は俺と苺が、住んでたマンション。というか、今もまだ苺が暮らしてるが、ちなみに部屋は五階で3LDK。家賃は十万だったかな。


「そう言えば、苺は?」


「私の部屋にいるわ。今日は泊まるらしいし。明日、アンタの生活用品買いに行くって言ったら喜んでついていくって言ってたわよ。」


「そうか。」


「で、アンタ、最初の会話の約束事覚えてる?」


「え、何だっけ?」


「蹴るわよ。」


「冗談だって、覚えてますって!明日、10時に駅前だろ?」


目が一瞬やばかった。

嫌だ、この幼なじみ。


ちゃんと覚えていた俺をみて、優香はうなずく。


「それでいいわ。ちなみに遅刻はゆるさないから。もし一分でも遅刻したら、一分間遅刻するごとにアンタを…」


遅刻するごとに俺を?


「殺すわ。」


「一分目からッ!?一分ごとなのに!?いきなりトドメじゃねぇか!」


「つまり、遅刻は許さない。という事よ。遅刻=死、ね。」


いやだ、そんな方程式。


「それなら、逆に、お前が遅刻したらどうすんだよ!死ぬのか!?」


「死なないわよ。私は生きたいから。」


「俺だけ死ぬんかい!俺だって生きたいわ!」


「……生きたい、、、の?」


「え、なに!?その意外そうな顔!?生きたい、生きたいに決まってるだろうが!むしろ、死にたいと思われてる理由を知りたいわ!」



「だって、一和。昔、小学校で将来なりたい職業を先生に聞かれて、「地獄の裁判官」って。」


「言ってないわッ!!どんな小学生男児だ!」


「でも、小学校の修学旅行先に何処に行きたいかって言うアンケートに迷わず、「天国か地獄」って」


「書いてないわッ!!俺、何者なんだよ!?」


「けど、よく昔言ってたじゃない、僕の憧れの人物像は「デスノートのリューク」ですって。」


「言ってないわッ!というか、人物像ってアイツのどこに憧れたんだよ!!」


「あの時の貴方の言葉を私は忘れない。『先生、僕も死神になれるかな、ウヒヒヒ』」


「だからそんな台詞言ってない!しかも後半のウヒヒヒって何だ!完全に頭いっちゃってるガキじゃねぇか!」


「あの時の貴方を見る時のみんなの目と、クラス中から小声で聞こえた貴方に対する声も忘れられない。『アイツ、頭いっちゃってるぜ。』」


「ほら!頭いっちゃってると思われてるじゃねぇか!」


「その後、小声が微かに聞こえたのか、貴方はみんなに対してキレてたわね。『何だよ!?誰かに対して憧れるのが悪い事か?誰かの様になりたいってのがそんなに可笑しいのかよッッ!!ウヒヒヒ』」


「俺、めっちゃ良いこと言ってる!!けど、憧れる対象が明らかにおかしいから!!あと、またウヒヒヒって言ってるじゃねぇかぁぁぁ!!」


「そんな貴方の一言が効いたのか、小声で悪口を言っていた子達が貴方に謝りだしたのもいい思い出ね。『悪口言ったり、ばかにしたりしてごめんなさい。もう言わないよ。』」


「なんかいい話に落ち着いてる!!?」


「ホント、良い思い出達ね。そういえば、小学生四年生の頃のことなんだけど、」


「他にも何かあるのかよ!」


「跳び箱テストがあった時の事、覚えてる?あの時の貴方は衝撃的だった、跳び箱がどうしても飛べない子にアンタはこう言ってたわね。「死ねば助かるのに」」


「そんな、闇の中に舞い降りた誰かみたいな台詞言うか!!というか、元ネタ分かって言ってんのか!?」


「え、ドラえもんでしょ?」


「違うわ!どの場面で言うんだよ、そんな台詞!」


「知らないの?ジャイアンリサイタルが始まる時、できすぎ君がいつも呟くじゃない。「死ねば助かるのに」って。他にも、スネ夫の「シニタクナーイ」や、のび太の「倍プッシュだ」は有名よ?」


「知らない!そんなドラえもん知らない!」


「そう言えば、隣のクラスの嘉穂ちゃんと保田さん、アンタの事、好きだったらしいわよ?」


「え、まじで?」


「本当。嘉穂ちゃんと保田さんって親友どうしだったわね、確か。良かったじゃない、三角関係よ!」


「それは良かったのか?」


「「悲しみのー、向こうへとー」」


「えぇい、その歌止めろ!!つか、お前、それ何の歌か知ってんのか!?」


「え、ドラえもんでしょ?」


「違うわ!!ドラえもんのどこで流れるんだよ、その歌!!」


「ねぇ、一和。わたし、いま外国語勉強しているんだけど、聞いてくれないかしら。」


「唐突だな、オイ。…まぁ、良いぜ。」


「クロサキザァン、ナゼミテルダァケナンディス!!!」


「それ、外国語じゃねぇぇッッ!!つか、お前、元ネタ分かって言ってんのか!?」


「え、ドラえもんでしょ?」


「だから、違う!何でも、ドラえもんのくくりに纏めるな!!お前、ドラえもんのストーリー分かってるよな!?」


「えーと、確か。のび太が、未来からやってきたロボットと禁則事項を繰り広げつつ、日本の歴史を境界線上にて解決して、世界平和を展開していく、フラグビンビンの学園都市物語でしょ?「狂音堕とし(ダウトノイズ)」のジャイアンとか有名よ?」


「全然違う!のび太とロボットしかあってない!しかも、やたらジャイアンがとあるな感じになってる!!」


「ねぇ、一和。前から思ってたけど。藤子・F・不二雄と、刹那・F・セイエイって親戚かしら?」


「知るかぁぁぁぁぁぁあ!!」


はぁ、はぁ。はぁ。




「ナイスツッコミよ、一和!」


「もう嫌だぁぁあ!この幼なじみ!!」


叫びながら、項垂れる俺に優香は言った。


「所で、一和。何の話してたんだっけ?」


「………」


もう駄目だコイツ。









と、まぁそんな事があって。


結局、10時にここに集合って話になったのだが。


「来ねぇ。」


遅い。時刻は10時30分。

肝心の優香と苺が来ねぇ。

遅れまいとあらかじめ、十五分前に俺は来ていたと言うのに、なぜ計画者が遅れるのか。

俺が那奈夜の家を出た時は、俺より先に二人とも家を先に出てたっぽかったが気のせいか。


というか、同じ家に住んでるんだから一緒に出れば良かっただろうに。

と思うが。

何か知らんが、優香曰く。

男と女が待ち合わせするのに、家を一緒に出るのは無粋ってもんでしょーが!

そいで、待ち合わせ場所は常識的に駅前って、決まってるのよ!

らしい。イミワカラン


「はぁ、」


ため息をつく。

あんだけ、俺に遅刻すんなと言っておいて何てルーズな連中なんだろう。


と、ため息をした瞬間だった。



「きゃっ、、、」


声がした。

と共に、ドシャ、という音。

目の前で、買い物袋を持った女の子が段差に足をとられ、転んだのだ。


地面に買い物袋の中身が散乱する。


「お、おい、大丈夫か?」


たまらず、俺は女の子に駆け寄った。


「痛たたた、」


女の子は足を押さえて、うずくまっていた。足をみると、スカートを履いていたらしく、足が出ている状態になっていて、膝の部分を擦りむいていた。膝から僅かに血が出ている。


俺は、地面に散乱した買い物袋の中身を拾い、元の袋に纏める。


「ほら、荷物集めたから。」


それを女の子の傍に置く。


「あ、ありがとうございます。」


女の子はそう言うと、足をおさえつつ、俺を見上げた。

ショートカットの女の子だった、しかもかなり可愛い。髪の毛は僅かに茶色、年齢は俺と同じくらいだろうか、高校生っぽい印象を受ける。



「足は大丈夫か?膝擦りむいた様だけど、」


「えぇ、大丈夫――痛っ、」


大丈夫じゃないっぽいな。

コンクリートで足を擦りむくと痛いんだよなぁ、まだ砂場の方がマシなくらいだ。まぁ俺にはわからない話だけど。


「ちょっと、待ってろよ。」


「え?」


俺は女の子にそう告げて、自分の鞄をごそごそ探る。そして、取り出したのは。


「救急パック〜」


てれって〜。という効果音。


「?」


ドラえもんのごとく道具を取り出す俺を、女の子は不思議な瞳で見ていた。

やめて、視線が痛い。


「これはな、洗浄液と消毒液と絆創膏が入っている携帯救急医療セットなんだよ。」

視聴者に説明をちゃんとする丁寧なわたし。


「此方来てもらえるか?」


「え?は、はい、」


道端の真ん中にいたら邪魔なので、女の子をモニュメントの横、つまり広場、道端の端に連れていく。


「ちょっと、傷口見せて。」


「何をするんですか?」


「まぁいいから。少し、しみるけど我慢してねー。」




三分後。



「これでよし。」


女の子の足に、絆創膏を三枚はって、俺はそう声を上げた。

洗浄液でごみを洗い流し、消毒液で雑菌を消滅、そして絆創膏でフィニッシュ。

己の用意周到さが怖くなるわ。


「どう?足まだ痛むかな。少しは和らいだと思うけど。」


女の子は俺の言葉に、座っている状態から立ち上がると、足を軽く動かせてみせる。


「あ、大丈夫です。微妙に痛みますけど、さっきほどじゃ、。」


「そうか、良かった。」


「しいて言うなら、少し恥ずかしかったですけど。」


「まぁね」


知らない男に治療。なんかエロい。


「とにかく色々してもらってすみません。何か、お礼が出来れば、」


「いや、いいよ。こっちが勝手にした事だから。」


絆創膏くらいで、お返しをもらうわけにはいかない。


「というか、救急医療セットを持ち歩いていて良かったとこれほど思った瞬間は無いな。」


「いつも持ち歩いているんですか?」


「うーん、まぁね。というか、昔、擦り傷だらけで家に帰った事があって、それが原因でバイ菌が入ったらしく、高熱出しちゃって死にかけた事があってさ、俺、熱が出てるのに気づかなくて、呼吸不全になっちゃってさ。それ以来、幼なじみに持っとけって渡されて。」


凄まじく説教されたのは良い記憶だ。

優香は俺が少しでも怪我をすると、泣きそうな顔をするからな。ちなみに過去な。

何だかんだ言いつつ、優香の言うことには逆らえなかった頃の記憶。


「熱が出てるのに、気付かなかったんですか?」


「まぁね。」


ぶっちゃけ、擦り傷に関しても熱に関しても、俺の場合気付けないんだけどねー。


「とにかく、少しの擦り傷でも気をつけましょう。って事よ。」


そう言って立ち上がる。

携帯を見ると、時刻は、10時40分。


「さて、俺は待ち合わせしてるから、これで。」


女の子に告げる。

女の子は買い物袋を持って立ち上がると笑みを浮かべた。


「はい。本当にありがとうございます。」


「おう、気にしないで。」


とても可愛い女の子だと改めて思う。

俺にもこんな彼女がいたらなぁ、と憂鬱な事も同時に思ってしまうがな。


「あ、そうだ最後に聞きたいんですけど。」


「何を?」


「待ち合わせしてるって言ってましたよね?」


「そうだね、幼なじみと妹を。」


「もしかして、」





「あの人達じゃないですか?」



え?



女の子が俺の背後を見て言った。

俺はその言葉に、?を浮かべつつ、後ろを振り向く。と。

俺の後方、駅前の柱に寄りかかる様に、苺と優香が立っていた。

しかもこちらを凝視している。


「あー、、あれだねぇ。どうして気づいてたの?」


冷や汗を流しながら、言葉を放つ。

この距離でも俺には見える、あの二人のジト目、というか俺を見る微妙な表情が。


「ずっと、此方を見てたんで、知り合いかなぁ。と。」


そうですか。

ずっと、見てたんですか。


「とにかく、幼なじみさんと妹さんと待ち合わせ出来て良かったですね。」


「良かった、のかな」


「では、私はこれで。本当にありがとうございました、黒崎一和さん。」


「うん、気をつけて」


そう言って、手を振りつつ駅に消えていく女の子を見届けて、


ん?

俺。あの子に名前教えたっけ?

と首をかしげ。

俺は微妙な表情をしている、苺と幼なじみの場所に向かった。





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