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鉱石オタク浪漫譚  作者: GESHI
第一章
8/17

7話

やっと話が進められると思ったのに・・・。

いや、進んでるんですがね?

「つまり、貴殿はたまたまあそこに通りかかり、エミール様をお助けした・・・と?」




エリオを尋問する男性騎士は、再度確認するように尋ねる。



筋骨隆々な体躯。獰猛な肉食獣の様でありながら、どこか気品を感じさせる顔立ちの騎士。


そんな彼――レイオール・フォルメルは、エミール率いる騎士隊の副隊長を勤めている。エミールが騎士になる以前から、数多くの戦場で武勲を立てた生粋の軍人だ。



「そうなんですよ~。いきなり倒れちゃったんで、とりあえず安全な所に運んだんですが・・・」


「追っ手が思ったより早く来たので、早急に合流しようとあの森まで戻ってきたか・・・」


「はい。まさか森まで来てるとは思いませんでしたけどね」


「そうか・・・。"エリオ殿"、隊長を救ってくれたこと、感謝する」


そう言って頭を垂れるレイオール。


まさか王国の騎士にそこまで丁寧な呼ばれ方をするとは思ってもみなかったエリオは、驚きを隠せない。



「おい、縄を解け」

「よ、よろしいのですか?」

「状況的に見て嘘ではなかろう。早くしろ」

「は、ハッ!」




命令された騎士が慌てて縄を斬る。

縛られて硬くなった身体を解しながら、エリオは彼に今後の事を尋ねる。




彼らは今、王都から馬で約十日程の距離にある平野に野営をしいている。

安全な道のりだ。

が、それは準備が万全の状態であればの話だ。



騎士隊約二百人の中には負傷者が少なからずおり、糧食も襲撃時に大多数を失ってしまってた。

今出発をするのはあきらかな自殺行為と言える。



何より、再度襲撃が無いとは言い切れない。



「以上の事から、この先にあるパルスの街で補給と、負傷者の手当の予定だ」


パルスとは、ここから約一日程度の所にある、比較的小さい街だ。

小さいとは言え、辺境などの街と比べれば十分な広さはある。

そこでなら負傷者の治療も糧食の補充も可能だろう。



「そこで補給と手当を済まし、エミール様の体調が戻り次第王都へ向かう事に――」

「心配は無用だ」



レイオールの言葉を遮り天幕に入ってくるエミールに、皆の視線が集中する。多少回復したとは言え、彼女の顔色は相変わらず優れない。



心配そうな視線が集中する中、彼女はエリオとレイオールの下へ歩み寄る。



「起きて大丈夫なのですか?」

レイオールの心配そうな声に苦笑しながら、エミールは答える。



「問題ない。レイオール、皆にも心配をかけた。私はこの通り大丈夫だ」

そう言った後、彼女はエリオに視線を向ける。


「貴様にも迷惑をかけたようだな。すまない」

「気にしないでいいよ」


相変わらずの"貴様"呼ばわりだが、エリオも気にしてはいない。

レイオールが特別物腰が柔らかいだけで、彼女の態度こそが普通なのだ。



そんな彼女は、補給が完了しだいすぐさま王都へ向かうと提案する。

その案を聞いたレイオールが、すぐさま異義を唱える。



「なりません!隊長に何かあれば、我らの任務は失敗なのですよ?ここで無理をさせる訳にはまいりません!!」


彼女の体調が悪いことなど、誰の目にも明らかだ。

なぜ彼女がそこまで焦るのか分からないエリオは、黙って二人のやり取りを見ている。


「私とて軍人だ・・・!自分の身くらい守れる!!」

「エリオ殿がいなければ、死んでいたかもしれないのにですか?」

「それは・・・!」



なおも食い下がろうとするエミールの肩を手で抑え、レイオールは静かに続ける。



「隊長の実力ならば、賊の相手など造作もないことでしょう。ですが今の状態では万が一があります。焦る気持ちは理解できますが、急いては事を仕損じます」


「・・・分かった」



まるで親子の様な二人の姿に、エリオは思わず笑みをこぼす。



「な、何を笑っている!」

「ごめんごめん。さて、無事合流も出来たし、俺も帰るかな」


そう言って立ち上がろうとしたエリオに、レイオールが待ったをかける



「エリオ殿に折り入って頼みがある。パルスまでの移動に、手を貸してはもらえないだろうか?」

「な、何を言っているのだレイオール?」



レイオールの言葉が理解出来ないエミール。

周りの騎士も理解が追いつかず、騒然としている。



「聞くところによると、彼は中々腕が立つとか。再度襲撃が無いと言い切れないうえに負傷者もいる現状では、戦力は少しでも多い方がいい。なにより、負傷者の移動の為にも、今は一人でも人手が欲しい状態です」

「し、しかし!エリオは軍人では無いのだぞ!民を戦わせるなど、騎士として恥ずべき行為だ!」


エミールの意見に、周囲も無言で同意を示している。

しかし、純粋に民を想う彼女と違い、彼らの瞳には怒りの色が浮かんでいる。

エミールを救ったとはいえ、所詮は民間人。

騎士である自分達と同列の様に扱われて良い気はしない。




「エミール様の言いたい事も分かります。ですが、今回の任務に失敗は許されません。今は任務を完遂する事を優先するべきです」

「し、しかし・・・」



レイオールの合理的な判断に、エミールは言葉を失う。

襲撃者が"ただの野盗"なら兎も角、奴らはそんな可愛いものではない。



罠を張る用意周到さや、統率された動き。

こちらの倍以上の戦力を用意するだけの組織力。

なによりエミール達は騎士だ。野党が襲うには過ぎた相手でしかない。



外交問題を抱えているこの時期に、"エミールを狙う"など、他国が関わっている事は容易に想像できる。



彼には命を助けてもらったうえに、仲間に合流させてもらった恩もある。

個人的にも、これ以上自分たちの事に彼を巻き込みたくはない。

なんとかしてレイオールの提案を蹴れないものかと、エミールが言葉を探していると・・・。



「俺は構わないよ」



エリオの言葉が、静かに響き、エミールや騎士たちの視線が集中する。



「な、何を言っている!これは騎士である我らの仕事だ!民を危険に晒すなど――」

「騎士の仕事が国や民を守ることなら、そんな騎士たちを支えるのが民の仕事じゃない?」

「そ、それは・・・」

「それに、ここまで関わったんだもの。最後まで付き合うよ」



エリオの意思が硬いと感じたエミールは、悔しげに唇を噛み、自分の気遣い

無碍にした彼を恨めしげな目で睨むが、エリオは何処吹く風だ。


「(それに、今帰るとじーちゃんのかみなりが落ちそうだし。ほとぼりが冷めるまで時間をつぶさないと)」


祖父の早く帰れと言う言いつけを守れなかった時点で、彼に帰ると言う選択肢はなくなっていた。


そんなエリオの内心を知らないレイオールは、安堵した表情をしている。



「かたじけない、エリオ殿。よし、すぐに移動の準備を――」

「お待ちください!」



レイオールが指示を出そうとしたところで、一人の若い騎士が止めに入る。

今までのやり取りを見ていた騎士のうちの一人だ。


歳は二十歳位だろうか。

スラッとした、それでいて力強さを感じさせる体躯をしており。

綺麗な金髪が眩しい端正な顔立ちの男性だ。


騎士は顔が良くないとなれないのか?などとエリオが場違いな想像をしているなか、レイオールは彼に問う。



「何の用だ?ニール」



レイオールの前に歩み出た男性騎士――ニール・ロットンは、エリオを一瞥し、レイオールに異議を唱える。


「副隊長。失礼ながら、彼が戦えるとは私には到底思えません」

「エリオ殿が嘘をついていると?」


レイオールがニールを睨む。


常人であれば竦んで動けなくなってしまいそうな程迫力に満ちた視線を、ニールは平然受け流している。



「そうは言いません。ですが騎士として、力も分からない相手に背中を任せるなど出来ません」



そう言って、エリオを見るニール。

他の騎士同様、強い怒りの色を宿しているその目で。



「つまり、エリオ殿の力が見たいと?」

「はい。是非、私に相手をさせていただきたいと思います」

「ふむ・・・。エリオ殿はいかがだろうか?」



芝居がかった所作で、エリオに問うレイオール。



「それで皆さんが納得してくれるなら」



エリオは、周りの騎士を見ながら答える。



「かたじけない。誰か、エリオ殿に剣を」

「ハッ!」





エリオと共に天幕を出るニール。

二人のやり取りを見ていたエミールは、終始無言だった。



その事が、ニールにとっては彼女からの声なき声援の様に感じられた。

エミールも自分も、騎士という選ばれた存在であり、しかも彼女は隊長だ。



隊長として任務を完うする責任があり、そこに私情は挟めない

彼女が表立って反対出来ないなら、それは自分の仕事だ。


こんな得体の知れない男に頼るなど、騎士への侮辱でしかない。この男を叩きのめし、それを証明してくれ。


彼女は、そう自分に願っているのだと、ニールは信じて疑わない。

妄想でしか無い発想だが、ニールにとってはそれこそが真実だった。






天幕から出た二人は距離をとる。

ニールは腰に挿している剣を抜き、エリオは騎士の一人から剣を渡される。



渡された剣の握り心地を確かめながら、ニールに向き直るエリオ。

気負いや恐怖を感じていないのか、表情は柔らかい。

対してニールは、エリオを睨み続けている。




「それではこれより、エリオ対ニールの試合を行う。相手の武器を打ち落とすか、寸止めまで追い詰めた方の勝ちだ」


二人から少し離れた所で、手を掲げたレイオールが宣言する。



ニールは正眼に構える。

エリオは両手をぶら下げ、構えらしい構えを取らない。

腰を少し落とし、左足を前に出すだけの構え。

その姿に、ニールの怒気が更に増す。





張り詰めた空気が、周囲を漂う。

周囲の騎士たちにも緊張が走る。


そして・・・。




「それでは、始め!!」


長女と次女を早く出したいので、それまでは頑張ります。(ゲス顔


※5/3 少し修正しました

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