6話
今回でやっと回想終了です。思ったより長くなっちまったZE・・・
「あ、おい!大丈夫か!?」
空に向かって叫んだエミールが、そのまま後ろに倒れこむ。
先ほどのエリオの戦いぶりや、エリオが鍛冶師だという事が、あまりにショックだったのだろう。
エリオは急いで彼女に駆け寄り、身体を抱き起こす。
「ふむ。中々厄介な連中に追われてるみたいだな」
エリオの祖父ガラドは、男達が逃げていった方を見ながら呟く。
「そんなに厄介かな?あっさり逃げちゃったけど・・・」
「実力の話じゃねーよ」
ガラドはやれやれと言った仕草で、木で出来た棒――パイプを咥えながら話す。
「実力じゃない?」
「武力だけが力じゃねーんだよ。なんにせよ、嬢ちゃん達も苦労してるみてーだな」
エリオはガラドの言ってることが分からないのか、首をかしげている。
そんな彼を尻目に、小屋へ向かいながら、ガラドは告げる。
「エリオ、嬢ちゃんを仲間のとこまで連れてってやれ」
「は?」
ガラドの言葉に驚くエリオ。
顔は見えないが、有無を言わさぬ雰囲気を纏っている。
「聞こえなかったか?嬢ちゃんを連れてけって言ってんだよ」
「いや・・・、突然どうしたんだ?じーちゃん」
ガラドの真意が理解出来ないエリオは、理由を尋ねる。
面倒事を嫌う祖父が、見ず知らずの人間の世話を焼くなど、明日は槍が降ってもおかしくない。そんな事を考えるエリオに、ガラドらしい理由を告げられる。
「さっきみたいな奴らがまた来たら面倒だろうが。嬢ちゃんも急いでたみたいだし、丁度いいだろう。遅くならずに帰れよ」
ガラドはぶっきらぼうに告げ、小屋へ入ってしまう。
「・・・俺の意思は?」
そんなモノが尊重されない事は、重々承知しているエリオだが、ため息をつかずにはいられなかった。
渋々エミールを背負い、歩き出す。
小屋のドア越しに、二人を見送るガラド。その表情は重く険しい。
「嵐の前触れ・・・か」
ガラドの呟きが、小屋に虚しく響く。
「仲間って、いったい何処にいるんだよ・・・」
エリオは一人愚痴る。
歩き出したは良いものの、エミールの仲間が何処にいるのか。
「来た道を辿るしかないか~・・・」
エリオは、彼女と出会った森から、彼女が通ったであろう痕跡を辿ることにした。
追っ手と遭遇する危険性はあるが、他に確実な方法もない。
小屋から少し離れた林を歩き、追っ手がいない事を確かめながら、慎重に進む。
エリオたちが通った坑道へ行くには遠回りになるが、彼女を背負ったまま敵と遭遇するのは厳しい。
危険なのは、なにも追っ手だけではない。
数は多く無いが、魔物も生息している。魔物は知性がなく、独自の生態系を持つ。強靭な四肢や牙で、他の種族を捕食すると言う、人間の天敵と言うべき存在であり、一部では、魔族の下僕などと言われている。
魔族は、魔物との共存を選択した特殊な種族であり、魔族の住む大陸には、他の大陸とは比較にならないほどの魔物が生息している。
その光景が、人間などから見れば「魔物を従えている」と見えるため、こう言った風潮が流れたのだ。
林を歩き、坑道の入口に辿りつく。
どうやら、追っ手も魔物も居ないようだ。
エミールを背負い直し、坑道へ入っていく。女性とはいえ、鎧を着ている人間を背負っているにも関わらず、エリオは息一つ乱していない。
カンテラに火を灯し、坑道の中を進む。
坑道内は、時折吹く風の音以外なにも聞こえてこない。
追っ手がもう居ないのか、はたまた穴を見つけていないのか・・・。
「(ここじゃ満足に動けないし、居ないことを祈ろう)」
途中途中で偵察を行いながら進むエリオ。出口付近まで来ても、敵の気配はしない。約1時間かけて、出口を抜ける。
追っ手がいないことに拍子抜けしつつ、何も無かったことに安堵する。
しかしそこで、エリオの警戒網に何かが引っかかる。
「(魔物?・・・いや、人間か。人数は・・・十五人ってところか?)」
目視出来る距離に、人影は見当たらない。
しかし、微かな足音が聞こえる。
聞き耳を立てていなければ聞き逃してしまうほどの、とても小さな音だ。
「(さっきの奴らよりも出来るな・・・。ここで迎え撃つか?)」
恐らく、相手も自分に気づいているだろう。そう判断したエリオは、退却ではなく迎撃を選択する。
狭い坑道では身動きがとりずらい。エミールを背負ってるいる以上、逃げ切るのは困難だろう。
当然不意打ちや、遠距離攻撃を仕掛けてくるだろうと推察していたエリオだったが、相手の意外な行動に目を丸くする。
なんと、隠れていた者達がゾロゾロと出てくるではないか。
出てきたのは全部で十人。エリオの予想より少ないが、森の中から相変わらず気配を感じる。恐らくエリオ達が逃げた時や、不意打ちなどを警戒したのだろう。
出てきた十人は、全員がエミールと同じ銀の兜と鎧を着ているところを見ると、恐らくエミールの騎士仲間だろう。
関節部を除き、頭からつま先までを銀の鎧で包む姿は、どこか壮厳な雰囲気が漂っている。
「動くな。動けば、命は無いぞ」
一人が、エリオに剣を向けながら問う。
顔は見えないが、恐らく男だろう。渋みのある良い声をしており、厳しい顔を想像せずにはいられない。
男に続いて、騎士たちも剣に手をかける。
「ハインツベルの騎士の方達ですよね?いや~助かりまし――」
「黙れ!貴様に質問する権利はない。こちらの問いにだけ答えろ」
エリオの言葉を遮り、そう告げる。
その声音には、厳しさと僅かな焦りを感じる。
どこかで聞いたような台詞だな。と、苦笑しながら素直に頷くエリオ。
「貴様、何故こんな所にいる?その背負っているのは――」
なんだ?と言おうとしたところで、男の言葉が途切れる。
エリオの背負っているモノが、自分たちと同じ騎士だと初めて気づいたようだ。それが彼らの探していた相手だけに、驚きを隠せない。
「き、貴様!!その御方に何をした!?」
目に見えて狼狽える騎士たちに、エリオはやんわりとした口調で続けようとしたが・・・。
「この娘、あなた方の仲間の騎士ですよね?丁度送り届けようと思っていたところで・・・」
今度は、エリオの言葉が途切れる。
その視線は、剣を向ける男の腰にささる、もう一本の剣に注がれている。
「そ、それは!?」
エリオは驚愕に目を見開き、思わず手の力を抜いてしまう。
背負っていたエミールがずり落ち、地面に倒れる。
「き、貴様!!動くなと言っているのが――」
「その剣って、もしかして"クライト"じゃないですか!?」
「なっ!?」
エミールを落とした事など露ほども気にしないエリオは、目にも止まらぬ速さで男に詰め寄る。
エリオの素早さと剣幕に押され、男は一瞬身動きが取れなかった。
そんな男を気にせず、エリオはまくし立てる。
「クライトって言えば、"帝国"の東にあるホージュ山でしか取れない非常に珍しい鉱石を使った剣じゃないですか!!加工が非常に難しく年間数本しか作ることが出来ない為に偽物まで出回る程希少価値が高く持ち主は僅かしかいないと言われるこの剣をいったいどこで手に入れたんですか!?ちょっとでいいんで見せてください触らせてくださいお願いします!!」
エリオの必死の形相に、騎士達が後ずさりする。
"クライト"と呼ばれる剣を持つ男は、面で見えない顔を引きつらせながら、他の騎士に指示を飛ばす。
「お、お前ら!!早くこいつを捉えろ!!」
騎士数人に囲まれたエリオは、はたと我に返り、周囲を見渡す。
周囲を隙間なく騎士に囲まれ、武器を突きつけられている。もはや逃げる事は不可能だろう。
自分の"悪癖"が出てしまった事をようやく理解するエリオ。
「や・・・、やっちゃった・・・。」
文字通りお縄を頂戴するエリオと、相変わらず気絶しているエミールを連れ、騎士たちは天幕へ向け歩き出す。
次回は天幕からスタートです。長女と次女の出番はあるのか!?