5話
エリオ君の回想はいつまで続くのか。それは作者にも分かりません(ゲス顔
「すごい・・・」
エミールの目の前で行われた攻防に、心奪われていた。
振り下ろされた斧を紙一重で避け、相手の両目を奪い、喉を一突き。
相手の動揺を見逃さず、人体の脆い部分を的確に切りつける。その動きは、並の経験では培うことが出来ない、歴戦の戦士のそれだった。
「で?どうすんの?諦めて帰ってくれは・・・しないよね」
ハァ、とため息を着くエリオ。
絶命し、倒れふした男を見た他の男たちは、エリオに対する認識を改める。
一人で立ち向かってどうにかなる相手ではない。そう考えた男たちは、一様に武器を構え直す。
先程まであった慢心や油断は、もう無い。代わりにあるのは"恐怖"。
「っ!怯むな!!同時にかかるんだ!!」
一人の男が叫ぶと、エリオの左と右前方にいる男が、同時に斬りかかる為に走り出す。
これがタダの兵士ならば、対処に迷い、あっさり斬られた事だろう。
たとえそれが騎士だろうと、焦りから何かしらのミスを犯してもおかしくない。
しかしエリオは冷静だ。
左側面から走ってくる男との間合いを一気につめ、相手の鎧の隙間を狙ってナイフを突き立てる。
痛みに怯んだ男の足をはらい、仰向けに倒す。
振り上げた足を男の顔に打ち下ろし、顔面を踏み砕く。
もう一方から襲いかかる男の突きを、振り向きながら躱し、ナイフの柄で顎をかち上げる。
その男を盾代わりに使い、別方向から迫る振り下ろしを防ぐ。
そのまま盾を敵に突き飛ばし、相手のよろめかせながら、素早く地面に落ちている剣を拾い上げ、男二人を同時に突き刺す。
そんなエリオを、左右から同時に、大鉈と剣を持った男が迫る。
そんな中、エリオは目を閉じる。
戦いの最中に目をつむるなど、殺してくださいと言っているような物だ。
エリオの突然の行動に、勝利を確信した二人の男。
突如、眩い閃光が周囲を包む
光の発生源は、エリオの両手に握られた二つの石
光に目を焼かれた男二人は、訳も分からぬまま、共に喉を切り裂かれ、その場に倒れる。
男達とエミールの視力が戻った時には、悠然立ち尽くすエリオの姿が。
エミールは、その光景から目が離せない。
エリオの戦い方は、とても正々堂々などと言えるものではない。
が・・・。
「(綺麗・・・)」
そんな場違いな事を考えてしまう。
男たちの血が宙を舞う中、まるで川の流れの様に動くエリオ。
一体どんな修練を積めば、そんな動きが出来るのか。
自身の"姉"も、見る者を魅了する様な戦いをするが、エリオのモノとはまったく違う。
襲いかかる敵を真正面から受け止め、なぎ払う。
強力な力によって、瞬時に敵を殲滅するその強さは、自身の強さを誇示する装飾的な強さだ。
対してエリオは、あらゆる無駄を無くし、相手の命を刈り取るためのみの動き。それは、強烈なまでに生に執着する様な泥臭い強さ。
派手さも力強さも無い、機能美とも言える動き。
まさに「対」と言える戦い方だ。
「さ~て。いい加減、諦めて帰ってくれないかな?」
エリオの声に、男達は気圧される。
「ひっ!」
「う、うわああぁぁ!!」
「お、おい!まて!!」
一人、二人と、その場から逃げ始める。
先ほど命令をしていた男は、逃げる仲間を止められず、一人取り残された。
「で?あんたはどうする?」
エリオは取り残された男に問う。
大男があっさり殺された時点で、勝敗は決していた。
しかし、男達もむざむざ逃げ帰るわけにはいかない。
これは"命令"なのだ。
逃げてきたなどと報告すれば、どうなるか分からない。
「う、うわああああああ!」
後退が許されない以上、目の前の男を切る以外道はない。
自棄になった男は、エリオ目掛けて突っ込む。
そんな精神状態では、結果は言うまでも無いだろう。
「ぅがっ!?」
エリオが投擲した果物ナイフが、男の喉を貫く。
よろよろと後ずさった男は、そのまま後ろに倒れ、動かなくなった。
「・・・」
エミールは声も出ない。
何しろエリオはこの戦いを、ほぼ果物ナイフだけで乗り切ったのだ。
尋常ではない。
「おう、客は帰ったみたいだな」
小屋のドアが開き、老人が出てくる。
「ったく、ああいう客ばっかり俺に任せるんだから・・・」
「そうボヤくな。若い頃の苦労は買ってでもする方がいいんだよ」
先ほどの空気が夢か幻だったかの様な会話に、やっと思考がおいつくエミール。
「お、おい!貴様は・・・、貴様らは一体何者なんだ!?」
エリオと老人がエミールを見る。
「あぁ、そういえば爺ちゃんの紹介をしてなかったね。こちら、俺のじいちゃんで――」
「ガラドだ。よろしくな?嬢ちゃん」
腰に手お当てて、大仰に名乗るガラド。
「名前などどうでもいい!!貴様らは何者なのかと聞いているんだ!!」
「何者と言われても・・・。しがない鍛冶師だけど?」
「か、かじ・・・し?」
「そ!俺もじいちゃんも鍛冶師なんだ」
「お前は"半人前"だけどな!」
「ちょっ!?じいちゃんひでーよ!!」
「事実じゃねえか!」
エミールは頭を抱え俯いている。
次第にワナワナと震えだす。
表情は見えないが、もう間も無く爆発するだろう。そんな空気が漂う。
そして・・・。
「うそだあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
雲一つない青空に、エミールの絶叫が響く。
戦闘シーンを書くのって、本当に難しいですね。ド〇クエみたいに、~した!みたいな文の羅列になってしまいそうで怖いです。