4話
今回は前回より更にあっさり終わってしまった・・・。
「全部で十人ぐらいかな?」
エリオがなんでも無いように言う。
エリオと老人は、この小屋に誰か向かっている事を察した。
エミールには、足音は聞こえるが、人数までは分からない。
そんなエミールを尻目に、二人は続ける。
「ふむ。目的は恐らくこいつだろうな」
老人はベッドにいるエミールへ視線を向けながら、エリオに返答する。
「昨日のやつらかな?」
エリオが先日見た死体。あの男達の仲間では?と、そんな考えが頭をよぎる。
「な、なぜ奴らが来る!?」
エリオは、エミールをここに連れてくる間、誰とも会っていない。
もし誰かに監視されていたとしたら、来るのが遅すぎる。
「多分、足跡だと思う。穴を探索しながらだったから、時間がかかったのかな?・・・にしても、足跡が分かりにくい様に歩いて来たんだけどなぁ」
エリオの呑気な言葉に、エミールの表情は険しくなる。
「なにを呑気な事を!!おい!私の剣を今すぐ返せ!!」
「無理だ。刃こぼれがひどい上に、魔術の酷使のせいで使い物にならん」
老人は表情を変えず、エミールに言い放つ。
エミールには、二人がどうしてこんなに落ち着いていられるのか、理解出来なかった。戦えそうな人間は自分しかいない、しかも武器が無い。
「く・・・!」
エミールは俯き、両手を握り締め、肩を震わせている。
剣を壊してしまったのは他でもない、自分自身だ。
もっと基礎を大切にしていれば。もっとちゃんと手入れをしていれば。
そんな後悔に、エミールは押しつぶされそうになる。
「・・・世話になった」
敵はもうすぐやって来る。ここにいれば、二人もタダではすまない。
恐らく奴らは、目撃者を生かしてなどおかないだろう。
自分が囮になって逃げれば、二人は助かる可能性が高い。
横柄な態度をとり続けたエミールだが、兵士でもない二人を死なせるのは、自身のプライドが許さない。
自分は騎士だ。
無関係な人間を巻き込み、死なせる事など出来ない。
それが自分を助けてくれた人達なら尚更だ。
例え死ぬとしても、せめて最後くらいは、騎士として死のう。
そう決意し、小屋を出ようとしたエミールだったが、不意に肩を掴まれる。
「"客"の横取りはダメだよ?」
エリオは、笑顔でそう言う。
エミールは一瞬、何を言われたのか理解出来なかったが、すぐに反論する。
「何が"客"だ!私がここにいれば、お前たちだって殺されるんだぞ!」
エミールの言うことはもっともだ。騎士でもない青年と老人など、何も出来ずに殺されてしまうのがオチだ。
それならば、せめて二人を死なせない為に、自ら囮となろう。その決意を、助ける者に汚されれば、怒りもするだろう。
だが、エリオはまるで柳の様に、エミールの怒りを受け流す。
「あれぐらいの奴らなら、大丈夫だよ」
涼しげに言うエリオは、老人の方へ振り向く。
いつの間に取り出したのか、老人の手には一本の"果物ナイフ"が握られていた。
明らかに場違いなそのナイフに、エミールは更に激昂する。
そんなナイフがなんの役に立つというのか!ひどい悪戯をされたような気になるエミール。
そんなエミールを無視して、老人からナイフを受け取ったエリオは、小屋から出て行く。
慌てて彼をおい、エミールも小屋をでる。
小屋の外には、エリオが言ったとおり、10人の男たちが居た。
小屋の入口を囲むように立ち並ぶ男達は、エミールの姿を捉え、満足げに笑みを浮かべる。
先に出てきたエリオを見た一人の男が、一歩前へ歩み出る。
丁度、エリオ達の真正面に立つその男は、身の丈二メートルはあろうかと言うほどの大男で、手には巨大な斧が握られている。
筋骨隆々と言って差し支えない体格をしている。
鎧は軽装で、胴体を守る革の鎧と、同じく革で出来た篭手とブーツを履いている。
「お、おい。そ、そそ、そこのおまえ。うし、うしろのおんだを、よよ、よこせ」
女と言いたかったのだろうか。大男はエミールを指さし、エリオに告げる。どもりながら話す大男は、顔に醜悪な笑みを浮かべている。
「おんだ?そんなのどこにも居ないけど?」
わざとらしく、キョロキョロと周囲を見渡すエリオ。
二メートルもの大男に対して、全く怯んでいない事に対して、他の男たちは、エリオの正気を疑った。
それはエミールも同じであり、声も出ない。
「な、なめた、たた、たいどとりやがって!ぶ、ぶちころしてやる!」
見た目に似合わぬ速さで、大男はエリオに向かい走り出す。
手に持った大斧を振りかぶり、エリオを真っ二つにするべく振り下ろす。
周りの男達も、後ろに居たエミールも、エリオの死を疑わなかった。
「おぉ。結構速いんだな!」
地面に突き刺さる斧の真横にに立つエリオが、賞賛の声を上げる。本人はいたって普通そうにしているが、周りで見ていた者は、唖然として声もでない。
エミールにも、訳がわからなかった。
それは結果にではなく、過程についてだ。
まるで最初から、振り下ろされる斧をどうやって躱すか決められていたかの様に、淀みのない、最小限の動きだけで、エリオは避けたのだ。
斧を振り下ろした大男も訳が分からないのか、呆然としている。
その隙を逃さず、地面に刺さる大斧に飛び乗ったエリオは、斧を踏み台に跳躍し、男の両目を一閃する。
「ぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
両目を斬られた男は、絶叫しながら両目を押さえる。
男の両手の隙間からは血が溢れ出ており、傷の深さを周りに知らしめる。
両膝を着いた男の首に、エリオのナイフが深々と突き刺さり、一気に引き抜かれる。
大男は、声にならない悲鳴を上げ、その場に倒れこむ。
身動き一つ取らないその姿に、周囲はやっと気がつく。
男は絶命したのだと。
エミールは、我が目を疑った。
目の前の光景が信じられない。まるで、三文芝居を見せられているかの様な、現実感のなさ。
それはエリオの持つ、なんの変哲もない果物ナイフによって、更に増幅されている。刃渡り十五センチ程度のナイフで、大斧を持つ二メートル近い男を絶命させるなど、普通なら有り得ない。
半ば現実逃避をしている周囲を他所に。エリオは、静かに、しかしハッキリ聞こえる声で、問いかける。
「さて、追加の注文はいかがかな?"お客さん"」
書いていて、つくづくセリフのセンスが無いなと思う今日この頃です。
洋画とかを見て研究しようかしら。