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鉱石オタク浪漫譚  作者: GESHI
第一章
4/17

3話

回想シーンはまだまだ続きます。

「・・・ここ、は」


目を開くと、見覚えのない天井が見える。


エミールは、見知らぬ小屋の中にいた。

建てられてからどれくらいたっているのか、小屋のいたるところが板で補強されている。


「起きたようだな」


体の熱さを感じながら、声のする方を向く。



そこには、顔を(すす)で汚した、一人の老人が床に座っていた。

口には、煙が出るを木で出来た何かを咥え、手には鉱石が握られている。

鉱石には見覚えがある。たしか、エリオが袋から取り出して見せた、光る鉱石だ。


若い頃はさぞモテただろう端正な顔立ちの老人は、よれよれのシャツにエプロン、硬そうなズボンを履いている。ズボンは少し大きいのか、両肩にかかった紐をズボンに結んで支えている。

老人にしては引き締まった身体をしており、鎧を着れば騎士に見えそうな程逞しい。


そんな老人をみて、意識がハッキリしたエミールは、すぐさま腰の剣に手を伸ばすが、そこには何も無い。


「私の剣をどこへ・・・っ!」

「無理すんな。魔力切れ一歩手前だったんだぞ」


急に動こうとして、身体がふらつくエミール

老人は彼女を見ずに「寝ていろ」言う。エリオと言い、この老人といい、エミールの殺気を全く意に介さない。騎士として訓練を受けてきたエミールが、自信を無くしそうなほどだ。



「じっちゃ~ん!飯でき・・・お!やっと起きたか!」



小屋のドアを開けて入ってきたのはエリオだ。

手には湯気がのぼる器を二つ持っている。



「食欲はあるか?あるなら食べた方がいいぞ」


エリオは器の一つを老人に渡し、もう一つをエミールに差し出す。

中身は刻んだ野菜と一口サイズの肉が入ったスープだった。疲れているせいか、そのスープがとても美味しそうに見えるが・・・。


「・・・私は急いで王都に戻らねばならない、そんな物を食べている暇は――」


瞬間、エミールのお腹が鳴る。

よっぽど恥ずかしかったのか、俯いたまま微かに震えている。

そんなエミールに、黙ってスープを差し出すエリオ。


「急いで帰らなきゃいけないなら、尚更食べなきゃダメだ」


まるで小さい子を叱りつける親の様なエリオをひと睨みして、スープを受け取る。顔が赤いせいで、睨んでも怖くない。

育ちの良さを滲ませる、上品な所作でスープを飲むエミール。

体力も魔力も底を尽きかけ、熱っぽい体にスープが染み渡る。


「美味いか?おかわりもあるから、遠慮しないで食べるんだぞ?」

「・・・」


まるで妹か子供にでも接する様なエリオに対して、エミールは何も言わずに食べ続ける。スープは確かに美味しい。が、それは「体力の低下のせいだ。」「こんな質素な料理が美味しい訳が無い。」そんな風に、意地を張りながら完食する。



エリオに皿を突きつけ「おかわり」と、小さな声で催促する。

頷きながら皿を受け取り、エリオは小屋を後にする。



「お前さんの剣、ありゃ~もうだめだ。」

唐突に、座っていた老人がエミールに告げる。

隣には空になった皿が置かれており、再度、煙が出る物を咥え、時折口から煙を吐いている。



彼女は老人の言葉に、一度大きく目を見開き、直様睨みつける。

「どういう事だ!!貴様、私の剣に何をした!?」

「俺はなぁ~んもしちゃいねぇよ。お前さんの扱いが雑なのか、作った奴が2流なのか、どっちかだ。」


そんな言葉を聞いた彼女は、音が聞こえそうなほど強く歯噛みしながら、老人を睨み続ける。




自分は騎士だ。並の兵士や同僚の騎士とは比ぶべくもない程に、厳しい訓練を積んできたと言う自負がある。


体格や筋力で男性に劣る女性が、軍の中で認められるのは並大抵の事ではない。彼女が周囲に認められるには、実力を示す他なかった。


訓練では、数多くの男たちを打倒し積み重ねた、勝利(・・)という実績があり、現に彼女は、自分を襲ってきた奴らを、何人も返り討ちにしている。




そして彼女の持つ剣。

あの剣は、騎士にのみ授与される特別な剣だ。


そこらにある数うち物とは訳が違う。国お抱えの鍛冶師の中でも、トップクラスの鍛冶師が鍛え上げた物だ。


そんな自分と剣を捕まえて2流などと、エミールからすれば屈辱以外の何物でもない。


「貴様の様な老いぼれに何が分かる!!」

「分かるさ。お前さん、殺し(・・)は何回目だ?」

「っ!?」


老人に問われたエミールは、言葉に詰まる。

人を殺したのは今回が初めてではない。が、精々片手で数えられる程度だ。




「人間の体って~のはな、お前さんが思ってるよりも遥かに頑丈だ。骨は言わずもがな。鍛え上げた戦士なら、肉だけで剣を止める奴だっている」


老人はエミールを見ずに語る。まるで、彼女がどんな顔をしているか分かっているかの様に。




「そんな人間を切れば、剣だってタダじゃすまない。血で錆びるし、刃こぼれもする。鎧の上から切れば尚更・・・な」


エミールは何も言えずに、老人の話を聞いている。

老人に言われている事は、武器を扱うものなら誰でも知っている。


そしてそれは、どんな武器であろうと変わらない。

いかに優秀な鍛冶師が作った剣であろうと、使い手が二流では長くは持たない。



それはつまり、武器が長持ちする事こそ、一流の証と言える。

一流はそういった戦い方を心得ているし、武器の手入れも欠かさない。




「武器をダメにする奴には色んなのがいる。腕が悪い奴、手入れを怠る奴、魔術を撃ちまくる奴・・・そして、経験の浅い(・・・・・)奴だ」

「・・・」

「お前さんは、人を斬った経験が少ない。人を斬るって~のは、自分も斬られる可能性があるって事だからな。そんな状況じゃ、まず、太刀筋が乱れる」



太刀筋の乱れは相手の防御を生み、焦りや恐怖へ繋がる。

そして更なる太刀筋の乱れを呼び、悪循環へと落ちていく。



「経験が浅くても、太刀筋が乱れないやつもいるがな。そんな奴ほど・・・基礎を疎かにしないもんさ」


言い切ってから、老人は煙を吹く。


エミールは、何も言えない自分が悔しかった。

いつからだろう。日課の素振りをしなくなったのは。

騎士になる前は、それこそ毎日繰り返した。目標に追いつくために。目標を追い越すために。


騎士になって、追いついた気になっていたのだろうか?

多くのライバルを打ち倒したことで、天狗になっていたのだろうか?

勝利を重ねたと言っても、それは所詮訓練(・・)での話だ。

怪我をする事はあっても、死ぬことはない。

そんな日常が、自分を弱くしていった事に今更気づかされたエミールは、何も言えずに俯いたままだった。



「じーちゃん。あんまり虐めてやるなよ。まだ体調も良くないんだからさ」


戻ってきたエリオが、老人を諌める。

スープを取りに行ったにしては時間がかかったのは、外で話を聞いていたからだろう。


「ふんっ!礼儀を弁えないこの餓鬼が悪いんだ」

まるで子供の様な物言いをする老人に、エリオはため息をつく。


「いい年して何言ってんのさ・・・。またばーちゃんに怒られるよ?」

「お、おい!言いつける気か!?卑怯だぞ!」

「自業自得でしょうが・・・」


ジト目で老人を見るエリオ。

老人の方はと言えば「ぐぬぬ・・・」と呻いてる。

こんな子供みたいな老人に、自分の愚かさを教えられたのか・・・と、エミールは更に落ち込んだ。




そんな時だった。

老人とエリオは今までのやり取りを止め、一瞬で真剣な顔になる。

訳が分からない。と言う顔をするエミールだったが、何やら人間の足音らしき物が聞こえる。それは徐々に大きくなり、いつしか、ハッキリと聞き取れるほどにまでなっていた。






「ふむ・・・。どうやら"客"のようだな。」


老人は静かに口を開く。

上手く話を持っていくのはほんとに難しい!

キャラのセリフはもっと難しい!!

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