2話
以前投稿した2話は諸事情により削除いたしました。
もうしわけないっす!
「どうして・・・、こんな事に?」
青年は天幕の中の柱に縛られていた。
ボサボサの髪に、土で汚れた顔や衣服。
近くにはボロボロな袋が置いてあり、鉱石が数個落ちている。
「じっちゃん、怒ってるんだろうなぁ・・・」
青年をため息をついて項垂れる。
家を出る時は、こんな事になるなんて思いもしなかった。
「俺の名前はエリオ。君は?」
青年――エリオは目の前の年下らしき女性に尋ねる。
女性は15,6歳位だろうか。
胸は慎ましいものの、腰は程よく引き締まっており、無駄な肉がない程に鍛えられている。
女性の鎧は土や埃で汚れていて、元の輝きを失っている。
頭の後ろで黒髪をまとめており、黒い双眸はエリオを軽く睨んでいる。
警戒しているのか、いつでも斬りかかれるように、柄に手をかけたままだ。
「私は、エミール。ハインツベルの騎士だ」
エミールは騎士の部分を強調する。
言外に「妙な真似をすれば斬りすてる」と、エリオを威圧する。
「その鎧を見ればわかるよ」
エミールが着ている鎧は、一般の王国兵の鎧より上等なものだ。
そんな鎧を着るのは王国の騎士か将軍くらいだろう。
エリオは苦笑しながら、敵意がないことを告げる。
エミールの殺気を気にしていないのか、彼女から視線を外し、周りの死体を見渡す。
「これは君一人で――」
「貴様の質問に答えるつもりはない。こちらの質問にだけ答えてもらうぞ」
有無を言わさぬ強い語調でエリオの言葉を遮り、問いかける。
「まず、貴様はここで何をしていた?」
地面から出てくるなんて、いくらなんでも奇抜すぎる登場の仕方だ。
他国の斥候か何かか?と、エミールが深読みしても仕方ないことだろう。
「じっちゃんに頼まれて、この辺で取れる鉱石を取りに来たんだよ」
ほら。と、エリオが持っていた袋から鉱石を取り出してみせる。
エミールの高圧的な態度を気にしていないのか、普通に受け答えしている。
なんでも、このあたりで取れる鉱石は、一定の衝撃を与えると一瞬だけ光るそうだ。エリオの祖父はそれを研究するためにお使いを頼んだようだ。
「そうか。次に、貴様は地面から出てきたが、穴はどこまで続いているんだ?」
「この崖の向こう側の街道あたりだよ」
「・・・そう、じゃあそこまで案内しなさい」
エミールは、さも当然と行った感じで命じる。
「いいよ~、ついて来て」
相変わらず、エミールの殺気を意に介さないエリオは、そそくさと穴へ入っていく。エミールがその後に続く。
前を歩くエリオは、慣れた手つきでカンテラに火をつけ、先へ進んでいく。
エリオに剣の切っ先を向けながら、エミールは2,3歩後ろを歩く。
狭い坑道では剣を振り回せないので、すぐ対応するにはこういった形を取る必要があるからだ。
「足元が不安定だから、転ばない様に気をつけてね?」
「騎士を愚弄する気か!!いいから黙って――ひゃっ!」
エミールは素っ頓狂な声を上げて尻餅をついてしまう。
降りる形の段差で足を滑らせてしまったようだ。
「大丈夫?」
エリオは手を差し出すが・・・。
「ぅぅ、うるさい!!さっさと進め!!」
顔を真っ赤にしながら切っ先を向けてきたので、手を引っ込める。
エミールが立ち上がったのを確認してから、二人は坑道を黙って進む。
途中、何箇所か横穴などがあり、まるで迷路の様だ。
エリオは歩き慣れているからか、危うげなく坑道を進むが、エミールは何度か転倒しそうになっている。
先ほどまでの戦闘で失われた体力や魔力の影響なのか、足取りは重い。
額にはうっすらと汗をかき、肩で息をしている。
途中、何度かエリオが休憩を促すが、エミールは必要ないと吐き捨てる。
一時間程歩いたところで坑道を抜ける。
エミールを気遣いながら歩いたためか、予定より時間がかかった。
エリオの言葉通り、坑道の出口は、街道から少し離れた崖の下だった。
街道を東に歩けば、半日ほどで「エルラン領」につく。
「お疲れ様。このまま街道を東へ行けば、エルラン領にたどり着けるよ」
そう言った瞬間、背後から何かを地面に落とした音が聞こえる。
エリオが振り向くと、エミールは剣を落とし、地面に跪いてしまっていた。
息が荒く、顔色も悪い。
エリオはすぐさま駆け寄り、額に手を当てる。
「・・・熱がひどい。魔力が尽きかけてるのか」
魔力とは全ての生物が宿している精神力であり、これが尽きる事は死を意味する。
エミールは魔力が減ってきた事による衰弱が激しい。このまま放っておけば、一日と持たずに死に至るだろう。
「仕方ない・・・か」
エリオはエミールを背負い、エルラン領の反対方向へ歩いていく。
魔術等の説明はまた別の機会にします。