プロローグ
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王国歴527年
王都「ハインツベル」では、とある問題が浮上していた。
隣国「ガルザ」との外交問題である。
「ハインツベル」の国王「エルヴァルド・ヴァン・ハインツベル」は、会議室に集まる側近たちの意見を黙って聞いていた。
「陛下、もう一刻の猶予もありません」
「左様。このままでは、ガルザとの争いは避けられません。今すぐ戦の準備を」
「すぐに将軍を呼び戻し、隊の編成と軍議を行うべきです!」
側近たちの発言も虚しく、国王は首を左右に振るだけだった。
「陛下!もう外交で済ませるのは不可能でございます!」
「その通りでございます!ガルザは今頃、軍備を着々と済ませているのですぞ!」
「このままでは、ただ黙って首を差し出すようなもの!何卒、ご命令を!!」
しかし、国王の答えは変わらなかった。
「ならん。引き続き、ガルザとの和平交渉を続ける。会議は以上だ。」
そう言って、国王は席を立ち、会議室から出て行く。
「くそっ!、陛下は何を考えているんだ・・・」
「もう和平など不可能だというのに!」
「全くだ、国がどうなってもいいのか!?」
「落ち着かれよ。我々だけではどうにも出来ぬ。今は命令通りに動くしかあるまい」
会議室に残された側近達は無言になり、会議室をあとにする
各々が持ち場へ向かう中、二人の人物だけが、歩きながら話を続けていた。
一人は腹が出ており、豪華な装飾を施した衣服を押し上げるように、無駄な肉が所狭しと詰まっている
だらしない体型をしていた。
もう一人の男は対照的で、線が細く、やせた体躯は、如何にも不健康そうな印象を受ける。
「・・・我々の行動を起こす時が来たな」
だらしのない体躯の男性が、並んで歩く線の細い男性に告げる
告げられた男性は口端をいやらしくつり上げながら答える。
「えぇ、前国王も馬鹿なことをしたものです。あのような男を国王にするなど。」
下卑た笑みを浮かべた男は、それをすぐに崩し、厳しい表情を浮かべる
「しかし、問題はあの小娘ですな」
「あぁ。やつは鋭い。下手な真似をすればすぐに感づくだろう。」
「流石は『戦姫』と言ったところでしょうか・・・」
男は悔しそうな表情を浮かべながら返答するが、もうひとりの男は気にせず続ける
「ふっ、戦姫とは言っても、やつはたかが18の小娘だ。やり様は幾らでもある。」
まるで蛇の様な狡猾な笑みを浮かべ、気にするなと切って捨てる
「準備は整っているのだろうな?」
「はっ、全て滞り無く。」
「ならば問題ない。せいぜい気づかれぬようにしろよ?」
「承知しております。それでは」
線の細い男は踵を返し、去っていく。
だらしない体型の男は、彼が去っていくの感じながら一人、感慨にふける
「(ついにこの時が来たか・・・あの男には感謝せねばなんな)」
この国「ハインツベル」では、地方を治める貴族と
王都周辺の町を治める貴族などの2種類に分類される。
この男――ルイス・ボン・グラムスは、もとは地方を治める貴族だった。
しかし、地方を治める程度では満足出来なかったこの男は、生来の狡猾さを活かし、賄賂や謀略を駆使し続け、侯爵の位まで上り詰めた。
出世欲と金銭欲が尽きないこの男は、いつしか侯爵の地位では満足出来ずにいた。
そんな彼の前に先日、見慣れない男がやって来た。
フードで顔を隠していたが、異様な空気を纏っていることはすぐに分かった。
「(奴が何者かは分からんが・・・せいぜい利用させてもらうとしよう)」
グラムスは一人狡猾な笑みを浮かべ廊下を進んでいく。