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01.いらっしゃい迷い人

 ――世界に生きるのは植物や動物だけだ、そう思ってる人もいるだろう……というかそんな人しかいないだろう。まあ言わせてもらおう、それはただの勘違いだ――と。


 「こうして僕みたいな存在もいるわけだし――ねぇ、空牙(くうが)?」


 周りには誰も居ない。空に浮かぶ大きな満月へ顔を向けた少年は、頭に生えた獣耳に触れながらナニカに向かって囁いた。


 ×××


 世界は至極平和だ。空はいつものように上にあるし、青いし、鳩も通常通り自適に飛んでいる。其処に日常でない他の物は存在しない。これこそが日常だ。平和で変わり映えのしない、いつも通りという名の日常。


 今日はいつもより日が柔らかく、絶好のひなたぼっこ日和と言えそうだ。……流石に、道路のド真ん中で寝ることは出来ないが(というかやりたくもない)。


 いつもの通学路を歩いていたが、ふと足を止めた。自分でも何故止まったのかわからず、周りをぐるりと見回してみる。勿論、いつも通りの通学路で、何かおかしいところもない―――わけではなかった。いつも通りの通学路―――それは無かった。突然時代が変わったのかなんなのか、周りにあるのは長屋やしき建物。僕の視線の先にあるのは、随分と立派な神社。……こんな神社あっただろうか。


 「ん? なんだお前、ヒトか?」


 「はい……?」


 唐突な質問とぶっ飛んだ内容。ヒトかだって? 当然だ。そんなぶっ飛んだ質問を投げかけてきたのは、僕と同い年くらいの女だった。ただ、時代錯誤なことに着用しているのは着物。黒地に紅葉の柄が入っている―――相当お高いんだろう。


 「こんなトコにヒトたぁ、随分と珍しいのが来たな! どーやって来たんだ? 蒼空(そうくう)にゃ会ったのかい?」


 結構なスピードで話しながら、着物女はずかずかと近付いてくる。その度に彼女の腰辺りまである黒髪が揺れ、距離が一気に縮まって行く。僕らの距離が30センチ程度になった時、始めて気付いた事が二つ。


 一つ、彼女の耳が人間のそれでないこと。

 二つ、腰のあたりから黒い尾が生えていること。

 結論―――こいつ人間ではなさそうだ。


 「……誰だよ、その蒼空ての」


 「んー? ああ、あの神社の持ち主さね。あたしゃ尾裂(おざき)黒羽(くれは)。少年、お前はなんて言う?」


 「根井(ねい)(とき)……」


 「あっはっは、時ねぇ。ちーっとダラダラ喋り過ぎじゃないかい?」


 「……別に」


 要するにやる気がないと言いたいんだろうが、無責任・適当・無気力の三本柱で成り立っている僕に、やる気のある少年漫画のような主人公然とした態度を求めちゃいけない。だってそんな奴はいないんだし。


 「顔と口調が合わねぇってあいつが言ってたが―――正にその通りだなぁ、根井時」


 「はぁ……」


 尾裂はげらげらと女とは思えないほど豪快に笑っている。胸がやたら大きいところをみると女で間違いないと思うんだが、ヒトじゃなさそうだし、性別がないんだろうか……。わからないものはわからない。理解するつもりも無いので、頭の中のゴミ箱へ投げ入れる。


 「眉目秀麗、とでもいうのかねぃ―――」


 長くなりそうなので他に行こう……この女話が長い……。とまあ、他に行くにもいつもの通学路じゃなさそうなので、アテはない。行く場所がないので、仕方なしに神社へ行ってみることにした。ふと振り返って尾裂へ目を向けてみると、誰も居ない空間にひたすら話を投げていた。……残念だ。


 ふと空を見上げる。空の色は不気味な赤―――夕暮とも違う色。例えるなら血だろうか。


 「待て待て待て待て、あたしを置いて行くっていうのかい? あんたにゃ情がねぇってこと?」


 またも凄まじい勢いで話す尾崎。……後ろからがっしり肩を掴まれていて、逃げるのは無理そうだ。


 「いや別に。蒼空とか言う奴に話聞こうかって」


 「蒼空に? アポなしで入れるとでも?」


 「アポいるのか?」


 「当然さね。あっははは! 常識知らず―――と言ってやりてえところだがまあ仕方ない!! 乗りかかった船さね、あたしが間に入ってやろう」


 「……どーも」


 アポが必要とか面倒臭過ぎる。……まあ、後で交渉する羽目にならずに済んだだけ―――マシなのか。


 「もしもし蒼空君ー、お前今暇かね」


 ……尾崎の奴何をし始めるかと思えば携帯である。しかもスマフォと来た。時代錯誤もいい加減にしてくれ、着物にスマフォは相性良くないぞ。―――とまあ、しばらく「うんうん」と頷いていた尾崎だったが、会話を終えると此方を見てぱっと笑顔を作る。


 「いいってさ。行くぞ我らが空狐(くうこ)の元へ!」





 三千年生きた化け狐―――それを空狐と呼ぶ。無論、人には程遠い存在。時には信仰の対象となり、時には嫌悪される。そんな存在を祀り、信仰の対象としているのが、この神社だ。

 一介の学生に過ぎない根井時は、やたらと大きな神社を見て面倒臭そうに肩を落とした。その隣で愉快そうに笑っているのが尾崎黒羽。根井とは違い、彼女は“人間ではない”。それは一目瞭然―――本来人間と呼ばれる生き物には無い黒い尾に、頭に生えた黒い狐の耳。見るからに人間ではない。人間の耳がついていないところをみると、コスプレでもないとわかる。


 「やぁ、黒羽。いらっしゃい。……てあれ、君は人間……だね。これはこれは、珍しい」


 「……」


 どうも、の一言も返さず、目の前に現れた少年をじっと見つめる根井。少年は、尾崎同様に着物を着ていた。深い赤を基調とした、派手ではなく品のある、綺麗な着物。柄という柄も特にない。


 「えと、じっと見ないでくれるかな……僕、その目苦手で……」


 と、少年は石柱の影に隠れる。彼は苦笑しながら口を開いた。


 「取り敢えず、二人ともいらっしゃい。……えっと、少年A君―――」


 「根井時……。あんたが“蒼空”って奴?」


 「うん、そうだよ」


 蒼空はにこにこと笑って見せる。愛想が良い―――というよりは周りに敵を作らない笑顔だった。


 「ようこそ、迷い人君」

根井時君

阿夜琉様提供キャラクター


尾崎黒羽さん

パッセロ様提供キャラクター


凄まじいキャラ崩壊すいませんでした。

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