片腕を探す少女の像 前編
「次の七不思議は、体育館前にある片腕の無い少女の像が片腕を探して彷徨うと言う話ですね」
陽もほとんど沈み、そろそろ人の少なくなってきた校舎。
彼方に僅かなイエローが輝く瑠璃色の空を窓の向こうに移した廊下を歩きながら私達は次の怪談の場所へと向かっていた。
今度の舞台となる場所は体育館前の像である。
「そういえばあの銅像ずっと気になってたんだー。ちょっと不気味な雰囲気あったしね」
「そうですね。こうやって七不思議になっていると言うのは妥当なのかもしれません」
「ユーレイちゃんの時にもあったの?」
「体育館前の像ですよね。確かあったと思いますよ。多分、この学校の七不思議の中だと一番古い部類だと思います」
「そうなの」
ユーレイの教室はユーレイちゃんが考えた怪談なのだが、それ以前から七不思議と言う体ではなかったにしろ、その怪談は存在していたと言う。
まぁ、それは妥当だろう。
私も体育の時間で体育館に向かうときによく見るが、ああいう曰くありげな像には勝手な言われが付くものだ。
私達は体育館前、少女の像の前へと辿りついた。
台座の上に固定された少女の像の顔立ちは幼い。
その少女の右手は何かをつまもうとするような動作のまま固定されており、その左手は肘から先がぼっきり折れて無くなっていた。
その少女の服装は、貫頭衣を思わせるヒラヒラとした動きを感じさせるドレスのような服を纏っている。
「しっかし、彷徨い歩く所を目撃するにしてもどうしたら良いのかしらね」
「そう、ですね……さっきみたいな事は出来ませんし」
「人目も多いしねー」
その通りだった。
体育館にはいまだ部活生が多く残り、また、少女の像を動かすような釣り餌も無い。
さて、どうしたものか……
「こう改めて見てみると、ちょっと痛々しいね……治してあげたいよ」
不意に陽巫子がそう呟いた。
「そうですねぇ……」
ユーレイちゃんが静かに陽巫子の言葉に肯定する。
「どうします? とりあえず、次の怪談に行きますか……?」
「そうしましょうか……」
私達は刀子の言葉に頷くと静かにその場を後にした。
陽巫子とユーレイちゃんがまだ気掛かりそうに少女の像を眺めている。
まぁ、すぐについて来るだろう。
そう思いながら、私たちはグラウンドへと足を進めたのだった。