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理科室の箒 前編

「音楽室では結局何もなかったねー」

「次は理科室ですか。楽しみですねー」

陽巫子とユーレイちゃんの声高らかな会話を聞きながら、私達は理科室へり着いた。

道中、すれ違った生徒の何人かが此方に不自然な視線を投げ掛けてきたのだが、それはどういう訳なのか。

というか、ユーレイちゃんは他人に見えているのかどうか。

なんてことがふと頭を過ったが、頭の中から追いやり歩みを進めた。

「理科室に着きましたね」

天原高校一階の一番端に理科室はあった。

扉を開き、教室に入るとややひんやりとした空気が肌を撫でた。

「理科室の怪談は確か……」

「箒がひとりでに動き出して掃除を始める、ですね先輩!」

「そうね」

しかし、当たり前だが箒がひとりでに掃除をしているなんて場面に遭遇できるはずもなかった。

「あれ、開いてる」

私は掃除用具入れへと目を向けて違和感を感じた。

掃除用具入れの扉が開いていたのだ。

単純に、この部屋を掃除した生徒が締め忘れていたのかもしれない。

しかし、直感的な違和感を感じた。

もっとも、肝心の掃除用具入れの中――そこには何の変哲も無い二本の掃き箒と塵取りが並んでいるだけだが。

「箒さーん、動いてくださーい」

ユーレイちゃんがそんな事を言いながら箒をツンツンと突くが、ピクリとも動く気配はない。

「やっぱり動きませんねぇ」

なんて呟く刀子。

まぁ、動くとは思ってないし、それが普通だ。

「もう次行きましょうか……」

そう呟いた私の袖を陽巫子がツンツンと引っ張った。

「何よ?」

「ねーねー波、ちょっと良いかな」

それから私と陽巫子は小声で話し合った後、私は掃除用具入れの蓋を閉めると口を開いた。

「さてと、七不思議の三番目って何だっけ?」

「えっと、ちょっと待ってくださいね」

「えー、もう次に行くんですかせんぱーい!」

なんて会話をしながら、理科室の出口へ向かって足を進める。

不意に、ガチャン! という音と共に陽巫子が大きな声で言った。

「あっ、間違えて鉛筆削りをひっくり返しちゃったー。でも誰も見てないからマーイーカー」

そのまま、私達は手近な机の影に身をひそめた。

それから暫くじっと息をのんで掃除用具入れを見つめていると、不意に、ガン! と音が響いた。

それは、掃除用具入れが内側から叩かれるような激しい音だ。

「まさか、ね」

ガン! ガン! バン!!

内側からの打撃で、扉が激しく開かれる。

そして、一本の箒がせっせとはねとぶように陽巫子がこぼした鉛筆の削りかすへと近づき、かすを掃きだした。

「本当に動いたぁぁあああああああ!!!!???」

陽巫子の叫び声にビクンと身を跳ね上がらせ、急いで掃除用具入れに戻ろうとする箒をユーレイちゃんがキャッチした。

「あ、キャッチできるんだ」

「離せ! もういっそ殺せ!」

よく分からない物騒な事を言いだす箒。

「殺さないわよ」

私はそう一蹴するとユーレイちゃんに捕まりながらも必死でもがく箒へと近づいた。

「アンタすごいわね。箒なのに動けるの?」

「そうだ! 動ける箒はワタシだけだしな! ワタシはスゴイ箒なのだ」

若干胸を張る様に反り返る箒。

その言葉を聞いて、この箒の扱い方が若干つかめてきた。

「そのすごさを見込んで、ウチ来ない?」

「ウチ、とは?」

「学校怪奇同好会の部室よ」

「あ、それいいですね先輩!」

別に害は無さそうだし、理科室に置いていてまた誰かに見られたら面倒くさそう。

そういう事から、ユーレイの教室に置いておけば安心だと思ったのだが……。

「ウム……しかしそれは」

乗り気ではない様子の箒。

「ヘッドハンティングよ? アンタの腕を見込んでのお願いなんだけど……」

そう嘯いて見せるが、箒の態度は芳しくない。

「理科室から離れたくない理由があるんですか?」

刀子がそう丁寧に尋ねると、箒は言いにくそうに口を開いた(?)。

「実はワタシ、理科準備室の塵取りに恋をしているのだよ」

「こ、恋!?」

思わず全員が声を上げる。


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